面魂つらだましい)” の例文
新の相貌そうぼうはかくのごとく威儀あるものにあらざるなり。渠は千の新を合わせて、なおかつまさること千の新なるべき異常の面魂つらだましいなりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色の浅黒い、眼に剣のある、一見して一癖あるべき面魂つらだましいというのが母の人相。せいは自分とちがってすらりと高い方。言葉に力がある。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
自家うちまでいて来られては、父母や女房の手前もある。ましてこの為体のしれない物騒ぶっそう面魂つらだましい、伝二郎は怖気おぞけを振ったのだった。
第一、面魂つらだましいがなんとも物凄くて癪にさわるから、是が非でもモリモリ食ってやりたいと思うね。切身を買ってきて大いに食うべきであったよ。
三十前後の眼尻の切れあがった、何様一くせあり気な面魂つらだましいである。後から誰かに追いかけられてでもいる態度で、もう一度
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
「みな、あっぱれな面魂つらだましい。競って家名を揚ぐる事であろう。行末、頼朝も目をかけて進ぜるゆえ、老台にご安堵あんどあるがよい」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前の負けずぎらいな精悍せいかん面魂つらだましいはどこかにかげをひそめ、なんの表情も無い、木偶でくのごとく愚者ぐしゃのごとき容貌ようぼうに変っている。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
第一そういう面魂つらだましいが尋常じゃなかったよ。お乳母日傘んばひがさでハトポッポーなんていった奴とは育ちが違うんだからね……。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
平次はきっと言い切りました。沓脱くつぬぎの上にこそひざを突きましたが、挙げた面魂つらだましいは、寸毫すんごうも引きそうになかったのです。
見たところ柔和なうちに精悍な面魂つらだましいと、油断のない歩きぶりと、殺気を帯びた歯切れのよい挨拶ぶりを聞いて、なんだか一種異様な印象を与えられました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つづいて神戸こうべの造船所ではたらいている正が、これはいかにも労働者らしくきたえられた面魂つらだましいながら、人のよい笑顔で頭をさげ、きまりわるげに耳のうしろをかいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
なるほど、一男は十七という年齢にあわせては、小柄なばかりでなくせている方だった。しかし、潮風にやけたその面魂つらだましいには、どこかしっかりしたところがあった。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
赤手にして一千万円を超ゆる暴富を、二三年のうちに、攫取かくしゅした面魂つらだましいが躍如として、その顔に動いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、ぬけぬけと並べる盗賊の、赧らめもせぬ面魂つらだましいを、三斎隠居は、まんじりともせず眺めたまま
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
精悍な面魂つらだましいに欠けた前歯——これがふと曲物くせもののようなのだ。いずれにしても一風変っている。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
短い髪を水引即ち水捻みずよりにした紙線こよりで巻き立て、むずかしい眼を一筋縄でも二筋縄でも縛りきれぬ面魂つらだましいに光らせて居たのだから、異相という言葉で昔から形容しているが
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此等は随分博文館の天下をも争いかねぬ面魂つらだましいであるから、樗牛も油断することは出来まい。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
鬼気を含んで陰々たる大悪無双の面魂つらだましい! 誠や後年本朝における三大盗の一人として、太閤秀吉を桃山城の、寝所に刺さんと忍び入り、見現わされて捕えられ、三条河原に引き出され
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
支倉喜平は一癖ある面魂つらだましいに一抹の不安を漂わせながら、書斎に這入って来た。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
僕の本名の弱々しげなのにひきかえて、なんと悪びれぬ面魂つらだましいをしていることよ。わが運勢よ、竹庵先生が治療の手腕に似て、強引に逞しくあれ! 人は僕のことを「ばか図々しい。」と云います。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
ああ、それこそ淫婦いんぷ面魂つらだましいを遺憾なくあらわした形相ぎょうそうでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
水の色のみどりの深さ、ただならぬ妖怪じみた色をしており、主でもむという面魂つらだましい、三輪の神様に結びついた伝説があって、水のれることがないそうだ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
父子の間に、かほどまでな確執かくしつは信じられない気もするが、少年武蔵の不逞ふてい面魂つらだましいは想い見るべきである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その面魂つらだましいにもその言葉つきにも、悟空が自己に対して抱いている信頼が、生き生きとあふれている。この男はうそのつけない男だ。誰に対してよりも、まず自分に対して。
水茶屋の茶汲女ちゃくみおんなで年を喰って、酔っ払いも武家も、御用聞も博奕打ばくちうちも、物の数とも思わぬ面魂つらだましいです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
近藤勇は精悍せいかんそのものの如き面魂つらだましいの持主ではあるが、副将の土方歳三は、小柄で色が白く、それに当人もなかなかお洒落しゃれなので、見たところ色男の資格は充分である。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巨眼鋭く人を射し、薄い唇は緊張ひきしまり、風雨雪霜に鍛え尽くした黝色ゆうしょくの顔色は鬼気を帯び、むしろ修験者というよりも夜盗の頭領と云った方が、似つかわしいような面魂つらだましいに二人はちょっと躊躇ちゅうちょした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一個白面の貴公子であった彼は、今やあかぐろい男性的な顔色と、隆々たる筋肉を持っていた。見るからに、颯爽さっそうたる風采ふうさい面魂つらだましいとを持っていた。その昔ながらに美しいひとみは、自信と希望とに燃えていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私には親爺が思い違いをしたというよりは、私をあわれんで金をれたとしか思えなかった。六区をぶらつきながらも、その親爺の彫りの深い一癖ひとくせありげな面魂つらだましいが、しばらくは目のあたりを去らなかった。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
糞マヂメで、横柄で、威張り返つて、いつ横からポカリと僕を殴るか分らぬやうな油断のならぬ面魂つらだましいだ。この看護人は毎日必ずバイブルを片手にぶらさげてをつた。
二十一 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「ふうむ……面魂つらだましいの強そうなことをいう。して、生命がけで帰ったら、どれ程な効があると存じてか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこでか見たことのあるような男である。どうも見覚えのあるような面魂つらだましい——そうだそうだ、土佐の坂本竜馬だ、あの男によく似ている、見れば見るほど坂本竜馬に似ている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
沓脱くつぬぎの上にこそ膝を突きましたが、擧げた面魂つらだましいは、寸毫すんがうも引きさうになかつたのです。
そうか、どれを見ても、たのもしい面魂つらだましい、早速、われわれの旗挙げに、加盟をゆるすが、しかしわれらの志は、黄巾賊の輩の如く、野盗掠奪を旨とするのとは違うぞ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品物の面魂つらだましいを見てごらん。ジッとイノチを狙っているね。そういうのが三十や五十はあるだろう。
彼は精悍な面魂つらだましいをして、多田嘉助が睨み曲げたという松本城の天守閣を横に睨み
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そんな事だろうな、あの面魂つらだましいじゃ」
土民の中にもよい面魂つらだましいの子があるもの——と武蔵はなお惚々ほれぼれと見るのであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも四十がらみであるが、何百人叩き斬ったか分らないという面魂つらだましいである。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
精悍せいかん面魂つらだましい、グロな骨柄、どう見たって見損うはずはない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やっぱりそれだけの面魂つらだましいを持たなきゃならねえ。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小つぶのくせに、面魂つらだましいを備えているからである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ビクともしない面魂つらだましいは見上げたものである。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その面魂つらだましい、ちっとも油断がならなかった。