傲岸ごうがん)” の例文
「そのご不審は、座主にお目にかかってお話する。座主がお会いできなければ、それに代わるお方でもよろしい」傲岸ごうがんな態度である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、かの傲岸ごうがんなるスターベア大総督は、少数の幕僚と共にかろうじて一台の飛行機を手に入れ、一路本国さして遁走中とんそうちゅうだとのことである。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の性質は傲岸ごうがんで、みずから直情径行を誇り、いかなるばあいにも、自分で「よし」と信ずることをげたためしはなかった。
傲岸ごうがん、丹波の顔は汗だ。そのうめき声を後に……触るまいぞえ手を出しゃ痛い——唄声が、植えこみを縫って遠ざかっていく。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ぼくを見下ろすような姿勢のまま、山口はなぜか不遜ふそんな、傲岸ごうがんな、まるで狂信者みたいな態度で、肩口ではねかえすようにそうくりかえした。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
お秀に何か詰られるのに対して、彼はもじ/\して頭を掻いてみたり、耳を擦ってみたり、ふだん傲岸ごうがんな彼に似合わしからぬ様子を見せました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの傲岸ごうがん不遜ふそんのニイチエ。自ら称して「人類史以来の天才」と傲語したニイチエが、これはまた何と悲しく、痛痛しさの眼にみる言葉であらう。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
舞台上の翁を見た人は翁を全面的に、傲岸ごうがん不屈な一本槍の頑固親爺と思ったかも知れぬが、それは大変な誤解であった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
たちまち狙を外らすや否や、大夫人を射て、倒して、硝薬しょうやくの煙とともに、蝕する日のおもてを仰ぎつつ、この傲岸ごうがんなる統領は、自からその脳を貫いた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕方福岡からきて、明日は鹿児島へゆき、数日後はまた熊本へもどって、古藤たちの学校で講演するというこの男は、無口で、ひどく傲岸ごうがんにみえた。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
大井は四杯目のウイスキイを命じた頃から、次第に平常の傲岸ごうがんな態度がなくなって、酔を帯びた眼の中にも、涙ぐんでいるような光が加わって来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は、娘を呼び寄せてから、改めて瑠璃子に挨拶させた後、勝平はその見るからに傲岸ごうがんな顔に、恥しそうな表情を浮べながら、自分の息子を紹介した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
表面うわべは円転滑脱の八方美人らしく見えて、その実椿岳は容易に人にくだるを好まない傲岸ごうがん不屈のかんぼうであった。
そういう下賤な徒輩の傲岸ごうがんな叫び声と暴力的な戦いをなすのを好まないで、ただその熱烈な専心的な歌を、自分のためと自分の神のためとに歌いつづけていた。
別に証拠はないけれどもあるいはこれが最も穿うがった観察であるかも知れないけだし春琴が居常傲岸ごうがんにして芸道にかけては自ら第一人者をもって任じ世間もそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
傲岸ごうがんと、矜特きょうじとが作りだす頑固一徹の虚栄心が、歪曲されたヒロイズムとなって、男性的と錯覚される。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は、贔屓ひいきの女客をらさないようにしながらも、なかなか傲岸ごうがんで、しゃれのめしていたのだった。
彼は多年の習練によって、自己に不利な情報を受取った場合には、傲岸ごうがんな落ちつき払った微笑を浮べる術を会得していた。今もその微笑が彼の口辺にただよっているのである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その光景は正三に何かやりきれないものをつたえた。だが、翌朝になると順一は作業服を着込んで、せっせと疎開の荷造を始めている。その顔は一図に傲岸ごうがんな殺気を含んでいた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
そう云った途端に、ドアが外側から引かれた。そして、二人の召使バトラーしきいの両側に立つと見る間に、その間から、オリガ・クリヴォフ夫人の半身が、傲岸ごうがんな威厳に充ちた態度で現われた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
師匠も芸にかけては恐しく傲岸ごうがんで、人を人とも思わず、時には意地の悪い、眼に余るような仕打ちもあったそうだから、そこらから案外他人の恨みを買ったのではないかとも思われる。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ベートーヴェンの傲岸ごうがんさは数限りなく逸話を持っている。が、その性格の底流を成すものは、人並すぐれた「人間愛」であり、人なつかしさであったということも見逃してはいけない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
植民地常識から考えれば、之は、呆れる方がよっぽどおかしいのかも知れないが、彼はむきになって、遥かロンドン・タイムズに寄稿し、島の此の状態を訴えた。白人の横暴、傲岸ごうがん、無恥。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その唇にはさっきのにくにくしげな、ほとんど傲岸ごうがんな微笑がしぼり出された。
ジロリと傲岸ごうがんな横ざまの一瞥いちべつをくれながら出て行ったが、日本人タチバナ氏の方も別段将来英国大使館と御懇意に願おうとは思わなかったから、反っくり返って絨緞磨きの靴で闊歩かっぽしながら
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼らは獣力にすさまず。野猪の族と異りて、放肆ほうしなる残虐また悪戯を楽しみとせずといえども、なおその限られたる勢力を行わんことを喜びとなし、傲岸ごうがん尊大にして、子分に対しての親分たるを好む。
武士道の山 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私は傲岸ごうがんな男だ。私が彼女達を愛するのは女達の男道楽さめやすい色恋をシャム料理法と珈琲コーヒー色の皮膚に刺繍ししゅうした。いまでは犬でさえ逃げ出す女達に、私は容易に身をまかすことができるようになった。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
勿論さういふ少年もその時はじめて、そして最後に、従姉の裸身を目のあたりにしたのである。神聖といふ感じはなかつた。それよりも、人を人とも思はぬ傲岸ごうがんな権威が、全裸の後姿にあふれてゐた。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
直木のこの手を喰うと、私はまんまと、武蔵以上傲岸ごうがん不遜ふそん仮借かしゃくのない彼の木剣を、そら商売と大上段から貰ったに違いない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この傲岸ごうがんな丹波が、どうしてこう急に恐れ入ったのだろう……何かこの植木屋、おまじないでもしたのかしら、と、ふしぎに思って見ている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「むかしから傲岸ごうがんな男だったが、おれがめをかけてやるようになってからまるで摂関せっかんきどりだ、しかし、まあよい、そこが彼の役に立つところでもある」
大杉は直情径行でスパイの勤まるがらではない。もしその一本気いっぽんぎ肝癪かんしゃく傍若無人ぼうじゃくぶじん傲岸ごうがんが世間や同志を欺くの仮面であるなら、それは芝居が余り巧み過ぎる。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と、大井も角帽をかぶったなり、ちょいとあごでこの挨拶に答えながら、妙に脂下やにさがった、傲岸ごうがんな調子で
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昼間見た時の同大佐はヒンデンブルグ将軍を小型にしたような、イヤに傲岸ごうがん、冷血な人間に見えた。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
虚心平気に、勝平の云い分を聴けば、無躾ぶしつけなところは、あるにせよ、成金らしい傲岸ごうがんな無遠慮なところはあるにせよ、それほど、悪意のあるものとは思われなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二百七十一名という絶対多数を占めている会心と傲岸ごうがんの活気が、どの代議士の表情にも見える。吉田磯吉の精悍な顔にも、我が天下を誇る得意満面の色が掩いがたい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
傲岸ごうがん不屈当代比類なき大政治家ではあったが、流石の大河原伯爵も、こんな変挺へんてこれんな、どんな悪夢の中にも滅多に出て来ない様な、奇怪事に出くわしたのは生れて初めてだった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
聞くところによれば、彼女の技量はかの大独奏者、クルチスをも凌駕りょうがすると云われているが、それもあろうか演奏中の態度にも、傲岸ごうがんな気魄と妙に気障きざな、誇張したところがうかがわれた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
流派を超越せりと好みて傲岸ごうがんよそおう者
で——とにかく、小次郎の顔いろと態度は、すぐいつもの傲岸ごうがんふううちへかえしてしまったが、一瞬は、しどろもどろだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつもお城で、大老たいろうなど鼻であしらって、傲岸ごうがんそのもののような愚楽が、どうしたのか、ちゃんと座蒲団をおり、両手をついて、泰軒のまえに頭をさげている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おそらく気候風土の関係もあるのだろうが、一般に傲岸ごうがん粗暴であり、きわめて排他的な気分が強かった。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「うむ! 自殺かね。」さすがに荘田も、一寸誘われて眉をひそめたが、傲岸ごうがんな笑いで打ち消した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すると、クリヴォフ夫人は俄然傲岸ごうがんな態度に返って
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
身の丈七尺、眼は黄、おもては黒く、腰は熊のごとく背中は虎に似ている。しかもそれに盛装環帯せんそうかんたいして、傲岸ごうがん世に人なきが如き大風貌をしている。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常陸の府中の宿で、大助と応対したときの傲岸ごうがんなようすは、今の新島八十吉には微塵みじんもなかった。呼びかけられて抜き合せるかたちだけはみせたが、心はまるで闘志を失っている。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
天才的で傲岸ごうがんな山野が、桑田に相槌を打ったっけ。
無名作家の日記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
才気と羽振はぶりにまかせて、随分あぶない利得をうかがったり、気は弱いくせに、傲岸ごうがんに人を見たり、世間をもてあそたちの良人を、程よく締めて来た内助だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
訪れた八百助の顔を、出平は傲岸ごうがんにじろじろ眺めまわした
傲岸ごうがんな調子で吠えかけた。もう縄にかけた囚人めしゅうど扱いである。一角の言葉は、ピューッという風雨が横から声をさらって、ちぎれちぎれにかすれて聞こえる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)