三番叟さんばそう)” の例文
馬鹿奴ばかめえ。何をきくさる。ワレのような小僧に何がわかるか。あの逆立ちは芸当の小手調べチウて、芝居で云うたらアヤツリ三番叟さんばそうや。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
珍しがっていたのは、三番叟さんばそう烏帽子えぼしを被り鈴を持っているので、持って振りますと、象牙を入れた面から舌がちょいちょい出るのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
だんだら模様の烏帽子えぼしをかぶり、三番叟さんばそうらしい寛濶かんかつな狂言の衣裳をつけ、鈴を手にしたおいの姿が、彼の目に見えて来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この形の鈴は三番叟さんばそうの舞ぐらいにしか今はもう見られないが、備前の邑久おく郡でもこの草をコンガラ様の鈴と呼んでいる(『中国民俗研究』二号)。
最後に広目屋ひろめやの楽隊を三畳の座敷へ押し籠め、小窓からブリキ製の大ラッパで吹き込ませたが、これは上首尾、越後獅子と三番叟さんばそうがいとも賑やかに再生する。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
……その年の春、あちきは『さらし三番叟さんばそう』の所作だけで身体が暇なものでございますから、日頃ご無沙汰の分もふくめ、方々のお座敷を勤めておりました。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、いいかげんな節をつけて、お能がかりにうたい出すと、手をのばして般若の面を扇子せんすのように抱え込み、三番叟さんばそうを舞うような身ぶりで舞いはじめました。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山車だしの鼻先のせまいところで、人形の三番叟さんばそうが踊りはじめる頃は、すこし、お宮の境内けいだいの人もすくなくなったようでした。花火や、ゴム風船の音もへったようでした。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
凧の種類には扇、袢纏はんてんとびせみ、あんどん、やっこ三番叟さんばそう、ぶか、からす、すが凧などがあって、主に細工物で、扇の形をしていたり、蝉の形になっていたりするものである。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
おさらいや、おおさえや、そんなものは三番叟さんばそうだって、どこにも、やってやしませんのさ。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両方へさばひろげた両袖りょうそでとが、ちょっと三番叟さんばそうの形に似ているなと思う途端に、むくりと、その色彩の喰み合いの中から操り人形のそれのように大桃割れに結って白い顔がもたげ上げられた。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼等の来様きようちとおそかったので、三番叟さんばそうは早や済んで居た。伊賀越いがごえの序幕は、何が何やら分からぬ間に過ぎた。彼等夫妻も拝殿から下りて、土間にり込み、今幕があいた沼津の場面を眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
同じとっちりんとんで朝顔の琴の音はあまりにも如実に、三番叟さんばそうへの鈴音は迫真のなかにさんさんとふりそそぐ春の日、またその日の中に光りかがやく金鈴の色を手にとるように見せてくれた。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
これだけの心得がなくて、本役をお受けできるか——勅使両山御霊屋へ御参詣、お目付お徒士頭かちがしらが出る。定例じゃぞ。十三日が、天奏衆御馳走のお能。高砂たかさごに、三番叟さんばそう。名人鷺太夫がつとめる。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
満足し切っているのだ! しかしこれはほんの三番叟さんばそうで、本当の芝居はこれからなんだから、考えただけでもぞっとする! 実際この事件でかんじんなのは——やつのしみったれでもなければ
その他能楽の始めにおきなを演ずるにならひて芝居にても幕初めに三番叟さんばそうを演ずるが如き、あるいは能楽を多少変改して芝居に演ずるが如き、あるいは芝居の術語の多く能の術語より出でたるが如き
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼の望む玩具おもちゃは無論彼の自由になった。その中には写し絵の道具もまじっていた。彼はよく紙を継ぎ合わせた幕の上に、三番叟さんばそうの影を映して、烏帽子えぼし姿に鈴を振らせたり足を動かさせたりして喜こんだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三番叟さんばそうの小法師も
青い眼の人形 (新字新仮名) / 野口雨情(著)
朔日ついたち顔見世かおみせは明けの七つどきでございますよ。太夫たゆう三番叟さんばそうでも御覧になるんでしたら、暗いうちからお起きにならないと、間に合いません。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もっとも鈴だけは音を立てて拍子を取るが、これは狂言方と云って能役者とは別種の、道化役みたようなものが、三番叟さんばそうという舞の中に限って使うに過ぎない。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鼓太鼓を片手でぬっと前へ突き出した恰好にまた驚く。翁、千歳があって、三番叟さんばそうが大変、舞台から飛び出しそうな勢いで、掛声もろとも凄まじく跳ね回る、全く見ものだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
さばを、さば三番叟さんばそう、とすてきに威勢ゐせいよくる、おや/\、初鰹はつがつをいきほひだよ。いわし五月ごぐわつしゆんとす。さし網鰯あみいわしとて、すなのまゝ、ざる盤臺はんだいにころがる。うそにあらず、さばぼらほどのおほきさなり。あたひやすし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
果して当日の慰安会は、清澄の茂太郎の三番叟さんばそうを以てはじまりました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三番叟さんばそう
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
山へあがったというではなし、たかだか船の中の車座、そんな事は平気な野郎も、酒樽の三番叟さんばそう、とうとうたらりたらりには肝をつぶして、(やい、此奴等こいつら、)とはずみに引傾ひっかたがります船底へ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三番叟さんばそうすひもので、熱燗あつかん洒落しやれのめすと、ばつ覿面てきめん反返そりかへつた可恐おそろしさに、恆規おきてしたが一夜いちや不眠ふみん立待たちまちして、おわびまをところへ、よひ小當こあたりにあたつていた、あだ年増としまがからかひにくだりである。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)