孤児みなしご)” の例文
旧字:孤兒
オオドゥウは中部フランスの寒村に生れた孤児みなしごであった。育児院で育てられて、十三歳からノロオニュの農家の雇娘で羊飼いをした。
知性の開眼 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
青きあわせに黒き帯してせたるわが姿つくづくとみまわしながらさみしき山に腰掛けたる、何人なにびともかかるさまは、やがて皆孤児みなしごになるべききざしなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それともう一つ、こういう気持ちが肝腎だ。なにしろその娘は、実母のない孤児みなしごなのだ。孤児といえば女の身として誰でも同情が湧く。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
通りすがりの坊さんが帽子をり、汚れたシャツを著た子供が四五人、一様に手を差し出して、『旦那、孤児みなしごに何かやっておくんな!』
「そうです、私はお寺で育ちました。生みの親の顔すら知らない孤児みなしごです、死ぬことなど、いつでも、そう怖いとは思っておりません」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五歳の猪太郎はその日以来全く孤児みなしごの身の上となった。しかし彼は寂しくはなかった。猿や狼や鹿や熊が彼を慰めてくれるからである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
にんじん(押入れの奥である。二本の指を口の中へ、一本を鼻の孔へつっこみ)——れもかれも、孤児みなしごになるってわけにゃいかないや。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
先々代の姪の子で、十歳とう孤児みなしごになったお夏に、佐渡屋の女主人や娘達、奉公人達まで殺す動機があろうとも思われません。
「誰もめんどうを見てやるものはないようよ。きっと孤児みなしごなのだわ。でも、決して乞食じゃないことよ。なりは汚いけど。」
いつも楽しそうに見えるばかりか、心ばせも至って正しいので、孤児みなしごには珍しいと叔父をはじめ土地の者みんなに、感心せられていたのである。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かくて孤児みなしご黄金丸こがねまるは、西東だにまだ知らぬ、わらの上より牧場なる、牡丹ぼたんもとに養ひ取られ、それより牛の乳をみ、牛の小屋にて生立おいたちしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いわけないころから寄るべない『孤児みなしご』の一人となって、有名なヴォーロホフ将軍の未亡人で、彼女にとっては恩人であり、養育者でありながら
李はこころよく引受けて、孤児みなしごの娘をひき取り、父の死体の埋葬も型のごとくに済ませてやったが、ここでふと思い付いたのが舞台の幽霊一件だ。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
送っている、どこへ行こうにも身寄りのない孤児みなしごもいる、また坐り込んでしまって梃子でも動かんという連中もあります。不思議な爺さんですよ。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あたくしの母が父の亡くなりましてからたった二年しか生きていなくて、あたくしが孤児みなしごになりました時に、あたくしを
二人ふたりとも、おなくなりなさったので……あなたは、孤児みなしごなんですね。」といって、ひとりでそうきめてしまいました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おれの聞くところじゃあ、なんでも旦那の遠い身内で、孤児みなしごになったのを引取られたらしい。そのとき十になるか、ならねえかだったということだ」
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これはお若の父も亡くなり、間もなく母も世を去ってたよりなき孤児みなしごとなったので、引き取り養女としたのであった(お若は金谷善蔵夫婦からはめいに当る)
孤児みなしごの父は隆三の恩人にて、彼はいささかその旧徳に報ゆるが為に、ただにその病めりし時に扶助せしのみならず、常に心着こころづけては貫一の月謝をさへまま支弁したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
またお菊は幼少の時孤児みなしごとなり叔父おじの家に養われたりしが、生れ付きか、あるいは虐遇せられし結果にや、しばしばよこしまみちに走りて、既に七回も監獄に来り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三つの時孤児みなしごになり、庄屋しょうやであった本家に引き取られた銀子の母親も、いつか十五の春を迎え、子供の手に余る野良のら仕事もさせられれば、織機台はただいにも乗せられ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして雨に濡れた汚い人家の灯火ともしびを眺めると、何処かに酒呑の亭主に撲られて泣く女房の声や、継母まゝはゝさいなまれる孤児みなしごの悲鳴でも聞えはせぬかと一心に耳を聳てる。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「あたいの仲よしにね、チョビ安さんって、とても元気な、おもしろい兄ちゃんがいるのよ。孤児みなしごなの」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
見れば根っから乞食こじきでもないようであるのに、孤児みなしごででもあるのか、何という哀れな姿だろう。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
併し私達は、名所旧蹟を見物するよりも、かうして二人連れで互に身の上話をしながら歩いてゐるのが楽しかつた。孤児みなしごの子供の姉弟きやうだいが知らぬ他郷に漂浪さすらふやうに——。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
アレは妾でも何でもない。気の毒な孤児みなしごだから、人から頼まれて世話しているだけだと申します。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かわいそうな孤児みなしごなんでございます、私だって、いつまでもあの子の後立てになっているわけには参りませんし、それに、私が後立てになっていたんでは、あの子のために末始終
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
孤児みなしごといふ何よりも不幸な身の上を艶子はどんなに嘆いてゐたか知れませんでした。
駒鳥の胸 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
僕は今或る家の家庭教師みたいなことを少ししてるんだが、その子供が実は孤児みなしごなんだ。お祖母ばあさんが一人あるけれど、それとも別々になって、叔父さん夫婦の家に引取られてるのさ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ジウラ王子は蒙古の王様のうちでも、成吉斯汗ジンギスカンのすゑだとよばれる名家の子でした。が、不幸にして早く、お父様になくなられ、それから又、近頃、お母様も死んで、孤児みなしごになつてゐました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それには「子供衆をおかわいがりになる味はまた別で」なんて言うけれど、この自分は孤児みなしごで、親はほんとうに子がかわいいのかどうか、実のところはまだそのへんもたいへんに疑っている。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ただなる燈火ともしびぞのぼりゆく……孤児みなしごたよりなきか。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
世に孤児みなしごの吾身こそ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのうち召使いの老人は弾傷が原因もとでこの世を去り私達二人の孤児みなしごは良人を失った老婆一人を手頼たよりにしなければならなかった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「左様なものではございませぬ。奥方さまのお慈愛から、市中まちじゅうの捨児や親のない孤児みなしごを拾うて、養ってやるお長屋でござります」
夫れを嘆く間もなく又た父が病床とこに就くように成りこれも二月ばかりで母の後を逐い、三人の児は半歳のうちに両親ふたおやを失って忽ち孤児みなしごとなった。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
繰返していうでもあるまい——あの炎の中を、主人のうちを離れないで、勤め続けた。もっとも孤児みなしご同然だとのこと、都にしかるべき身内もない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(正吉を指さす。)あの子供は長崎の百姓の息子で、父もない、母もない……孤児みなしごですから、わたくしが一緒に連れてあるいて育てているのです。
人狼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そんな事はありません。孤児みなしごになって困っているのを引取ったくらいで——それに気の良い女ですから、この恩を返したいと言いつづけていました」
御親切にいろいろあたくしに教えて下さる方々かたがたが、あたくしがフランスへ参らなければならないとお考えになるのですし、それに、あたくしは孤児みなしご
そのお嬢さんに結婚を申しこんでひどい目にあわせたために、当の令嬢は今孤児みなしごとしてこの町に暮らしております。
どんな孤児みなしごでも、寂しくないどころか、始終、母の手の愛撫をひしひしと感じられて安らかさに充ちているのです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……七つの年に孤児みなしごになってから、ずっと自分で働いて生きてきたんだ、おまえたちもそうすればいいんだ。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おばあさんは、じろじろと少女しょうじょのようすをて、孤児みなしごにしては、あまりきれいで、どことなく上品じょうひんなので、なんらかふにちないようにくびをかたむけていました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
『小公子』は、貧乏な少年が、一躍イギリスの貴族の子になるのにひきかえて、この『小公女』は、金持の少女が、ふいに無一物の孤児みなしごになることを書いています。
またたく間に三本も赤葡萄酒のびんをひろくもないユーブカの間へちょろまかすような芸当のないのもたしからしい(孤児みなしごだから面倒でないし、辛棒もするでしょう)
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さうして、言ふ事も有らうに、この頼を聴いてくれれば洋行さしてるとお言ひのだ。い……い……いかに貫一は乞食士族の孤児みなしごでも、女房を売つた銭で洋行せうとは思はん!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
がレオナさんを知つてからといふものは、艶子はお父さんやお母さんのお傍に居ると同じやうにうれしい日が送れるやうになりました。孤児みなしごといふことも忘れて暮すことが出来ました。
駒鳥の胸 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ところで平馬は早くから両親をなくした孤児みなしご同様の身の上であった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おかるは温室おんしつのなかの孤児みなしごのやうに
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)