“微(ほのか)” の例文
螢の薄光で、微(ほのか)に見える其の姿は、何樣(どん)なに薄氣味(うすぎみ)惡く見えたろう。眼は妙に爛(きら)ついてゐて、鼻は尖(とが)ツて、そして鬚(ひげ)は銀(しろがね)のやうに光ツて、胸頭(むなさき)を飾ツてゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
戸叩く音は後(のち)も撓(たゆ)まず響きたりしが、直行の裏口より出でて窺(うかが)ひける時は、風吹荒(ふきすさ)ぶ門(かど)の梅の飛雪(ひせつ)の如く乱点して、燈火の微(ほのか)に照す処その影は見えざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
三社樣(さんじやさま)の御神輿(おみこし)が、芳原(よしはら)を渡(わた)つた時(とき)であつた。仲(なか)の町(ちやう)で、或(ある)引手茶屋(ひきてぢやや)の女房(にようばう)の、久(ひさ)しく煩(わづら)つて居(ゐ)たのが、祭(まつり)の景氣(けいき)に漸(やつ)と起(お)きて、微(ほのか)に嬉(うれ)しさうに、しかし悄乎(しよんぼり)と店先(みせさき)に彳(たゝず)んだ。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
宮越、原野、上田などは雨中に過ぎた。福島の町に入ろうとする手前で雨は晴れた。夕日が遠い山の頂を射て藍青の峰が微(ほのか)に匂う。福島は川を挟み山を負うた心地よい町である。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
欧洲近世の傾向は吾人の知り得る所にあらず、然れども沙翁劇と称する一派及之と同性質の古劇の外は、漸く写実的精巧の極点にまで進まんとしつゝある由は、微(ほのか)に聞得たる事実なり。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
言(い)ふ所(ところ)は勿論(もちろん)、秩序(ちつじよ)なく、寐言(ねごと)のやうで、周章(あわて)て見(み)たり、途切(とぎ)れて見(み)たり、何(なん)だか意味(いみ)の解(わか)らぬことを言(い)ふのであるが、何處(どこ)かに又(また)善良(ぜんりやう)なる性質(せいしつ)が微(ほのか)に聞(きこ)える、其言(そのことば)の中(うち)か、聲(こゑ)の中(うち)かに
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
悪心むらむらと起(おこ)り、介抱もせず、呼びも活(い)けで、故(わざ)と灯火(ともしび)を微(ほのか)にし、「かくては誰(た)が眼にも……」と北叟笑(ほくそゑ)みつゝ、忍(しのび)やかに立出(たちい)で、主人(あるじ)の閨(ねや)に走行(はしりゆ)きて、酔臥(ゑひふ)したるを揺覚(ゆりさ)まし
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黒焦に削れたる幹(みき)のみ短く残れる一列(ひとつら)の立木の傍(かたはら)に、塊(つちくれ)堆(うづたか)く盛りたるは土蔵の名残(なごり)と踏み行けば、灰燼の熱気は未(いま)だ冷めずして、微(ほのか)に面(おもて)を撲(う)つ。貫一は前杖(まへづゑ)拄(つ)いて悵然(ちようぜん)として佇(たたず)めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
言(い)う所(ところ)は勿論(もちろん)、秩序(ちつじょ)なく、寐言(ねごと)のようで、周章(あわて)て見(み)たり、途切(とぎ)れて見(み)たり、何(なん)だか意味(いみ)の解(わか)らぬことを言(い)うのであるが、どこかにまた善良(ぜんりょう)なる性質(せいしつ)が微(ほのか)に聞(きこ)える、その言(ことば)の中(うち)か、声(こえ)の中(うち)かに
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)