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唯
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ト
唯見ると、
親父は
湯玉を
拂つて、
朱塗に
成つて
飛出した、が
握太な
蒼筋を
出して、
脛を
突張つて、
髯旦の
傍に
突立つた。
唯、
席に
着くと、
袖から
散つたか、あの
枝からこぼれたか、
鍋の
蓋に、
颯と
卯の
花が
掛つて
居て、
華奢な
細い
蕋が、
下のぬくもりに、
恁う、
雪が
溶けるやうな
薄い
息を
戦がせる。
唯、
其の
橋の
向う
際に、
淺い
岸の
流に
臨んで、
束ね
髮の
襟許白く、
褄端折りした
蹴出しの
薄ら
蒼いのが、
朦朧として
其處に
俯向いて
菜を
洗ふ、と
見た。
其の
菜が
大根の
葉とは
違ふ。
唯、
夫人の
居室に
當る、
甘くして
艷つぽく、
色の
濃い、
唐の
桐の
花の
咲いた
窓の
下に、
一人影暖かく
彳んだ、
少年の
書生の
姿がある。
其の
人、
形容、
都にして
麗なり、と
書いてある。
唯、
犬は
廊下を、
何處へ
行つたか
分りません。