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噎
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むせ
ふりがな文庫
“
噎
(
むせ
)” の例文
良人
(
おっと
)
の軽い口ぶりを聞いて、おいちは声をあげて笑いだし、大助に激しく頬ずりをしながら、そして
噎
(
むせ
)
るように笑いながら去っていった。
つばくろ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
陽に照され出して、やゝ
噎
(
むせ
)
っぽく眼の覚めるような匂いを立て始めた夏草の香をしばらく嗅いでいます。お秀が橋の下の文吉を尋ねて来ました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
蒼空は私に
泌
(
し
)
みた。私は瑠璃色の波に
噎
(
むせ
)
ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかつた。私は磯の音を私の脊髄にきいた。
ふるさとに寄する讃歌:――夢の総量は空気であつた――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
噎
(
むせ
)
びながら少しずつでも煙草を吸い、もっと酷くむせんでから私はむねの痛みの去るのを待ってまたはじめるのだ。
われはうたえども やぶれかぶれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
此蹴綱に
転機
(
しかけ
)
あり、
全
(
まつた
)
く
作
(
つく
)
りをはりてのち、穴にのぞんで
玉蜀烟艸
(
たうがらしたばこ
)
の
茎
(
くき
)
のるゐ
熊
(
くま
)
の
悪
(
にく
)
む物を
焚
(
たき
)
、しきりに
扇
(
あふぎ
)
て
烟
(
けふり
)
を穴に入るれば熊烟りに
噎
(
むせ
)
て大に
怒
(
いか
)
り
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
▼ もっと見る
露営地の外では、細長い
爬行
(
はこう
)
動物——この谷の主——東俣の川——が、
蜿
(
う
)
ねりながら太古の森林の、腐れ香に
噎
(
むせ
)
んで、どこまで這って行くことであろう。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
彼のそのやうな學問への身の入れ方のなかには、やがて失はるべき郷土への愛が
噎
(
むせ
)
んでゐるのかも知れない。
生活の探求
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
病院から追はれ、下宿から追はれ、其残酷な
待遇
(
とりあつかひ
)
と
恥辱
(
はづかしめ
)
とをうけて、黙つて舁がれて行く
彼
(
あ
)
の大尽の運命を考へると、
嘸
(
さぞ
)
籠の中の人は
悲慨
(
なげき
)
の
血涙
(
なんだ
)
に
噎
(
むせ
)
んだであらう。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
彼女の、咳払いとも何か云おうとする前ぶれともとれる
噎
(
むせ
)
び声を後にし、どしどし階段を降りた。足に力を入れ、一歩一歩降りるとき自分の目からも涙がこぼれた。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
土臭
殆
(
ほとん
)
ど
噎
(
むせ
)
ばんと欲す。父と
屋
(
をく
)
の内外を見れば、被害は屋瓦の
墜
(
お
)
ちたると
石燈籠
(
いしどうろう
)
の倒れたるのみ。
大正十二年九月一日の大震に際して
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
坂本は平野橋へ掛からうとしたが、東詰の両側の人家が焼けてゐるので、烟に
噎
(
むせ
)
んで引き返した。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
三日目ごろからますますこのホテルの中の
噎
(
むせ
)
ぶような重い空気が私には我慢しきれなくなった。
旅の絵
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
惨劇の室内に入ってみると、そうも広くないこの室は、なまぐさい血の香で
噎
(
むせ
)
ぶようであった。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
底知れぬ寂しい声が、石像にも似た彼の体の中に、木枯のように
噎
(
むせ
)
び泣いた。「永遠の孤独」は、その瞬間、彼を「無限の虚無」に突き落そうとするかのようにさえ思われた。
論語物語
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
そのことに気づくと、彼は自分が
噎
(
むせ
)
び泣きしているのであると思うより外はなかった。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
よし飯焚を
為
(
し
)
ないにしても、朝飯とお弁当は、お冷でも善い、菜が無いなら、漬物だけでも苦しうない、といふ工合で、食ぱんのぽそ/\も、
噎
(
むせ
)
ツたいと思はず、餌を
撮
(
つま
)
んだ手で、お
結
(
むす
)
びを持ツても
元日の釣
(新字旧仮名)
/
石井研堂
(著)
暗い路地にしゃがみこんで、寿女は
噎
(
むせ
)
び泣いていた。
痀女抄録
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
香
(
か
)
に
噎
(
むせ
)
び、
香
(
か
)
に
噎
(
むせ
)
び、あはれまた、
嬰児
(
あかご
)
泣きたつ……
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
燈油の燃ゆる匂いと、脱穀する籾の香ばしいかおりとがまじり合って、納屋の中はあまく
噎
(
むせ
)
っぽい匂いでいっぱいだった。
日本婦道記:春三たび
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
すべてが
噎
(
むせ
)
るようである。また
漲
(
みなぎ
)
るようである。ここで
蒼穹
(
あおぞら
)
は高い空間ではなく、色彩と密度と重量をもって、すぐ皮膚に圧触して来る濃い液体である。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
海に沿ふた
甃
(
いし
)
の路に靄の深い街燈の薄明り、夜の暗色と一緒に、
噎
(
むせ
)
つぽい磯の匂ひが、急にモヤモヤした液体のやうに、灯のある
周囲
(
まわり
)
に浮きながら流れはじめる。
海の霧
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
溢れ
噎
(
むせ
)
ぶ思いで、雄鳩は雌に挨拶した。雌は彼のする通り、熱した目で
凝
(
じ
)
っと彼を見た。美しく頸をふくらませて喉を鳴らした。嘴と嘴とがさわるのに、愛らしい妻は何故来ないのだろう。
白い翼
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
仆
(
たお
)
れている朽木からは、人の嗅覚をそそるような古い匂いがして、
噎
(
むせ
)
びそうだ、足が早いので、一丁も先になった嘉門次は、私を振り返って「
他所
(
よそ
)
の人足は使いづらくて困る」とブツブツ言いながら
槍ヶ岳第三回登山
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
そのわかわかしい
花穂
(
ふさ
)
の
臭
(
にほひ
)
が暗みながら
噎
(
むせ
)
ぶ
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
並居る人々はいつか面を垂れ、そのなかには指で眼を拭いている者さえあった、香苗は
噎
(
むせ
)
びあげながら座を起った。
城中の霜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
新吉は昨晩レストラン・マキシムで無暗にあおったシャンパンの酸味が
爛
(
ただ
)
れた胃壁から咽喉元へ伝い上って来るのに
噎
(
むせ
)
び返りながらテーブルの前へ起きて来た。
巴里祭
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
悔
(
くい
)
と死と真黒に
噎
(
むせ
)
ぶ血の底に歯を噛みながら
第二邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
それだけ云うと、かの女はしずかに立って次の間へ去った、そして、はじめて両手で面を掩いながら
噎
(
むせ
)
びあげた。
日本婦道記:春三たび
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「それで済むの、あんたも男じゃないか。男じゃないか」と
噎
(
むせ
)
び泣きながら、声もおろ/\に叫びました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
夕まぐれ、たれこめて珈琲のにほひに
噎
(
むせ
)
び
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
向う山に鳴く鳥は、ちゅうちゅう鳥かみい鳥か。おせんは切窓に
倚
(
よ
)
りかかって両手で
面
(
おもて
)
を
掩
(
おお
)
いながら
噎
(
むせ
)
びあげた、外ではなお暫く松造の唄うこえが聞えていた。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
わたくしは、物ごゝろついて以来、はじめて母に対する心からなる声を出して
噎
(
むせ
)
び泣くのでした。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
なにか見る、
夕栄
(
ゆふばえ
)
のひとみぎり
噎
(
むせ
)
ぶ
落日
(
いりひ
)
に
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
悠二郎の喉から嗚咽が
堰
(
せき
)
を切った。すると正篤が近寄り、彼の手を取って、そうして自分も
噎
(
むせ
)
びあげた。
桑の木物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
噎
(
むせ
)
ぶのを
堪
(
こら
)
え、涙を飲み落す秀江のけはい——案外、早くそれが
納
(
おさま
)
って、船端で水を
掬
(
すく
)
う音がした。復一はわざと瞳の焦点を外しながらちょっと女の様子を覗きすぐにまた眼を閉じた。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
はた、きしきしと泡たぎち
噎
(
むせ
)
びぬ、まさに
第二邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「たいそうお好きだったけれど、いまでは誰があの
畠
(
はたけ
)
の世話をしているかしら」眼が不自由で勘の悪い姑のことが思い遣られ、菊枝はつい声をしのんで
噎
(
むせ
)
びあげた。
日本婦道記:不断草
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
釣って来た若鮎の
噎
(
むせ
)
るような匂いが夕闇に泌みていた。そこへ浦子が
汗
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
※肉
(
にんにく
)
の黄なる花ちらちらと
噎
(
むせ
)
ぶとき
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「あなた、……おりっぱでございます」そう呟きながら、松尾はたえかねてくくと
噎
(
むせ
)
びあげた……やがて良人が凱旋すれば、そこにまた石が一つ殖えることだろう。
石ころ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
釣つて来た若鮎の
噎
(
むせ
)
るやうな匂ひが夕闇に
沁
(
し
)
みてゐた。そこへ浦子が
汗
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
くわとばかり
火酒
(
ウオツカ
)
のごとき
噎
(
むせ
)
びして
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
五郎は
噎
(
むせ
)
びあげながら手紙を父に渡した。そこへ解剖の済んだ死体が運ばれてきた——五郎はすぐに走り寄り、
手帛
(
ハンカチ
)
を水に濡らして、扮装の
白粉
(
おしろい
)
を静かに
拭
(
ぬぐ
)
い落した。
劇団「笑う妖魔」
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
寝転んで、始め鼻を当てると突き上げるやうな
蕊
(
しべ
)
のにほひ、それにも徐々に
馴
(
な
)
れて来る。五分、十分、かの女はまつたく馴れて来た。ひそかな
噎
(
むせ
)
ぶやうな激情が静まつて、
呑気
(
のんき
)
な放心がやつて来る。
川
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
うち
噎
(
むせ
)
びなべて忘れつ。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
信次は両手をついて
噎
(
むせ
)
びあげた、身命も捨て名も捨てた父のこころが、はじめてわかったのだ。
死処
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
さうして
噎
(
むせ
)
びあがる
東京景物詩及其他
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
稽古から帰って、表で二人のはなすのを聞いていたのだろう、眼にいっぱい涙を
溜
(
た
)
めながらはいって来ると、姉とならんでそこへ坐り、なかば
噎
(
むせ
)
びあげながらこう云った
日本婦道記:糸車
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
くわと
噎
(
むせ
)
ぶ。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
金之助がそう云うと、由利江はふいに両手で面を
掩
(
おお
)
い、耐えかねたように
噎
(
むせ
)
びあげた。そして抑えても抑えてもこみあげてくる
嗚咽
(
おえつ
)
のなかで、とぎれとぎれに云いだした。
落ち梅記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
噎
漢検1級
部首:⼝
15画
“噎”を含む語句
噎返
嗚噎
嗝噎
噎泣
膈噎
闐噎