対峙たいじ)” の例文
旧字:對峙
と、対峙たいじの陣をいた上、こう外交折衝に努めたので、呉もついに、火事泥的な手を出し得ずに、やがて一応、国境から兵を退いた。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし何か優越感に似たものをもって彼と対峙たいじしていたのであったが、しばらくすると秋本は葉子にそこまで送られて帰って行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それでも頑強がんきょうなときわ葉で光線をさえぎり、それらトド松の間に散在する濶葉樹に対してたけだけしい勢いで対峙たいじし、圧迫していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「粋な浮世を恋ゆえに野暮にくらすも心から」というときも、恋の現実的必然性と、「いき」の超越的可能性との対峙たいじが明示されている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
七匹いる猫のうち、勇敢で忠実な数匹が、怪しい闖入ちんにゅう者に向かって、背の毛を逆立ちにし、歯をむきだして、唸りながら、対峙たいじしていた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼の運命と本心とは、突然やみにおおわれてしまった。パリーと同じく彼についても、二つの主義が相対峙たいじしていると言い得るのだった。
画は却々なかなかうまい。ゆうに初子さんの小説と対峙たいじするに足るくらいだ。——だから、辰子さん。僕がい事を教えて上げましょう。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
観測所のある山稜は、今一つの高山、一万三千七百フィートのマウナ・ケアとちょうど対峙たいじした形になっていて、その間に広い鞍部あんぶ地帯がある。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
答える暇などはない、そのとき彼は二人の敵と対峙たいじしていた。一人は槍、一人は刀で、刀を持ったほうは相当達者だった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
九代目X十郎と十一代目X十郎との勧進帳かんじんちょうを聞く事も可能であり、同じY五郎の、若い時と晩年との二役を対峙たいじさせることも不可能ではなくなる。
ラジオ・モンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
斯くて敵味方は互に不安に駆られながら四日の間対峙たいじしていたが、五日目になって寄手は遂に城の囲みを解き、陣を拂って引き揚げたのであった。
また「藝術家」‘Artist’に対し「職人」‘Artisan’という言葉を対峙たいじ的に用いるようになりました。
民芸の性質 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そののちのこと、ぐんは、かわをはさんでてき対峙たいじしたのでした。その結果けっか敵前上陸てきぜんじょうりく決行けっこうしなければならなかった。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただ、前述の助演者の一団と、狂言方の一団とは、主演者の一団と相対峙たいじして、それぞれ専門的の研究を遂げ、一家を成している事を付言しておく。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかるに官僚と政党とは代議政治の採用されている今日なお依然として国民の上に立ち、平氏と源氏、新田氏と足利氏の関係を以て対峙たいじしております。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一八八九年の三月、アピア湾内には、米艦二隻英艦一隻が独艦三隻と対峙たいじし、市の背後の森林にはマターファの率いる叛軍が虎視眈々たんたんと機をうかがっていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
声のない気合い、張りきった殺剣さつけんの感がどこからともなくただよって、忠相は、満を持して対峙たいじしている光景さまを思いやると、われ知らず口調が鋭かった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうなると今対峙たいじしている敵味方の間の勝敗などは、どうでもよくなってしまう。今までの軍国主義者や愛国狂は顔をあおくしてすみの方へ引き込んで行く。
世界の変革と芸術 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
Rouartルアール 氏の所蔵せる東都名所御廐川岸驟雨おんまやがししゅううの図を見るに、前方にだいなる雨傘さして歩める人物をして対岸の遠景と対峙たいじせしめたるところ奇抜なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
啓吉は、草の繁った小暗いところまで行って、離れたまま対峙たいじしている蟋蟀たちの容子ようすをじいっと見ていた。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
殺気をはらんだこの対峙たいじを前にして、これはまた何としたことか、鷹揚おうようそのものといいたいふところ手で、ぬうッと立っているのを見定めた瞬間、何思ったか
それに和して、今まで彼と対峙たいじして止どまっていた耶馬台の左翼の軍勢も、一時に鯨波ときの声を張り上げて彼の方へ押し寄せた。長羅の一団は彼を捨てて崩れて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ようやく事態を察して兵を収めた平家と、高見の嘲笑を投げていた宮側とは川をはさんで対峙たいじした。
古今東西の歴史の示すところ、絶対平和を持する国が他の強国と対峙たいじして優勝を制した例はない。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
さて、本日出口をさぐりさぐりやっと地上へ出たが、やはりパ、ア両軍の対峙たいじは続いている。ダイヤをやって、ロイスへの伝達を頼んだが、あの男はやってくるだろうか。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
工場が工場なだけに(軍需品工場なので)これらの組織が作られ易い危険な条件をそなえている。私たちは今三方の路から、敵の勢力と対峙たいじしていると云わなければならない。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
この女ふたりが拳銃を構えて対峙たいじした可憐陰惨、また奇妙でもある光景を、白樺しらかばの幹の蔭にうずくまって見ている、れいの下等の芸術家の心懐にいて考えてみたいと思います。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
煎餅せんべいの一枚ずつもあたえては、また克子と遊んでくれと頼むのであったが、相手は子供であると知りながら、なお腹にすえかねる思いで、大人げなく敷居をへだてて対峙たいじしていた。
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)
新撰隊長近藤勇に隠然として対峙たいじする御陵衛士隊長伊東甲子太郎が出来上ったとは前巻に見えたし、伊東が近藤の謀計でおびき寄せられて、木津屋橋で殺された顛末も前冊にあるはず。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
陳独秀の率いた工人と苦力の暴民を合して南北の橋路に支那軍隊と衝突して河畔に対峙たいじし遂に市街戦となり、各国の陸戦隊が出動して共産軍は撃退され、一時間後上海は平穏に還った。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ブラゴウエシチェンスクと黒河をへだてる黒竜江は、海ばかり眺めて、育った日本人には馬関と門司の間の海峡を見るような感じがした。二ツの市街が岸のはなで睨み合って対峙たいじしている。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
または甲斐駒山脈と並行している、この大火山線、純粋なる水成岩の大山脈(白峰山脈)と両々対峙たいじしているところは、日本山岳景でも、他に比類のないほど、水火両岩の区別が鮮明に
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一代の奇賊烏啼天駆うていてんくと、頑張り探偵袋猫々ふくろびょうびょうとの対峙たいじも全く久しいものだ。
ぼくは幾度か一線で対峙たいじした中国兵に、上官の気を損ねまいと、正確な射撃を送り、四人まで殺し、十人ばかりの人々を傷つけたが、その戦闘後、自分の殺した生温かい中国の青年の死体の顔を
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして、彼女はじっと目を閉じていると、隣室で父の喜平と対峙たいじしている正勝がその口辺をもぐもぐさせながら、いまにも叫び出そうとしているさまがはっきりと見えるような気がするのだった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
イタリー歌劇の鬱然うつぜんたる巨頭、伝統をまもって、ワグナーと対峙たいじしたが、この人のイタリー歌劇は、その豊かな創作力と、変化きわまりなき種々相と、感銘の深さにおいて、何人も及ぶところでない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
互に対峙たいじして各多数の卒業生を出しておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
剣閣のけんに拠って、鍾会しょうかい対峙たいじしていた姜維きょういも、成都の開城を伝え聞き、また勅命に接して、魏軍に屈伏するのやむなきにいたった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両軍の両翼は、ジュナップの道とニヴェルの道との左右に延びている、そしてエルロンはピクトンに対峙たいじし、レイユはヒルに対峙している。
軍門に降ったとは云うものの、一度は憎しみをもって対峙たいじした薩摩の人間であった。時代は変ったにしても、その間わずかに二年しか経ていない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
庸三は長いあいだの荷物を卸して、それだけでもせいせいした気持だったが、当惑したのは子供のために頑張がんばろうとした姉と葉子との対峙たいじであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こうして、一間四方の湯槽の中で、両派を代表する親分と云われる二人の男は無造作のごとく対峙たいじしたのである。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
絶望した私は遂にいさぎよく天罰応報と相い争い、相い対峙たいじしようと思うようになってしまいました。私の父は厳格な人です。勤勉な人です。悪を憎む事の激しい人です。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この傲慢ごうまんと屈辱との対峙たいじから、どうして労働への喜悦があり、作物への愛情が起ろう。そうしてこの冷たさの中から、どうして正しい工藝を期待することができよう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あるのこと、これも山岳地帯さんがくちたいであったが、わずかにたにをへだてててき対峙たいじしたことがあります。
しらかばの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それらが互いに対峙たいじいがみ合って世界人類の平和と個人の平和とを破ることになります。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
その昔、独断と畏怖いふとが対峙たいじしていた間は今日の「科学」は存在しなかった。
あるいはまた陸軍側の論者は清国の大動乱の時、列国と対峙たいじして勢力を張るがため、我は満州直隷ちょくれい福建ふっけん等に大兵を駐屯せしむる必要があるというそうであるが、そんなことをしては大変である。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
いいか——右地点において、敵の怪物部隊に対峙たいじして奮戦中なり。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この庭のむこうに対峙たいじしている、伊賀侍のしわざにきまっている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)