ぎら)” の例文
お面のうわさにひきつけられて、レビューぎらいの人々までも、続々と見物に押しかけてきた。どの劇場も、レビューとさえいえば満員であった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
以前の負けずぎらいな精悍せいかん面魂つらだましいはどこかにかげをひそめ、なんの表情も無い、木偶でくのごとく愚者ぐしゃのごとき容貌ようぼうに変っている。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
幸子はうから裸の背中が見えるような、うしろの割れたワンピースを着ていたが、七月も廿五六日頃になると、雪子の洋服ぎらいまでがとうとう我を折って
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは間歇かんけつ的で乱雑で目的がなかった。書くことをか? だれのために書くのか? 人間のためにか? しかし彼は激しい人間ぎらいの危機にさしかかっていた。
お兼のことでからかわれてから、助なあこはすっかり人ぎらいになり、ますます独学に熱中した。ねごとの話はたちまちひろまったが、そのまますぐに忘れられた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御殿ごてんづくりでかしづいた、が、姫君ひめぎみ可恐おそろしのみぎらひで、たゞぴきにも、よるひる悲鳴ひめいげる。かなしさに、別室べつしつねやつくつてふせいだけれども、ふせれない。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ベートーヴェンも最初は耳疾を隠していたが、ついには社交を断念して、故意に「人ぎらい」にならなければならなかった。その頃の心境を彼はこう友人に書いている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
これほどまでも草木くさきは人間の心事しんじに役立つものであるのに、なぜ世人せじんはこの至宝しほうにあまり関心をはらわないであろうか。私はこれを俗に言う『食わずぎらい』にしたい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
恐らく最初の結婚で、男と云うものの醜くさを散々あじわわされた為、それが又純真なきずつやすい娘時代で一段とこたえたと見え、いやしがたい男ぎらいになってしまったのでしょう。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
真勢さんは一風変っているというところから、「哲学者」という綽名あだなで通っていた。アーメンぎらいな田辺のお婆さんや細君の前で真勢さんは別に宗教臭い話をするでもなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
読んで尊敬したものもあったが、読まずぎらいと言う方が当たっていた。しかしそれがたとい浮気な、その時々の感激であるにしても、葉子の感傷的な情熱をわらう理由もなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と慷堂は俺に紹介したが、軍人ぎらいの俺は、むっとした顔を、わざとそっぽに向けて
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
山嵐もおれにおとらぬ肝癪持かんしゃくもちだから、負けぎらいな大きな声を出す。控所に居た連中は何事が始まったかと思って、みんな、おれと山嵐の方を見て、あごを長くしてぼんやりしている。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう負けずぎらいな母がおようさんのあとにくると、父は急にめた人のようになって、為事にも身を入れ出した。そうして小梅の家は以前にもまして、あかるく、人出入りが多くなっていった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
(日本人の音楽ぎらいは、世界的に有名なものである。)
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ついてゐたりしが一個點頭此方に向ひ能くおよぐ者はおぼるゝとやら平常へいぜいよりして女ぎらひで學問にのみおこりなさるゝ和君あなたが計ず見染れば思ひの程も又つよは然ながら夫程まで御執心ごしふしんなる女兒をなごなら假令たとへ旦那樣御夫婦が何と仰が有らうとも此管伴このばんたうが引受て急度きつと和君の思ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
第一剛情で、負けずぎらいの癖に、別れた男に未練があるの、リリーが可愛くなったのと、しおらしいことを云うのが怪しい。彼奴あいつが何でリリーを可愛がるものか。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
片隅かたすみに引きこもっていて、人々を愛する——遠くから愛するのが、僕には適当なのだ。そのほうが用心深いやり方だ。人々をあまり近くで見ると、僕は人間ぎらいになる。
ブラームスは交際ぎらいの派手嫌いで、滅多めったに公の宴会にも出かけず、当時の音楽家の一つの仕事のようになっていた貴婦人付合などはもってのほかであったが、きわめて少ない友人との交際は
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それというのも彼女もまた場末とはいいながら、ひとかどの芸者の抱え主として、自身はお化粧ぎらいの、身装みなりなどに一向頓着とんじゃくしないながらに、抱えのお座敷着には、相当金をかける方だからであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
卓上電話に雪子を呼び出して(電話ぎらいの雪子は最初「水戸ちゃん」を代りに出したが、済まないが雪子ちゃんに出て貰ってほしいと云うと、不承々々に自分が出た)
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある人間ぎらいの男が言ったように、「彼は虐待されるのを喜んでるがようである。こういう不幸な人間の役を演じたとてなんの利益もない。人から忌みきらわれるばかりである。」
それは彼が女ぎらいだったからではなかった。かえって女をたいへん好きだった。