下心したごころ)” の例文
そしてちちのつもりでは、私達わたくしたち夫婦ふうふあいだ男児だんしうまれたら、その一人ひとり大江家おおえけ相続者そうぞくしゃもらける下心したごころだったらしいのでございます。
前々から廃業したいという下心したごころがあったところへ、こんな騒ぎがまたもや出来しゅったいしたので、父の市兵衛はいよいよ見切りを付けまして
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あんなぶざまな肥え方に私をなぞらえる天願氏の下心したごころが、私の心に伝わってとげを刺した。私は黙って冷たくなった珈琲をすすった。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
身をかくまって貰うところはないと思っていたので、わざと、ああした狂言をしたことで、いわば、今日あるための下心したごころであった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かう発刊の都度々々におくりこすは予にも筆を執らせんとの下心したごころあればなるべし、そを知りつつ取り置くは愚なり
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
下心したごころなしにでもなかったが、いわゆるラブレーの十五分間(訳者注 飲食の払いをしなければならない不愉快な時)
木村はその時にはもう大体覚悟を決めていた。帰ろうと思っている葉子の下心したごころをおぼろげながら見て取って、それを翻す事はできないとあきらめていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それはX号のように、下心したごころあるうわべだけの行為ではなく、本心から出た愛情のこもった行為であった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また、巻十(一八八九)の、「吾が屋前やど毛桃けももの下に月夜つくよさし下心したごころよしうたて此の頃」という歌は、譬喩ひゆ歌ということは直ぐ分かって、少しうるさく感ぜしめる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この話をする私の一つの下心したごころは、鼠にも大きな歴史があってそれがはやく忘れられ、もしくはおもい出そうとする者の無かったことは、少しばかり人間と似ているけれども
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それも考えてみれば未練とは言ってもやはり夜中なにか起こったときには相手をはっと気づかせることの役には立つという切羽せっぱつまった下心したごころもは入っているにはちがいなく
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
つうじければ山内先生の御出とならば自身に出迎でむかうべしと何か下心したごころのある天忠が出來いできた行粧ぎやうさう徒士かち二人を先立自身はむらさきの法衣ころも古金襴こきんらん袈裟けさかけかしらには帽子ばうしを戴き右の手に中啓ちうけい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下心したごころ。——天下てんか諸人しよにん阿呆あはうばかりぢや。さえ不才ふさえもわかることではござらぬ。」
孔雀 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それに加えて、その夜お千代は杉村を金のあるお客と見て、少しまとまった金の無心をしようという下心したごころから、その歓心を得るためには何事を忍んでも差閊さしつかえはないという心になっていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あさましい下心したごころも空蝉は知っていた。不幸な自分は良人に死に別れただけで済まず、またまたこんな情けないことが近づいてこようとすると悲しがって、だれにも相談をせずに尼になってしまった。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しなさるが、どういう下心したごころがあっての事かどうにもわたしには解りませぬ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は午前に失ったものを、今度は取り戻そうという下心したごころを持っていました。それで時々眼を上げて、襖をながめました。しかしその襖はいつまでってもきません。そうしてKは永久に静かなのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と東引佐が呼びかける時にはもう喧嘩の下心したごころが充分ある。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
下心したごころ
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実は忠通にもかねてその下心したごころがあったのであるが、自分のそばを手放すのが惜しさに、自然延引えんいんして今日こんにちまで打ち過ぎていたのである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「修理どの(勝家)には、御二男の信雄様を措いても、信孝様を、次のお世嗣よつぎに立てんの下心したごころと思わるる。はて、一波瀾ひとはらんはまぬがれまいぞ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船長ロロー役の警部モロは、下心したごころがあって、なかなか怪人ポーニンの意にしたがわない。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これはさきごろ降った春の斑雪はだれであろう、というので、叙景の歌で、こういう佳景を歌に詠んで、皇子に献じたもので、寓意などは無かろうのに、先学等は「下心したごころあるべし」などと云って
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ことにその夜は木村の事について倉地に合点させておくのが必要だと思ったのでいい出された時から一緒する下心したごころではあったのだ。葉子はそこにあったペンを取り上げて紙切れに走り書きをした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お大は三十四、五ですが、容貌きりょうもまんざらで無いので、さんざん玩具おもちゃにした上で何処かの田舎茶屋へでも売り飛ばそうという友蔵の下心したごころ
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
下心したごころとともに、耳たぶの紅から爪の先までみがきに研いていたことである。窓外の雪明りは豪奢ごうしゃえ、内の暖炉だんろはカッカと紫金しこんの炎を立てる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにが好意なものか。呂布の肚の底には、この徐州を奪おうとする下心したごころが見える、断ってしまったほうがいいでしょう」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利兵衛がどうしたものであろうと相談をかけるのも、所詮は半七の力をかりて、なんとか相手をおさえ付けて貰いたい下心したごころであることはよく判っていた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
長崎で手に入れてきた蛮種ばんしゅの薬草の胚子たねいて、一つまた暢気のんきな漢方医者どもを、あっといわせよう下心したごころとみえる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が瓦版を熱心に眺めていたのは、自分にもかたき討ちの下心したごころがある為であったことを半七は初めて覚った。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから自由に楽しもうという下心したごころだろうと、悪くひがんで考えてしまって、なにしろ、その方のことになると、まるで半気違いのようになる人なんですから
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうして呂宋兵衛たちは、この村をいつくしたら、次の部落へ、つぎの部落を蹂躪じゅうりんしきったらその次へ、ぐんをなして桑田そうでんらす害虫のように渡りあるく下心したごころでいるのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甚七と市五郎も海馬探検の功名手柄を独り占めにしようという下心したごころがあるので、結局他の者どもを出しぬいて、二人が今夜ひそかに出て来ることに相談を決めた。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて久米之丞のふところから得た夜光の短刀の手がかりを得ようという下心したごころですが、世なれぬ月江は、ここまで来る間に、まったく親切な浪人もあるものと、今はすべての疑いを去っています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう一歩すゝんでいっそ隠居してしまえば、殆ど何をしても自由なのですが、家督相続の子供がまだ幼少であるので、もう少し成長するのを待って隠居するという下心したごころであったらしく
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのねたましげな眼のひかりを半七は見逃がさなかった。これはあくまでも此の事件を物取りのように云い立てて、政吉を罪に落そうとする彼の下心したごころであるらしいと、半七は推量した。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
友之助の母お銀はその以前からお筆を嫁に貰いたい下心したごころがあった。お筆はことし十八で、来年は十九の厄年にあたるから、なるべくは年内に婚礼を済ませてしまいたいとお銀は思った。
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
友之助の母お銀はその以前からお筆を嫁に貰いたい下心したごころがあった。お筆はことし十八で、来年は十九の厄年にあたるから、なるべくは年内に婚礼を済ませてしまいたいとお銀は思った。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あわせて相手の山名からも相当の礼物を貰おうという下心したごころで、この頃は足しげく山名の屋敷へ出入りして、自分が万事呑み込んでいるようなことを言い立てるので、和泉守も彼を信用して
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)