南瓜かぼちや)” の例文
茄子の紫がかつた苗、南瓜かぼちや糸瓜へちまのうす白く粉をふいたやうな苗が楕円形の二葉をそよがせてるのを朝晩ふたりして如露で水をかけてやる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
茄子なす胡瓜きうりに水をやつてゐる男が、彼女の姿を見て叮嚀にお辞儀をした。ダリヤが一杯咲いてゐた。藪蔭には南瓜かぼちやつるをはびこらせてゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
御茶漬すぎ(昼飯後)は殊更温暖あたゝかく、日の光が裏庭の葱畠ねぎばたけから南瓜かぼちやを乾し並べた縁側へ射し込んで、いかにも長閑のどかな思をさせる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「何でも今のうちのこつちや、先生で言ひ足らなんだら、大先生とでも言ふのやな。南瓜かぼちやかて小さいのより大きいのがよかろやないかいな。」
南瓜かぼちや甜瓜まくはうりと、おなじはたけにそだちました。種子たねかれるのも一しよでした。それでゐてたいへんなかわるかつたのです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
私は斯んな——くさつた南瓜かぼちやのやうな仕樣のない野郎だが、娘のお菊は生一本な育ちで、町内でも評判の孝行者で、その上珍らしいきりやうよしでしたよ。
「見やあがれ。おれだつて出たらめばかりは云やしねえ。」——南瓜かぼちやはさう云つて、脇差をはふり出したさうだがね。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
事が済んだあと、「今日はいよいよ南瓜かぼちやを食べる日になつたね」と、歳末の挨拶気分で云つた。
冬至の南瓜 (新字旧仮名) / 窪田空穂(著)
田越たごえ蘆間あしまほしそら池田いけださと小雨こさめほたる、いづれも名所めいしよかぞへなん。さかな小鰺こあぢもつとし、野郎やらうくちよりをかしいが、南瓜かぼちやあぢ拔群ばつぐんなり近頃ちかごろ土地とち名物めいぶつ浪子饅頭なみこまんぢうふものあり。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夏に入つてから、私の暮しを、たいへん憂鬱なものにしたのは、南瓜かぼちや畑であつた。
泥鰌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「辻堂のとこで手毬をついてゐられたで、こりやどうも可怪をかしい。昼とんびが手毬をつくやうなしをらしいことはすまいと、あの時思つただけど、何しろ俺達おらたち南瓜かぼちやみてェな馬鹿ばかりだで。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
朝霧が山村をめて、鶏の声が、霧の底から聞える、黄色い南瓜かぼちやの花に、まだ夢が残つてゐるかして、寝惚けた姿をしだらなく大地に投げ出してゐる、ぼツと白壁が明るくなる、森がうつすらと
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
南瓜かぼちやも飛び出せ、牛蒡も踊り出せ、この冥加めうがえな
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おや/\労症らうしやう南瓜かぼちや胡麻汁ごまじるつて。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
南瓜かぼちやつるいのぼる
晩夏 (新字旧仮名) / 木下夕爾(著)
我たとへ、柳に南瓜かぼちや
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「混ぜつ返しちやいけませんよ。親分が糸瓜に物を言はせるから、あつしは南瓜かぼちやに淨瑠璃を語らせたんで——」
そりや新聞に出てゐた通り、南瓜かぼちや薄雲太夫うすぐもだいふと云ふ華魁おいらんれてゐた事はほんたうだらう。さうしてあの奈良茂ならもと云ふ成金なりきんが、その又太夫たいふに惚れてゐたのにも違ひない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あちらの柱に草鞋わらぢ、こちらの柱に干瓢かんぺう、壁によせて黄な南瓜かぼちやいくつか並べてあるは、いかにも町はづれの古い茶屋らしい。土間も広くて、日あたりに眠る小猫もあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
けれども南瓜かぼちやはくやしくつて、くやしくつて、たまらず、そのばん、みんなの寢靜ねじづまるのをつて、べたにほつぺたをすりつけて、造物つくりぬし神樣かみさまをうらんで男泣をとこなきにきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
南瓜かぼちやへたほどな異形いぎやうものを、片手かたてでいぢくりながら幽霊いうれいのつきで、片手かたてちうにぶらり。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いかん。断じていかん」老人は南瓜かぼちやのやうな大きな禿げた頭を横にふりました。
中宮寺の春 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
夏に入つてから、私の暮しを、たいへん憂鬱なものにしたのは、南瓜かぼちや畑であつた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
やれ、南瓜かぼちやも飛び出せ、牛蒡も踊り出せ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うじの湧きさうな一人ぐらしですが、季節が來ると南瓜かぼちやだつて茄子なすだつて花が咲く、何時の間にやら三七郎の妾のお鮒に思ひをかけ、裏の物干臺の上へ登つて
あいつもはじめはそれが、味噌気みそけだつたんだらう。僕が知つてからも、随分ずゐぶんいい気になつて、くすぐつたもんさ。所がいくら南瓜かぼちやだつて、さう始終洒落しやれてばかりゐる訳にやきやしない。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
白紙に明礬みやうばんとか南瓜かぼちやの汁とかニガリとか、灰汁あくとかいふもので、何にか書いてあるんぢやないかと思つたんだらうよ。が、矢張り唯の白紙だ、隱し文字も何んにもなかつたらしい
あかあかと南瓜かぼちやころがりゐたりけりむかうの道を農夫はかへる
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
南瓜かぼちや頭をがつくり下げて、猪之吉は涙を呑むのです。これが喰はせ者でないとしたら、世の中にはんな途方もない純情家があるものかと、錢形平次でさへ不思議に思つた程です。