太閤たいこう)” の例文
「へッ、そんな気障きざなんじゃありませんよ、はばかりながら、太閤たいこう様と同じ人相なんだ、金が溜って運が開けて、縁談は望み放題と来やがる」
はやい。時勢は急流のように早い。太閤たいこう秀吉の出世が、津々浦々の青年の血へ響いて来た時には、もう太閤秀吉の踏襲とうしゅうではいけないのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太閤たいこうが有馬に遊びに来た時に、清涼院せいりょういんというお寺の門の前を通ってじょうだん半分に杖をもって地面の上を叩き、ここからも湯が湧けばよい。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
吾人はその経歴や功績を見てたどるべき道を知る、前弁士は清盛きよもり頼朝よりとも太閤たいこう家康いえやす、ナポレオンを列挙し吾人の祖先がかれらに侵掠しんりゃくせられ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
朝鮮征伐から分捕ぶんどって来た荒仏あらぼとけ、その時代の諸将の書翰しょかん太閤たいこう墨附すみつき……そんなような物をいろいろ見せられた幼時の記憶も長いあいだ忘られていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それから話は自然、いま家族を挙げて興福寺の成就院に難を避けて来ている関白のことに移って、太閤たいこうもめっきりけられましたな、などと玄浴主が言う。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
太閤たいこう時代からの家柄でね、先祖代々、異国と御直おじき商売というのをやっていたからなかなか金持よ、俸禄はたった七十俵五人扶持ぶちしきゃ貰っていねえけれど
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
曾呂利新左衛門の筆法を用いれば、太閤たいこうが猿に似たのではない、猿が太閤に似たのだというところであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
あのお方は殿様の推挙で立身をなされたばかりではない、その昔秀次公の御謀叛の時、太閤たいこう殿下のお疑いを蒙ったのを、よう/\赦して戴けたのは誰のお蔭か。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
実に味が有る。又左衛門大出来、大出来。太閤たいこうが死病の時、此人の手を押頂いて、秀頼の上を頼み聞えたが、実に太閤に頂かせるだけの手を此人は持っていたのだ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「さすがの太閤たいこうも、いつも一本やられているのだ。柚子味噌ゆずみその話くらいは知っているだろう。」
(新字新仮名) / 太宰治(著)
茶道の盛んであった時代においては、太閤たいこうの諸将は戦勝の褒美ほうびとして、広大な領地を賜わるよりも、珍しい美術品を贈られることを、いっそう満足に思ったものであった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
中国は長州の毛利一族、九州は薩摩さつまの島津一家、というような太閤たいこう恩顧の大々名のところへはこっそりと江戸から隠密おんみつを放って、それとなく城内の動静を探らしたくらいでしたが
着けたりといえどもさる友市ともいち生れた時は同じ乳呑児ちのみごなり太閤たいこうたると大盗たいとうたるとつんぼが聞かばおんかわるまじきも変るはちりの世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅経あほだらぎょうもまたこれを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
おれだって田舎の貧乏郷士ごうしせがれだし、豊臣秀吉という人は、水呑み百姓から太閤たいこう殿下といわれるまでになった、生れや育ちよりも、いまなにをするか、これからなにをしようとしているか
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
亡夫は麑藩げいはんの軽き城下さむらいにて、お慶の縁づきて来し時は、太閤たいこう様に少しましなる婚礼をなしたりしが、維新の風雲に際会して身を起こし、大久保甲東おおくぼこうとうに見込まれて久しく各地に令尹れいいんを務め
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
屏風を建廻たてまわして、武張ったお方ゆえ近臣に勇ましい話をさせ昔の太閤たいこうとか、又眞田さなだは斯う云う計略はかりごとを致しました、くすのきは斯うだというようなお話をすると、少しはまぎれておいでゞございます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうでありますから決して初めから大望を起こさずに、藤吉郎時代には必ずしも太閤たいこう様になる気ではなかったと同じように、おもむろに気永く修業する覚悟でやることが大切だと私は考えます。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
若き灼熱しゃくねつの恋があったら、桃山御殿の一部で、太閤たいこう秀吉の常の居間であったという、西本願寺のなかの、武子さんが住んでいた飛雲閣ひうんかくから飛出されもしたであろうし、解決は早くもあったろうに
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
けちな欲気なんか少しも持っていないのが太閤たいこうだ。
美味放談 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ある時、黒田如水が太閤たいこうさんに尋ねました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「——要するに、伯耆守が、世上一流の人物と見られたのも、徳川家という背景があったからで、太閤たいこうに従属したとて、何ができるものですか」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清盛きよもり頼朝よりとも太閤たいこう家康いえやす、ナポレオンが生まれなければ、他の英雄が生まれて天下を統一するであろう、非凡の才あるものが凡人を駆使くしするのは
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それから話は自然、いま家族を挙げて興福寺の成就院に難を避けて来てゐる関白のことに移つて、太閤たいこうもめつきりけられましたな、などと玄浴主が言ふ。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
せっかくの巻狩に臨み太閤たいこう様の松蕈まつたけのごとく、または東京市内の釣堀のごとく、当日の獲物が一区の平地に飼い附けてあっては、狂言の大名ならばいざ知らず
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
太閤たいこうの「奥山にもみぢふみわけなく蛍」の時に細川幽斎ゆうさいが持出した「武蔵野やしのをつかねてふる雨に蛍よりほかなく虫もなし」という歌は、出所曖昧あいまいの三十一字だけれども
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
我儘わがまま太閤たいこう殿下は「奥山に紅葉もみじ踏み分け鳴く蛍」などという句を詠じて、細川幽斎に、「しかとは見えぬ森のともし火」と苦しみながらうなり出させたという笑話を遺して居るが
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
利休は庭全体にそれを植えさせて、丹精たんせいこめて培養した。利休の朝顔の名が太閤たいこうのお耳に達すると太閤はそれを見たいと仰せいだされた。そこで利休はわが家の朝の茶の湯へお招きをした。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
人々は時の天下様である太閤たいこう氏素姓うじすじょうを知りたがった。羽柴はしば筑前守秀吉あたりから後のことは、誰でも知っていたが、その以前の彼を知りたがった。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋根をみつめておりますと、その上をう薄い黒煙のなかに太閤たいこう様のお顔が自然かさなって見えて参ります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
家康いえやすが旧恩ある太閤たいこう遺孤いこを滅ぼして政権を私した、そうして皇室の大権をぬすむこと三百余年、清盛きよもりにしろ頼朝よりともにしろ、ことごとくそうである、かれらは正義によらざる英雄である
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
是非が無いから、氏郷政宗を請待しょうたいして太閤たいこうの思わくを徹することにした。氏郷は承知した。政宗も太閤内意とあり、利家の扱いとあり、理の当然で押えられているのであるからもどくことは出来ぬ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何かの折、すでに太閤たいこうとなった秀吉と、大納言だいなごん家康とが、小牧のいくさ語りに、その日のことを回顧しあって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋根をみつめてをりますと、その上をふ薄い黒煙のなかに太閤たいこう様のお顔が自然かさなつて見えて参ります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
太閤たいこうの亡き後を、さながら落日の美しさのように、よけいに権威を誇示して見せている秀頼や淀君の大坂城と、関ヶ原の役から後、拍車をかけて、この伏見の城にあり
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしが桃花坊へ上りました後々も、一慶さまや瑞仙さまが奥書院に通られて、太閤たいこう殿と何やら高声で論判をされるのが、表の方までもよく響いて参ったものでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
征韓せいかん大役たいえきにかかってからとみに落陽寂寞せきばくの感ある大坂城の老太閤たいこうに比して、今や次の時代を負う人と目されている徳川家康の前へ出るなど、余りにも、この山の子らには
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしが桃花坊へ上りました後々も、一慶さまや瑞仙さまが奥書院に通られて、太閤たいこう殿と何やら高声で論判をされるのが、表の方までもよく響いて参つたものでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
はやくも見こんでいるとおり、後年太閤たいこう阿弥陀峰頭あみだほうとうの土としてのち、孤立こりつ大坂城おおさかじょうをひとりで背負せおって、関東かんとう老獪将軍ろうかいしょうぐん大御所おおごしょきもをしばしばやした、稀世きせい大軍師だいぐんし真田幸村さなだゆきむらとは
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後にやがて子が太閤たいこうとなったときは大政所おおまんどころとあがめられたひとである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)