二時ふたとき)” の例文
いな、これより二時ふたときばかりを熟睡のうちに過したるなり、醒むれば雑草ふかくとざせる、荒屋の塵うづたかき竹椽の上に横れる。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
わが傍には我を慰むる者のみゐたり、日は今高きこと二時ふたときにあまれり、またわが顏は海のかたにむかひゐたりき 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この猛毒を飲んでからもう二時ふたとき余りになっていたのでは、今更何としても助かりっこはありません。私は溜息を吐きました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
兼ガ遠州ノ秋葉ヘ参詣シタ時ニ、鳳来寺ニテ逢ッタト、ソノ時ハ綺麗きれいノナリデ居タト、オレノハナシヲシテ、二時ふたときバカリ休ンデ居テ別レタト聞イタ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されどそのままあるべきにもあらず、日も高ければいそぎて行くに、二時ふたときばかりにして一の戸駅と云える標杭しるしぐいにあいぬ。またまたあやしむこと限りなし。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでも京山の腹痛は二時ふたときばかりのうちに次第におさまって、午少し過ぎには、普段通りの元気に返っていた。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いやいやながらも二時ふたときあまりもかかって、紹安は、改めてていねいに掃除をし直し、そして父に向かって
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
老爺ぢいいてこして、さて、かはる/″\ひもし、きもして、嶮岨けんそ難処なんしよ引返ひきかへす。と二時ふたときほどいた双六谷すごろくだにを、城址しろあとまでに、一夜ひとよ山中さんちゆう野宿のじゆくした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いろ/\理窟りくつをなが/\と二時ふたときばかりも言っていてそれから船頭に探させ、死骸を船にげてから不届ふとゞきな奴だといって船頭を斬ってお仕舞いなさい、それから帰りみち船宿ふなやどに寄って
一時ひととき立つ。二時ふたとき立つ。もうひるを過ぎた。食事の支度は女中に言いつけてあるが、しゅうとめが食べると言われるか、どうだかわからぬと思って、よめは聞きに行こうと思いながらためらっていた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから二時ふたときほどの後に、鷲はふたたび海岸近く舞い下がって来たという注進ちゅうしんを聞いて、鉄砲方の矢崎伝蔵が直ぐに駈けつけたが、たまは左の羽をかすめただけで、これも撃ち洩らしてしまった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたつみの海につづける茜空あかねぞら二時ふたときにしてくもりに入りぬ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
二時ふたとき三時みときはぢ外聞ぐわいぶんおやにはへられたものならず
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
致させ裏手うらてあき長屋ながやへ入られおよ二時ふたときあまり過て又白洲しらすへ呼出されいまだ考へ出ずば又明日出よ尤も其方のたくは終日客も入來り騷々さう/″\しからんにより日々奉行所へいで明長屋にて思ひ出すまでかんがふべしと申わたされ一同さげられしかば三郎兵衞は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日は暮れて二時ふたときを経ぬ
寂寞 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
「おだてやしねえが、観音様の鐘は気に入った。だが、おいらの頼みはそんなんじゃねえ。観音様の鐘のように大きいおめえの体を、二時ふたときばかりままにさせてもらいてえのよ」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかるに二時ふたときしのぶをず、なみだながしてきううつたへ、只管ひたすらかごでむとわぶ、なんぢすら其通そのとほりぞ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
机竜之助の父の弾正だんじょうが、江戸からの帰りがけに通り合わせて、捨てられてからまだ二時ふたときとは経たない間に、それを拾い上げて、その時も今と同じように、弾正は江戸から馬で来て
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて一時いっとき二時ふたときの後には、たとえそれが娘の言うように、仮の別れであろうとも、この最愛の娘に別れねばならぬのかと思いますと、今更ながら年甲斐もなく狼狽ろうばいせずにはいられなかったのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二時ふたときばかり過ぎてから、主税が柏家の枝折戸を出たのは、やがて一時に近かったろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半時はんときはおろか、ことによったら一時いっときでも二時ふたときでも、垣根かきねのうしろにしゃがんだまま、おちンならなきゃいけませんと、ねんをおもうしたときに、若旦那わかだんな、あなたはんとおっしゃいました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
後町から大門前だいもんまえまで来る。道庵先生、しきりに胴ぶるいをつづけているが、そこは負惜み、もう二時ふたときもたてば夜が明けるだろう、夜が明けたら最後、善光寺の町をひっくり返してくれよう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ほほほ。あらたまっていうから、どれほどむずかしい頼みかと思ったら、いっそ気抜けがしちまったよ。二時ふたときでも三時みときでも、あたしの体でりる用なら気のすむまで、ままにするがいいさ」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
このままに二時ふたときいたら、微妙な、御声おこえが、あの、お口許くちもと微笑ほほえみから。——
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)