かたら)” の例文
後になって家持が、「万代のかたらひ草と、未だ見ぬ人にも告げむ」(巻十七・四〇〇〇)云々と云って、この句を学んで居る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
金子の盜賊たうぞくと申立置たれば御吟味の節彼是申すとも右盜賊のつみのがれん爲に惣右衞門をかたらひ忠義ごかし藤五郎殿御兄弟を誘引出さそひだし候儀とぞんずる旨を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この仇無あどないとしらしき、美き娘のやはらかき手を携へて、人無き野道の長閑のどかなるをかたらひつつ行かば、如何いかばかり楽からんよと、彼ははや心もそらになりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
翌日の新聞に「高円寺老婆殺し」の真相がくわしく報道された。それによると、生活費に窮した衣川は、友人をかたらって老婆から金を強奪する計画を立てた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
御辺ごへんほどに剛なる人いまだ見ず、我に年来としごろ地を争ふ敵あつて、ややもすれば彼がために悩まさる、しかるべくは御辺、我敵を討つてたび候へとねんごろかたらひけれ、秀郷一義もいはず
熟覧よく/\みておもへらく、これまさしく妙法寺村の火のるゐなるべしと火口ひぐちに石を入れてこれをし家にかへりて人にかたらず、雪きえてのちふたゝびその所にいたりて見るに火のもえたるはかの小溝こみぞきし也。
水無瀬はその弟妹の中の上の弟をかたらって、三月の行糧を、山のいわやに蓄えた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女の胸にって今もかわらぬ根本のものは、やはり良人正成の満身にながれていたものであった。ひとつ血の夫婦が、良人の世にあるうち、常にかたらい合っていたことは、この国に生れたさちであった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「拙者は柔弱。武道は未熟。わけても病気の身の上でござれば、いつ死ぬやら計られず。今日別れていつ逢うやら心細くも思われまする。……ただ一夜のかたらいながら文武に勝れたご貴殿が兄のようにも懐しく思われるのでござりまするよ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
袋棚ふくろだなと障子との片隅かたすみ手炉てあぶりを囲みて、蜜柑みかんきつつかたらふ男の一個ひとりは、彼の横顔を恍惚ほれぼれはるかに見入りたりしが、つひ思堪おもひたへざらんやうにうめいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
取りあげ如何にも痩衰やせおとろへたる其體そのてい千辛萬苦の容子ようす自然と面に顯はれたり正直しやうぢきかうべやどり給ふ天神地祇云ずかたら神明しんめい加護かごにや大岡殿夫婦のていいと憐然あはれに思されコリヤ九助其の方は如何なる意趣いしゆ有て親類縁者えんじやたる惣内夫婦を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼は走り行き、手を鳴してこたへけるが、やがて木隠こがくれかたら気勢けはひして、返り来るとひとしまらうどの前に会釈して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
企てるには金子とぼしくては大事成就覺束おぼつかなし第一に金子の才覺さいかくこそ肝要かんえうなれ其上にてはからふむねこそあれ各々の深慮しんりよは如何と申ければ天一坊進出すゝみいでて其金子の事にて思ひ出せし事ありそれがし先年九州へ下りしみぎ藝州げいしう宮島みやじまにて出會であひし者あり信州しんしう下諏訪しもすは旅籠屋はたごや遠藤ゑんどう屋彌次六と云ふ者にて彼は相應さうおうの身代の者のよしかたらおきし事も有ば此者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)