“対峙:たいじ” の例文
“対峙:たいじ”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治30
林不忘2
ヴィクトル・ユゴー2
柳宗悦2
与謝野晶子2
“対峙:たいじ”を含む作品のジャンル比率
文学 > フランス文学 > 小説 物語7.7%
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.6%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)0.4%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
大高城のおさえとして、大高と対峙たいじしている敵の幾つかのとりでを、まるで無視して、奥地へ進んで来たのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわばいつのまにか、覇力はりょくの日本は、二つに割れ、その二つの対峙たいじが、いまや表面化してきたものといえる。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
啓吉は、草の繁った小暗いところまで行って、離れたまま対峙たいじしている蟋蟀たちの容子ようすをじいっと見ていた。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
平井山の本営を降りて、敵の牙城がじょう、三木の城に対峙たいじしている味方の前線布塁ふるいを、彼は一わたり見て帰って来た。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の、足立郡司判官代あだちのぐんじほうがんだいという肩書のある武蔵武芝と、新任の権守興世王、介ノ経基との対峙たいじである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに和して、今まで彼と対峙たいじして止どまっていた耶馬台の左翼の軍勢も、一時に鯨波ときの声を張り上げて彼の方へ押し寄せた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あるのこと、これも山岳地帯さんがくちたいであったが、わずかにたにをへだてててき対峙たいじしたことがあります。
しらかばの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何分、城壁ひとえの内と外では、両勢とも満を持して、いつでも火ぶたを切るばかりに対峙たいじしているところである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして、一間四方の湯槽の中で、両派を代表する親分と云われる二人の男は無造作のごとく対峙たいじしたのである。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いつとはなく、二人を対峙たいじさせ、二人を試合わせてみることに、世間が先に、興味や期待を大きくかもして、
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こうしきいをへだてていては、いつまでも対峙たいじしているような形でおもしろうない。打ちじろうではないか、一名おきに」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「粋な浮世を恋ゆえに野暮にくらすも心から」というときも、恋の現実的必然性と、「いき」の超越的可能性との対峙たいじが明示されている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
一代の奇賊烏啼天駆うていてんくと、頑張り探偵袋猫々ふくろびょうびょうとの対峙たいじも全く久しいものだ。
と、対峙たいじの陣をいた上、こう外交折衝に努めたので、呉もついに、火事泥的な手を出し得ずに、やがて一応、国境から兵を退いた。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両軍の両翼は、ジュナップの道とニヴェルの道との左右に延びている、そしてエルロンはピクトンに対峙たいじし、レイユはヒルに対峙している。
それと東西に対峙たいじして、あたかもそれを眼下に見下すが如く見えたのは、豪壮華麗な宮津方の桟敷であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつまた、蜀の内部にも、これ以上、勝敗の遷延せんえんを無限の対峙たいじにまかせておけない事情もある。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも頑強がんきょうなときわ葉で光線をさえぎり、それらトド松の間に散在する濶葉樹に対してたけだけしい勢いで対峙たいじし、圧迫していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
——そしてその前に槍と刀をぜて七本の切ッ先を揃えたまま対峙たいじしていた、七名も、ズズズズズと彼の動きに釣られて樹の幹を廻ってゆく。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうを攻めればおつきたらん、乙を討たんとせばへいかんという三かく対峙たいじ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斯くて敵味方は互に不安に駆られながら四日の間対峙たいじしていたが、五日目になって寄手は遂に城の囲みを解き、陣を拂って引き揚げたのであった。
ただ、前述の助演者の一団と、狂言方の一団とは、主演者の一団と相対峙たいじして、それぞれ専門的の研究を遂げ、一家を成している事を付言しておく。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
気のすすまない顔をして、孫策は中央の祭壇に向い、まるで対峙たいじしているように睨みつけていたが道主にうながされて、やむなく香炉へ香を焚いた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葭萌関かぼうかん四川しせん陝西せんせいの境にあって、ここは今、漢中の張魯軍と、蜀に代って蜀を守る玄徳の軍とが、対峙たいじしていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、きょうの対峙たいじでは、双方とも矢を大切にして、一本のむだ矢も射交わさなかったのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに官僚と政党とは代議政治の採用されている今日なお依然として国民の上に立ち、平氏と源氏、新田氏と足利氏の関係を以て対峙たいじしております。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
この建て直されたる旧ヨーロッパに対峙たいじし対抗して、一つの新しきフランスのひな形は描かれた。
この傲慢ごうまんと屈辱との対峙たいじから、どうして労働への喜悦があり、作物への愛情が起ろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
筑波の麓の柵に、同族を糾合して、羽鳥の良兼は、石井ノ柵の将門と、この冬中、対峙たいじしていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七匹いる猫のうち、勇敢で忠実な数匹が、怪しい闖入ちんにゅう者に向かって、背の毛を逆立ちにし、歯をむきだして、唸りながら、対峙たいじしていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そののちのこと、ぐんは、かわをはさんでてき対峙たいじしたのでした。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、土橋の上を仰ぐと、そこから自分をほうり飛ばした勢いのものが、何ものをもまじえず、真空の一圏内けんないを作って対峙たいじしていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
観測所のある山稜は、今一つの高山、一万三千七百フィートのマウナ・ケアとちょうど対峙たいじした形になっていて、その間に広い鞍部あんぶ地帯がある。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
狐塚の地と、指呼しこのあいだに対峙たいじしていた羽柴軍の第一陣地——堀秀政の東野山の兵も、今朝になって、ようやく、動くところあらんとしていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が舌を巻いて嘆じて云った——モチにも網にもかからない家康と、またふたたび、小牧こまきにおいて、にらみあいの対峙たいじをつづけるほかなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、本日出口をさぐりさぐりやっと地上へ出たが、やはりパ、ア両軍の対峙たいじは続いている。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ステンカラの粗末な洋服を着ており、昔し国定と対峙たいじして、利根川とねがわからこっちを繩張なわばりにしていた大前田の下ッでもあったらしく
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「曹操、何かあらん」という意気で、陳宮の諫めも用いず、総軍五百余騎をもって対峙たいじした。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
難波なにわの神崎川、中津川辺の湿地帯で、石山御坊の僧軍や、中島とりでの三好党の大兵などと対峙たいじして、連日、苦戦をつづけていた信長の耳に、
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庸三は長いあいだの荷物を卸して、それだけでもせいせいした気持だったが、当惑したのは子供のために頑張がんばろうとした姉と葉子との対峙たいじであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
父へかかって来る始末だった、村の悪童はみな彼に慴伏しょうふくし、彼と対峙たいじする者は
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍門に降ったとは云うものの、一度は憎しみをもって対峙たいじした薩摩の人間であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その昔、独断と畏怖いふとが対峙たいじしていた間は今日の「科学」は存在しなかった。
九代目X十郎と十一代目X十郎との勧進帳かんじんちょうを聞く事も可能であり、同じY五郎の、若い時と晩年との二役を対峙たいじさせることも不可能ではなくなる。
ラジオ・モンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはちょうど、斬るか斬られるか、力の互角している剣と剣との対峙たいじに似ている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剣閣のけんに拠って、鍾会しょうかい対峙たいじしていた姜維きょういも、成都の開城を伝え聞き、また勅命に接して、魏軍に屈伏するのやむなきにいたった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両軍は互いに銃をさしつけてねらい合い、互いに話し合えるほど間近に対峙たいじした。
パリーと同じく彼についても、二つの主義が相対峙たいじしていると言い得るのだった。
そうなると今対峙たいじしている敵味方の間の勝敗などは、どうでもよくなってしまう。
世界の変革と芸術 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
滝川一益は、桑名、蟹江かにえの二城を指揮して、早くから伊勢と対峙たいじしていたこの方面の主将であるから、彼の決裁けっさいに待っていいはずであるが、さて、
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たちは今三方の路から、敵の勢力と対峙たいじしていると云わなければならない。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
声のない気合い、張りきった殺剣さつけんの感がどこからともなくただよって、忠相は、満を持して対峙たいじしている光景さまを思いやると、われ知らず口調が鋭かった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれは、利家との対峙たいじと、風雪にとじられた北越の冬に、しびれを切らして、
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一八八九年の三月、アピア湾内には、米艦二隻英艦一隻が独艦三隻と対峙たいじし、市の背後の森林にはマターファの率いる叛軍が虎視眈々たんたんと機をうかがっていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「なに、むかしむしろを織っていた凡下ぼんげが、ついに漢中王の名を冒したというか。憎むべき劉備の不遜ふそん、あくまで、この曹操と互角に対峙たいじせん心よな」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝七郎は、敵とこういう対峙たいじになるとすぐ、胸のなかでそう悔いていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
——天慶てんぎょう年中、平将門たいらのまさかどが、関八州にあばれた頃は、ここに源経基つねもと対峙たいじしていたことがあり、またそれから八十年後の長元年間には
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陳宮、臧覇は、顔を見合わせた。けれど、なんの覚えはなくとも、敵と対峙たいじしている前線にあって、後方の司令部から疑惑されていると聞いては、不安を抱かずにいられなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
特に、大軍と思う先方には、光秀自身、筆をとって書いた。いま秀吉と対峙たいじしている中国の毛利家にたいして、直接、毛利輝元へ宛てて、その檄文にもいちばい想をらした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この庭のむこうに対峙たいじしている、伊賀侍のしわざにきまっている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蜀の諸葛亮しょかつりょう孔明と、魏の司馬懿しばい仲達とが、堂々と正面切って対峙たいじするの壮観を展開したのは、実にこの建興七年四月の、祁山きざん夏の陣をもって最初とする。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうでもない。あの智者——武勇もある一益が、桑名、蟹江かにえの二城の兵力で、伊勢の北八郡、南五郡の北畠の大軍と対峙たいじするので、もう支えきれぬと、悲鳴をあげての矢の催促だ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかず離れずに空と地とで対峙たいじしているのであります。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ブラゴウエシチェンスクと黒河をへだてる黒竜江は、海ばかり眺めて、育った日本人には馬関と門司の間の海峡を見るような感じがした。二ツの市街が岸のはなで睨み合って対峙たいじしている。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「今はよし」と、彼はうごき出した。魏の大軍をひきいて、洛陽の南へ出た。そこからさらに南方の陽陵坡ようりょうはには、すでに先発していた徐晃じょこう軍五万が敵に対峙たいじしている。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
——が、光秀の前面は、ある程度で停頓ていとんを見てしまった。しかしそれは主隊として、ここで彼が絶対に粉砕ふんさいして見せなければならない——敵の牙城八上との対峙たいじであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、彼女はじっと目を閉じていると、隣室で父の喜平と対峙たいじしている正勝がその口辺をもぐもぐさせながら、いまにも叫び出そうとしているさまがはっきりと見えるような気がするのだった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そこから十二、三町はある、新免家は河向うだった。その河を挟んで本位田家も古い郷士だし、新免家も赤松の血統だし、こういうことのない前から、暗黙のうちに、対峙たいじしている間がらであった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりでの物見は、手をかざしていた。この附近一帯は、今川領と織田領とが、丘一つ河一つ隔てて対峙たいじしている最前線なのである。秋が来ても春が来ても、ここには無事という日はないのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
互に対峙たいじして各多数の卒業生を出しておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
Rouartルアール 氏の所蔵せる東都名所御廐川岸驟雨おんまやがししゅううの図を見るに、前方にだいなる雨傘さして歩める人物をして対岸の遠景と対峙たいじせしめたるところ奇抜なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何年でもてき対峙たいじすることになる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、やがて敵と近づいて対峙たいじすると、
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イタリー歌劇の鬱然うつぜんたる巨頭、伝統をまもって、ワグナーと対峙たいじしたが、この人のイタリー歌劇は、その豊かな創作力と、変化きわまりなき種々相と、感銘の深さにおいて、何人も及ぶところでない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
待てといい、オオと答えたことだけで、もう双者は一髪をれぬ対峙たいじとなって、かれの長船おさふねと金吾の了戒りょうかいの一刀はなんどきでも、さやを脱して敵の血を吸わんとする用意を怠っておりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
決闘の勝敗の次第をお知らせする前に、この女ふたりが拳銃を構えて対峙たいじした可憐陰惨、また奇妙でもある光景を、白樺しらかばの幹の蔭にうずくまって見ている、れいの下等の芸術家の心懐にいて考えてみたいと思います。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こうして数刻を経た後ガロンは共産軍を組織し、陳独秀の率いた工人と苦力の暴民を合して南北の橋路に支那軍隊と衝突して河畔に対峙たいじし遂に市街戦となり、各国の陸戦隊が出動して共産軍は撃退され、一時間後上海は平穏に還った。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
国民と国民、国家と国家の名に由って軍事上、政治上にのみ同盟し扶助し合っていることは、結局、世界の上に二大強国、もしくは三大強国を作り、それらが互いに対峙たいじいがみ合って世界人類の平和と個人の平和とを破ることになります。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
——その真中の影が、殺気をはらんだこの対峙たいじを前にして、これはまた何としたことか、鷹揚おうようそのものといいたいふところ手で、ぬうッと立っているのを見定めた瞬間、何思ったか、主水之介の面ににんまりわいたものは不敵な微笑でした。
否、なお対峙たいじのまま、朝夕に、城外戦をくりかえしているなど——紛々ふんぷんと、情報そのものにも、雑音が入り、臆測おくそくが加わり、そして戦火が次第に、身近に寄って来つつあるという感覚だけが、たしかなもののように思われた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本南アルプスの白峰山脈、または甲斐駒山脈と並行している、この大火山線、純粋なる水成岩の大山脈(白峰山脈)と両々対峙たいじしているところは、日本山岳景でも、他に比類のないほど、水火両岩の区別が鮮明に、かつ両岩の特相が著しく対照されているところで
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
両軍とも小半日は葭蘆かろのあいだに、ブヨや蚊に喰われながらも、じっと対峙たいじしたまま、上将の号令を神妙に待っていたが、そのうちに、羽柴方の陣から美しい鞍を置いた一頭の放れ駒が、水を呑もうとしてか、ふいに円明寺川の岸へ跳ね出して来たのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「画は却々なかなかうまい。ゆうに初子さんの小説と対峙たいじするに足るくらいだ。——だから、辰子さん。僕がい事を教えて上げましょう。これから初子さんが小説の話をしたら、あなたも盛に画の話をするんです。そうでもしなくっちゃ、体がたまりません。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ですがモリス William Morris 以降、造形美の領域は、「美術と工藝」‘Arts and Crafts’という二つの言葉に分離され、また「藝術家」‘Artist’に対し「職人」‘Artisan’という言葉を対峙たいじ的に用いるようになりました。
民芸の性質 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小国辺隅へんぐう、しかも士馬少なく、産業もふるわない北国から起って、謙信が、甲州の強大武田家と、以来、殆ど年々といってよいほど、戦雲を曳いて対峙たいじすることになったのは、実に、この一羽の窮鳥が、越後へ入国したのが抑〻そもそも端緒たんちょである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦機はかんだ。また天来の声だ。常道ではいえない。戦前の作戦は、大事をとるから、ただ敗けない主義になりやすい。それがいざ戦に入ると疾風迅雷しっぷうじんらいを要してくる。また序戦では、参謀の智嚢ちのうと智嚢とは敵味方とも、いずれ劣らぬ常識線で対峙たいじする。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は藤川の高地に床几しょうぎをすえ、この日、情報によってすでに知っていた足利軍を、はるかな眼下に見つつ、ひそかに嗜虐的しぎゃくてきな笑みをふくんでいたのだが、ほとんど、予期していた対峙たいじも見ない電瞬のまに「高氏自身、単騎同様な小勢でこれへ来ました」との知らせに、
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくは幾度か一線で対峙たいじした中国兵に、上官の気を損ねまいと、正確な射撃を送り、四人まで殺し、十人ばかりの人々を傷つけたが、その戦闘後、自分の殺した生温かい中国の青年の死体の顔を、自分の軍靴で不思議そうに蹴起しながら、いつも、「さようなら」とだけは心中に呟くことができた。
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
とモグラ下士は、大きなせきばらいをして、“挺進せきていしんZ百十八歩兵中隊報告! われは、本地点において——本地点というのは、一体どこなんだか、こっちには、よくわからないから、そっちで方向探知してくれ、いいか——右地点において、敵の怪物部隊に対峙たいじして奮戦中なり。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
近藤勇方の手によって殺された伊東甲子太郎も、以前は同じ新撰組の飯を食ったもので、それが御陵衛士隊になって分裂し、新撰隊長近藤勇に隠然として対峙たいじする御陵衛士隊長伊東甲子太郎が出来上ったとは前巻に見えたし、伊東が近藤の謀計でおびき寄せられて、木津屋橋で殺された顛末も前冊にあるはず。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庸三は葉子の旅宿で、○や丶のついたその歌集の草稿を見せられたこともあったし、土を讃美した彼の著述をも読んだのであったが、葉子が結婚の約束をしたのが、この男であるような、ないような感じで、しかし何か優越感に似たものをもって彼と対峙たいじしていたのであったが、しばらくすると秋本は葉子にそこまで送られて帰って行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)