居所いどころ)” の例文
「それにしても、又八さんは、今どこにいるのか、分らないではございませぬか。おばば様は、居所いどころをごぞんじなのでございますか」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに親方のお角はどういう虫の居所いどころか、頭ごなしに米友をののしって、水を浴びせかけないばかりにして、米友を追い出させてしまいました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、それは晩まで待ってくれたまえ、まっ昼間にあげては、悪漢どもにわざわざぼくらの居所いどころを知らせるようなものだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
みんなは、「もう、いままで、なんの便たよりもないのだから、そのおんな居所いどころのわかりっこはない。」といいました。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いづれ殺す、けては置かぬが、男の居所いどころを謂ふまでは、いかさぬ、殺さぬ。やあ、手ぬるい、打て。しもとの音が長く続いて在所ありかを語る声になるまで。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今度はいずれ江戸に居所いどころがきまったら、お佐代さんをも呼び迎えるという約束をした。藩の役をやめて、塾を開いて人に教える決心をしていたのである。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ビルマの方に行っておったもんだから、平林や鳥尾にもきょうはじめて会ったくらいだよ……ところで祥子さんはマレーの叔父さんの居所いどころを知ってますか?」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
こら給仕お前は永田の居所いどころを知っているくせに、俺にかくしているのだろう。早くつれてこい。もう三十分のうちにつれてこないと、お前の首をとってしまうぞ。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
居所いどころを知らさないで、お今が浅井のところへ出入りするようになったのは、それから間もなくであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
では、寺田さんの居所いどころを教えてくれませんか。わたしはもと、寺田さんと一緒に、子分同様に働いてた者ですが、急に用が出来て、寺田さんを尋ね廻ってるんです。
相手の居所いどころがわからないから、ロス氏は新聞広告を媒介ばいかいに意思を伝えるより方法がなかったのである。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
たれに聞き合わすればあの人の様子や居所いどころがわかるだろうなどいろいろ考えながら帰りました。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あるいはその居所いどころが山間僻地にあって、国家の監督の目から漏れ、公民の戸籍に編入せられるの機会を得なかったものもありましょうが、多くは一旦公民となっていたものが
それから町の湯に入って、帰るや否や寝てしまった。あくる日は、学校から戻ると、机の前へ坐って、しばらく書見をして見たが、急に居所いどころが変ったせいか、全く気が乗らない。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
米原氏はすっかり、その製作順序を順序的にのみ込み、今いうように見物をするでもなく、仕事場を自分の居所いどころにして、彫り物と首っぴきで、一向専念に勉強されたのであった。
その癖、お徳はその男の名前も知らなければ、居所いどころも知らない。それ所か、国籍さえわからないんだ。女房持か、独り者か——そんな事は勿論、くだけ、野暮やぼさ。可笑しいだろう。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はい、承知致しました。もし悪魔が、私の知っている悪魔で御座いましたならば、屹度退治して差上げまする。けれども私の考えではこれは悪魔の仕業ではないと思います。私は悪魔の居所いどころ
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
久しく居所いどころさえも不明であった達雄のことを聞いて、三吉も身を起した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世の中のかたきです。はい、何もかも、すっかり、全部、申し上げます。私は、あの人の居所いどころを知っています。すぐに御案内申します。ずたずたに切りさいなんで、殺して下さい。あの人は、私の師です。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
そしたら直ぐ居所いどころ分って浜寺の方いまたかけて来る。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
でもあっちのピグマイオス共の居所いどころを御覧なさい。
うわさにさえ居所いどころらせなかったあにの千きちだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
笠なしに山寺から豆腐買いに里へられた、小僧の時より辛いので、たまりかねて、蚊帳の裾を引被ひっかついで出たが、さてどこを居所いどころとも定まらぬ一夜の宿。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、金吾が彼にもつ疑いと同じに、彼が日本左衛門の居所いどころを知っていたのも一ツの疑問でなければなりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついに、青服夫婦あおふくふうふは、このまちにいたたまらなくなって、あるばん、どこかへ、居所いどころをくらましてしまいました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
そんならお前、友さんの居所いどころを教えて頂戴、米友さんはどこにいるか、そこへわたしを連れて行って頂戴、ね、そうでなければあの人を、ここへ呼んで来ておくれ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「知らないよ。ほんとうに知らない。ぼくたちも博士の居所いどころを探しあてたいと思っているのだ」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
りよはお許は出ても、敵を捜しには旅立たぬことになって見れば、これで未亡人とりよとの、江戸での居所いどころさえめて置けば、九郎右衛門、宇平の二人は出立することが出来るのである。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
友達の着物を持逃したりして居所いどころがなくなったところから、小野田の店へ流れて来たのであったが、その時にはもうすっかりさめてしまって、もとの小心な臆病ものの自分になり切っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けれども自分の方から進んで島田の現在の居所いどころを突き留めようとまでは思っていなかったので、大した失望も感じなかった。彼はこの場合まだそれほどの手数てかずを尽す必要がないと信じていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたし達の居所いどころに気を附けて御覧なさい。
「いつでも来い! 出会ッてやる。——だが、おれは風のように天下を往来する緑林の人間、また会おうと言っても、滅多に日本左衛門の居所いどころがわかるまい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで、おんな居所いどころがわかったら、すぐにらせてくれるようにという約束やくそくで、このおとこあおいボタンを一つけてやりました。またあるのことでありました。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
男をしたふ女の心はいつも男の居所いどころぢやはやく、口をあけて、さあ、かぬか、えゝ、業畜ごうちく
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうだよ、わたしにだけ内密ないしょに言ってくれたの。江戸に居悪いにくければ旅へ出た時に、まだ仕事はいくらでもあるから、どこへか落着いたら居所いどころを知らせてくれと言ってくれましたよ。
「常に、居所いどころを明らかにしておくこと。毎月一回、警察へ出頭すること。よろしいか」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
猫は鼠をる事を忘れ、人間は借金のある事を忘れる。時には自分のたましい居所いどころさえ忘れて正体なくなる。ただ菜の花を遠く望んだときに眼がめる。雲雀の声を聞いたときに魂のありかが判然はんぜんする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人が皆その居所いどころ々々で不死になる。
仰げば、そこは盆のくぼのような低地、一面の灌木におおわれて、自分の居所いどころも、皆目見当もつきません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岸にはおしならべて柳の樹植えられたり。若樹のこずえより、老樹おいきに、居所いどころかわるがわる、月の形かからむとして、動くにや、風のぎたる柳の枝、下垂れて流れの上にゆらめきぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうかしてわたしの居所いどころを知らせたいと思って、手紙を書いてもらって二度ばかり、両国のあの宿屋へ沙汰をしたけれども、さっぱりその返事がないから、わたしはどうしようかと思っていた
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「このボタンをぼくにくれた、おんな居所いどころがわかって、そしていてみなければあげられない。そのおんなはおとうさんからもらって、大事だいじにしていたのをぼくにくれたのだから……。」とこたえました。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
「二少年の居所いどころはわかりましたか」
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
==は江戸に着いて、お千絵どのの居所いどころを求めつつあり。また予をたずねんとする者は、下谷したや月寺げつじ普化宗ふけしゅう関東支配所にて問われなば知れん==。としてある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ、参りましょう、お待遠様。八さんの居所いどころは、大抵もう知れました。」……
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武蔵は今、どこにいるのか、居所いどころしたためてないので、その書面からは知り得べくもない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では何でございますか、そのお千絵様の居所いどころさえ、お分りになればよろしいので」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
証人には宅助という者があるから、弦之丞とお綱の居所いどころを、知らないとはいわせない
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが、表方に詰め、奥の広い二間を、義士たちの居所いどころとして与えられている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃあ、武蔵様の居所いどころは、とうとう分らずじまいですか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)