仰向あふむけ)” の例文
抱起だきおこして「これ、俯向うつむき轉倒ころばしゃったな? いま一段もっと怜悧者りこうものにならッしゃると、仰向あふむけ轉倒ころばっしゃらう、なァ、いと?」とふとな
双肌もろはだ脱いだ儘仰向あふむけに寝転んでゐると、明放した二階の窓から向ひの氷屋のフラフと乾き切つた瓦屋根と真白い綿を積み重ねた様な夏の雲とが見えた。
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
玉にあたつて死んだものは、黒羽織くろばおりの大筒方の外には、淡路町の北側に雑人ざふにんが一人倒れてゐるだけである。大筒方は大筒の側に仰向あふむけに倒れてゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
グートいきをもかずにむと、ゴロ/\/\とのどまつたからウーム、バターリと仰向あふむけさまに顛倒ひつくりかへつてしまふ。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おゝおもたかつた」とすこあせばんだひたひ手拭てぬぐひでふきながら洋傘かうもり仰向あふむけ戸口とぐちいて、洋傘かうもりなか風呂敷包ふろしきづゝみいた。みなみ女房にようばうはおつたをつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
御米およね宗助そうすけのするすべてをながらたりいたりしてゐた。さうして布團ふとんうへ仰向あふむけになつたまゝこのふたつのさい位牌ゐはいを、えない因果いんぐわいとながいてたがひむすけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
致せ湯責ゆぜめ責水責鐵砲てつぱう海老えび熊手くまで背割せわり木馬もくばしほから火のたま四十八の責に掛るぞヤイ/\責よ/\との聲諸とも獄卒ごくそつ共ハツと云樣無慘むざんなるかな九助を眞裸まつぱだかにして階子はしごの上に仰向あふむけに寢かし槌の枕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ね、兄哥。死骸は仰向あふむけぢやなくて、俯向うつむけになつて居たさうぢやないか」
毎月まいげつ二十五日には北野の天神へ怠らず参詣まゐつてゐたが、或日雨の降るなかを弟子が訪ねてくと、五雲は仰向あふむけに寝て、両手を組んで枕に当てがひ、両足をあげて地面ぢべたを踏むやうな真似をしてゐる。
あるひは娘共むすめども仰向あふむけてゐる時分じぶんに、うへから無上むしゃう壓迫おさへつけて、つい忍耐がまんするくせけ、なんなく強者つはものにしてのくるも彼奴きゃつわざ乃至ないしは……
おつたはひらいたまゝ洋傘かうもりくりそば仰向あふむけいてだまつて井戸端ゐどばたつて手水盥てうづだらひに一ぱいみづんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仰向あふむけ轉倒ころばっしゃらう、なァ、いと」とふと、阿呆あはうどのが啼止なきだまって、「あい」ぢゃといの。(笑ふ)