多日しばらく)” の例文
をとこ女蕩をんなたらしの浮氣うはきもの、近頃ちかごろあによめ年増振としまぶりけて、多日しばらく遠々とほ/″\しくなつてたが、一二年いちにねんふか馴染なじんでたのであつた。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
多日しばらく、誰の処へも彼奴あいつの影が見えねえで、洗桶あらいおけから火の粉を吹き出さないもんですから、おやおや、どこへ潜ったろう、と初手のうちは不気味でね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寶暦五年はうれきごねんはる三月さんぐわつ伊豆守いづのかみ江戸えど參覲さんきんありて、多日しばらく在府ざいふなされしをりから、御親類ごしんるゐ一同いちどう參會さんくわいことありき、幼君えうくん其座そのざにて
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
冬の日は分けて短いが、まだ雪洞ぼんぼりの入らない、日暮方ひくれがたと云ふのに、とどこおりなく式が果てた。多日しばらく精進潔斎しょうじんけっさいである。世話に云ふ精進落しょうじんおちで、其辺そのへんは人情に変りはない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
父は小坪に柴門さいもんを閉じ、城市の喧塵けんじんを避けて、多日しばらく浩然の気を養う何某なにがしとかやいえる子爵なり。その三郎年紀とし十七、才名同族を圧して、後来多望の麟麟児きりんじなり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう云えば成程何だわね、この節じゃ多日しばらく姿を見なかったわね、よくお前さん、それ、あのが通ると云うと、箸をカチリと置いて出窓から、おのぞきだっけがね。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弱輩な申分もうしぶんですが、頭を掻毟かきむしるようになりまして、——時節柄、この不景気に、親の墓も今はありません、この土地へ、栄耀えようがましく遊びに参りましたのも、多日しばらく
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ときに、長野泊ながのどまりの翌日よくじつ上野うへのへついて、つれとは本郷ほんがうわかれて、わたし牛込うしごめ先生せんせい玄關げんくわんかへつた。其年そのとしちゝをなくしために、多日しばらく横寺町よこでらまち玄關げんくわんはなれてたのであつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うしたをりよ、もう時雨しぐれころから、の一二ねん約束やくそくのやうに、井戸ゐどひゞきいた跫音あしおとひとなき二階にかいふすまくのを聞馴きゝなれたが、をんな姿すがたは、當時たうじまた多日しばらくあひだえなかつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫が旅行で多日しばらく留守、この時こそと思っても、あとを預っている主婦あるじならなおの事、実家さとの手前も、旅をかけては出憎いから、そこで、盲目めくらの娘をかこつけに、籠を抜けた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうした折よ、もう時雨の頃から、その一二年は約束のように、井戸の響、板の間の跫音、人なき二階の襖の開くのを聞馴ききなれたが、おんなの姿は、当時また多日しばらくあいだ見えなかった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この騒ぎは——さあ、それから多日しばらく、四方、隣国、八方へ、大波を打ったろうが
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
納ったか、悦に入ったか、気取ったか、弦光め、それきり多日しばらく顔を見せに来ない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でもまだ、蒼空あおぞらは見えなかったが、多日しばらくぶりで、出歩行であるくに傘は要らない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婿の名に書きかえるわけじゃないが、河野家においてさ、一人一人の名にして保管してあるんだから、例えば婿が多日しばらく月給に離れるような事があっても、たちまち破綻はたんを生ずるごとき不面目は無い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多日しばらく寄附よりつかなかった本郷の叔母さんのもとを訪ねたのがあった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多日しばらくでした、いや、その節は失敬じゃった。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)