唐櫃からびつ)” の例文
小堀平治はお園が探して居た唐櫃からびつに近付きました、馴れた眼で一と通り眺めると、何れの品に手を触れたか直ぐ判ってしまいます。
そのうちに最も人間に近く、頼母たのもしく、且つ奇異に感じられたのは、唐櫃からびつの上に、一個八角時計の、仰向あおむけに乗っていた事であった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは古代の唐櫃からびつといったものの形に相違ないが、底辺に楕円形の孔があいていて、そこから紐を通すようになっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大弐だいにの夫人の贈った衣服はそれまで、いやな気がしてよく見ようともしなかったのを、女房らが香を入れる唐櫃からびつにしまって置いたからよい香のついたのに
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
馬七頭と、大きな唐櫃からびつが五つ、かなり大量の荷であったが、それらが十一棟ある土蔵へ納められるのか、またそこからよそへ移されるのかわからなかった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが一種の神事となって今もすたれず、大祭当日には赤飯を入れた白木の唐櫃からびつを舟にのせて湖心に漕ぎ出で、神官が祝詞のりとを唱えてそれを水中に沈めるのを例とし
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三ツうろこの大紋打った素襖すおう烏帽子えぼしの奉行の駒を先にして、貝桶、塗長持ぬりながもち御厨子みずし、黒棚、唐櫃からびつ屏風箱びょうぶばこ行器ほかいなど、見物の男女は何度も羨望の溜息をもらしていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——二個の唐櫃からびつあずかりたる者、木地師の頭領富士見の将右衛門——さよう、こんなようにな」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
満廷の朝臣たちがおのゝき恐れ、或は板敷の下にい入り、或は唐櫃からびつの底に隠れ、或は畳をかついで泣き、或は普門品ふもんぼんしなどする中で、時平がひとり毅然きぜんとして剣を抜き放ち
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
りゅう生絹すずし、供えものの唐櫃からびつ呉床あぐら真榊まさかき根越ねごしさかきなどがならび、萩乃とお蓮さまの輿こしには、まわりにすだれを下げ、白い房をたらし、司馬家の定紋じょうもんの、雪の輪に覗き蝶車の金具が
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
闇太郎、浪路のなきがらを入れた唐櫃からびつの蓋に手をかけたが、三斎隠居を見て
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
慶長けいちょう十八年四月に頓死したが、本多上野介正純ほんだこうずけのすけまさずみが石見守に陰謀が有ったと睨んで、直ちに闕所けっしょに致し置き、めかけを詮議して白状させ、その寝所の下を調べさしたところが、二重の石の唐櫃からびつが出て
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
とうとう最後の唐櫃からびつが開かれたのだった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三日前奥蔵の二階の唐櫃からびつに入れてあった御朱印を取出し、その代り偽の御朱印を入れておいたので、泥棒はその偽物を盗んで行ったよ
舞台の左右に奏楽者の天幕ができ、庭の西と東には料理の箱詰めが八十、纏頭てんとう用の品のはいった唐櫃からびつを四十並べてあった。午後二時に楽人たちが参入した。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
千住を出てから、その荷駄には紀州家御用のしるしが立てられた。休之助がいったように、日光廟へ奉納の品だという名目で、馬七頭に大きな唐櫃からびつが五さおあった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鮮血地にして余りに悲惨ひさんな、殉難宗徒のありさまを見、唯一なるものを疑うようになり、おりから負傷した天童もろとも、戦死といつわって唐櫃からびつへ隠れ、原の城を脱出し
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
石の唐櫃からびつこもったように、われと我を、手足も縛るばかり、つつしんで引籠ひきこもってござったし、わたくしもまた油断なく見張っていたでございますが、貴下あなたいささか目を離しましたわずかひま
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先には、二、三人が松明たいまつを持ってあるいてゆくのである。貝桶だの、屏風箱びょうぶばこだの、唐櫃からびつだのという華やかな祝言の荷は何もないが、鎧櫃よろいびつ一つに衣裳箱ひとつはになわせている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに据えてある唐櫃からびつの蓋をあけようとするところを、半七はうしろからその腕を取った。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白黒の鯨幕くじらまく、四りゅう生絹すずし唐櫃からびつ呉床あぐら真榊まさかき、四方流れの屋根をかぶせた坐棺ざかんの上には、紙製の供命鳥くめいちょうをかざり、棺の周囲には金襴きんらんの幕……昔は神仏まぜこぜ、仏式七分に神式三分の様式なんです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丹塗にぬりに、高蒔絵たかまきえで波模様を現した、立派やかな、唐櫃からびつだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
林太郎と同じ寶物藏のこれは階下の唐櫃からびつの中に入れられてゐたのを救ひ出して身をきよめさせ、身扮みなりを改めてこゝへ呼出したのです。
くらの中も別段細かなものがたくさん置かれてあるのでなく、香の唐櫃からびつ、お置きだななどだけを体裁よくあちこちのすみへ置いて、感じよく居間に作って宮はおいでになるのである。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「されば」といったのは長崎左源太、一膝ズルよう進み出たが、「万事掛け合いは率直がよろしい。で、率直に申し入れる。二さお唐櫃からびつ頂戴に参った」威嚇いかくするような調子である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土蔵の二階は暗かった、番札をった長持ながもち唐櫃からびつや、小道具を入れる用箪笥ようだんすなどが、南の片明りを受けて並んでいる。お美津は北側の隅へ正吉をれて行って、溜塗ためぬり大葛籠おおつづらの蔭をのぞきこんだ。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三斎、パタリと、唐櫃からびつふたをとざして、叫ぶ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
林太郎と同じ宝物蔵のこれは階下の唐櫃からびつの中に入れられていたのを救い出して身をきよめさせ、身扮みなりを改めてここへ呼出したのです。
櫛箱ぐしばこ、お手箱、唐櫃からびつその他のお道具を、それも仮の物であったから袋くらいに皆詰めてすでに運ばせてしまったから、宮お一人が残っておいでになることもおできにならずに
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
人々困難したため、我ら二、三の重役どもが、表面にはくだんの盃を御嶽山おんたけさんの頂きに埋めたと云いふらし、実はひそかに宝蔵へしまい、盃を納めた唐櫃からびつへは、八百万やおよろずの神々を勧請かんじょうして堅く封印を施したため
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「武庫の二階にある唐櫃からびつでございますか」
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「もう一つ訊くが、この押入の唐櫃からびつに隱してあつた小判、支配人のお前は知つてゐるだらうな。——あれは何處から入つた金だ」
これまでから恋をささやく明らかなあかしの見える手紙などは来ていぬかとお思いになり、夫人の居間の中の飾りだなや小さい唐櫃からびつなどというものの中をそれとなくお捜しになるのであったが
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おや? と思ひながら奧へ入つて行くと、空箱やむしろを取除けた後に、見たこともない石の唐櫃からびつがあつて、そのふたに挾まれて——
平生からこの人の夏物、冬物を幾かさねとなく作って用意してある養母であったから、香の唐櫃からびつからすぐに品々が選び出されたのである。朝のかゆを食べたりしたあとで夫人の居間へ夕霧ははいって行った。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もとの土蔵の中へ引返すと、弥三郎は後ろの方にハネのけた唐櫃からびつの蓋の下から、ほんの少しばかりはみ出している品物を指さしているのです。
殺すつもりで土藏に仕掛けた唐櫃からびつ、お琴さんが氣分が惡くて、お前の娘のお萬が行つたばかりに、あのむごたらしい死にやうをしたのを忘れはしまい
お萬殺しの證據が見付かつたとか、何んとか言やあいゝ、家中の者が來たら、その唐櫃からびつを落した仕掛けの綱を見せて、馬鹿なことでも喋舌しやべつてゐてくれ
「この通りだ。煙草入は若主人を怨む者が、後で差し込んだのさ。その證據は皆んな揃つてゐる。それから、この蓋を唐櫃からびつの上へのせて貰ひたいが——」
「この通りだ。煙草入は若主人をうらむ者が、後で差し込んだのさ。その証拠はみんな揃っている。それから、この蓋を唐櫃からびつの上へ載せて貰いたいが——」
は『御藥草』と書いた御用の唐櫃からびつ、力任せにふたをハネると、中からさんとして金色こんじき無垢むく處女をとめの姿が現はれます。
唐櫃からびつ、大地の下——と隱す場所はいろ/\あつたことでせうが、その大部分は本人或は子孫に取り出され、再び流通貨幣の役目に就いたにしても、その幾部分かは
「それから、駿府から持って来た藤太の煙草入を貸して貰おうか。お吉の帯の間には紙入があるはずだ。それと、殺された主人の煙草入があれば、五千両の唐櫃からびつは開くだろう」
お今の答へから、唐櫃からびつを落した仕掛けの綱の結び目のことを、平次は考へてゐたのです。
お今の答えから、唐櫃からびつを落した仕掛けの綱の結び目のことを、平次は考えていたのです。
本來ならば守隨もりずゐの家の大難だが、有難いことに、此處に居る錢形の親分の注意で、三日前奧藏の二階の唐櫃からびつに入れてあつた御朱印を取出し、その代り僞の御朱印を入れて置いたので
その頃の相場では少しとうが立ちましたが、とにもかくにも、美しい娘盛りのお万が、土蔵の中、——ちょうど梯子段はしごだんの下のあたりで巨大な唐櫃からびつの下敷になって、石に打たれた花のように
細腕を取って引退ひきのけ、荒海の衝立をサッと前へ引倒すと、その背後うしろにあるのは「御薬草」と書いた御用の唐櫃からびつ、力任せに蓋をハネると、中からさんとして金色無垢こんじきむく処女おとめの姿が現われます。
その支配人の彌惣が、今朝小僧の定吉が土藏を開けて見ると、思ひも寄らぬ長持の奧——、かつてそんな物があるとも知らなかつた石の唐櫃からびつの蓋に首を挾まれて、蟲のやうに死んでゐたのです。
「ここへ来て唐櫃からびつを開けたくらいですから、知っていたに違いありません」