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箸を持ったまま、見ていると、火のついた薪を持って走った一人は、薪倉の中へはいって山と積んであるそこの柴へ火をけ始めた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火をけた人は赤い火のめらめら燃えてゐる籠を脊負はされ、めかけ持つた人は二つの首のある青い蛇にからだを卷かれて、せつながつてゐた。
思ひ出 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
そこで、この一座の対話が、江戸城の本丸へ火をける、その実際の手段方法にまで進んで行ったのは怖るべきことです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此後の重右衛門の歴史は只々たゞ/\驚くべき罪悪ばかり、抵当に取られた自分の家が残念だとて、火をけて、獄に投ぜられ、六年経つて出て来たが
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
知り合いの按摩あんまがラムプの石油をいて火をけながら、煙にせて逃げ迷っている……と思う間もなく床柱に行き当って引っくり返ってしまった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
村人らは自分のけた火を消し出したが、生憎あいにくの追風にはもう手の尽しようもなく拡がった火の手は、四方から暗い煙と、粉を吹く火の手にかわり
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして、むかしこの町の庄屋に双生児ふたごがあって非常に仲がわるく、兄弟が争った末についに弟は家に火をけた。そのため町は焼土と化して全滅した。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
「親分さん、仲吉さんを助けて下さい。あの方は私の家へ火なんかけるやうな、そんな方ぢや御座いません」
下から火を放って台を焼けば、恐れて孔叔(悝)をゆるすに決っている。火をけようではないか。火を!
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そうじゃアない、火をけたのだそうです、火を放けて燃え上ろうとする処を揉消もみけしたんだそうです」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
空襲警報が解除になった真夜中に、土蔵の裏のタキ木のつまった納屋へ火をけてしまったのである。
淪落の青春 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あなた、火をけたのは他には誰もゐない、その女の人だつてことは、まつたく確かなことです。
高輪の私の宅に私が放火した事もなく土方にけさせた事もありませぬ。何処から火が出たかも存じませぬ。私は屡〻しば/\火事に遭いましたけれどもかつて放火はいたしませぬ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
海賊どもは、船をこわして火をけたらしい。これでポルトガル人の意図がはっきりした。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから麦焦しの長三角形もやはりその草屋に打ち付けると同時に其家それに火をける。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「さては、おのれ、浜川さまを手にかけた上、この家に、火をけたも、われだな!」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
初めは火をけた藁を投げ込んだので、中までは入らなかったのである。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もはやお土蔵くらへは火がいているのだ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
け棄ての火もぎはを伝へば
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「が、火事はけ火であるぞ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まづ私は森林に火をけて
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
火をければ、ぱっと、海が燃えそうだ。重油船からにじみ出る油の皮膜が、マーブルペーパの紋様もんようみたいに薄くひろがっている。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火をけた人は赤い火のめらめら燃えてゐる籠を背負はされ、めかけ持つた人は二つの首のある青い蛇にからだを巻かれて、せつながつてゐた。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
「ふーん。そうして、そのける奴は誰だい。焼けない先の火事がわかるくらいなら、その放け火をやる奴も、あらかじめわかっていそうなものだ」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かりそめにも火をけたものは、自分の家であろうと、他人の家であろうと、仮借かしゃくもなく火刑ひあぶり、——燃え上がらなかった場合でも死罪は免れようがなかったのです。
長々と欠伸あくびでもしながら……あの紳士の横ッつらぱたいたらドンナ顔をするだろう……この町に風上から火をけて、火の海にしてしまったらドンナに綺麗だろう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あいつども、火ばけよったけん、こぎゃんこつばしとると、焼け死んでしまうたい」
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを取ろうとする謀計たくみわなを知って、実はお前さんが又作をくびり殺し、火をけて逃げた時、其の隣の明店あきだなで始末を残らず聞いていたのだ、んと悪い事は出来ねえものだねえ
そして、少しでも厭な素振を見せると、それなら考があるから呉れなくても好いと威嚇おどすのがならひ。村方では又火でもけられては……と思ふから、仕方なしに、言ふまゝに呉れて遣る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
また競馬やオートレースの見物人の中に火をけたり暴動を起すことが好きな人物がまぎれこまないとは言われない。この二ツがいつダブることによって騒動になるか誰も今後の保証はできん。
家庭教師のだつた部屋へと行つたのです——(事がどういふ風に進んでゐたか、幾分知つてゐたらしく、その女にうらみを抱いてゐたのですね)——そして其處にあつた寢臺に火をけたのです。
おのがけ火の、すさまじい炎の渦に、押し捲かれそうになって、逃げに逃げて、やっと辿りついた崖の上、目の下は、わにも棲みそうな血潮の流れで、それが、フツフツと沸きたぎっているから
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
問 大正三年十月四日午前四時頃其空家に火をけたか。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「野に火がけられたのだ、早くここを落ちのびろ。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「さあ、いらはいいらはい。ナガサキ南京なんきん手品ある。太夫さん、椿嬢ちんじょう蓮紅嬢れんこうじょうかけ合いの槍投やりなげ、火をけて籠抜かごぬけやる。看板に嘘ない」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで甲府の内外の人気もどうやら気抜けがしたようであったところに、はしなく士民の間に火をけたような熱度で歓迎される催しが一つ起りました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けました。僕は、ユダです。ユダより劣った男です。僕は、愛している人たち全部を裏切ってしまいました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ところで、主人を怨んでいる者はないだろうか、火ぐらいはけ兼ねないという——」
たれあって春見丈助が火をけたとは思いませんので、どうも食倒くらいたおれの奴を長家へ置くのが悪いのだ、大方おおかた又作はくらい酔ってらんぷを顛倒ひっくりけえしたのだろう、まア仕方がないと云うので
「よしよし。わかっとるわかっとる。ところで、どういうわけで火をけたんか」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なあに、貴様が火をけると言つたんぢやねえ。貴様が火を放けようと、放けまいと、それにやちやんと、政府おかみといふものがある。貴様も一度は、これで政府おかみの厄介に為つた事が有るぢやねえか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
けたな! 火を! したな! 火を! ほ、ほ、ほ!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼がけた火は、もう消すにも消しようのない大きなほのおのかたまりとなって、炎々と、あやしい火の粉を星月夜へ噴きあげている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし、つまらん、江戸城の本丸まで届く火でなければ、けても放け甲斐がごわせぬ、いたずらに町人泣かせの火は、放けても放け甲斐がないのみならず、有害無益の火じゃ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三の日と八の日——それは三軒の酒屋へ火をけた日——とは市五郎も気がつきません。
貴様の頭から石油をブッ掛けて、火をけて、狂いじにさせる設備がチャントこの家の地下室に出来かけているんだ。俺の新発明の見世物だがね……グラン・ギニョールの上手を行く興行だ。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
西洋の人情話の作意さくいはどうも奥深いもので、証拠になるべき書付かきつけ焼捨やきすてようと思って火をけると、其の為に大切の書付が出るようになって居りますが、実に面白く念の入りました事で
枯れ野の一端にけた火は、音を立てて、四十人以上もいる人々の顔をこがした。焔は、朝の太陽へ、背を伸ばして、届きそうにまでなった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらん限りの綺麗な絵の具に火をけて、大空一面にブチ撒いたようで、どんなパノラマきでもアンな画は書けなかったろう。眼がくらんで息が詰まる位ドエライ、モノスゴイものであった。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしくわしい訳は知りませんが、人相書の次第を聞いて見るに、沼田の下新田の後添のおかめさんが、御領主土岐様の御家来原丹治という人と悪い事をし、うちへ火をけて逃げたとか云うので
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)