薄墨色うすずみいろ)” の例文
の一図は次第に高くなり行く両側の御長屋おながやをばその屋根を薄墨色うすずみいろに、その壁を白く、土台の石垣をば薄き紺色にして
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
茫々ぼうぼうたる薄墨色うすずみいろの世界を、幾条いくじょう銀箭ぎんせんななめに走るなかを、ひたぶるに濡れて行くわれを、われならぬ人の姿と思えば、詩にもなる、句にもまれる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うそさぶしとひしも二日ふつか三日みつか朝來あさよりもよほす薄墨色うすずみいろ空模樣そらもやう頭痛づつうもちの天氣豫報てんきよはう相違さうゐなく西北にしきたかぜゆふぐれかけて鵞毛がもう柳絮りうじよかはやちら/\とでぬ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二本松のあたり一抹いちまつの明色は薄墨色うすずみいろき消されて、推し寄せて来る白い驟雨ゆうだち進行マアチが眼に見えて近づいて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
由布山のいただきは、大抵の日は雲がかかっているのであるが、それが段々降りて来ると、薄墨色うすずみいろの雲がこの盆地一杯に垂れこめて来る。すぐ前の林も隠されてしまう。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
橋杭はしぐいももうせて——潮入しおいりの小川の、なだらかにのんびりと薄墨色うすずみいろして、瀬は愚か、流れるほどは揺れもしないのに、水に映る影は弱って、さかさまに宿るあしの葉とともに蹌踉よろよろする。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その鳥の巣のやうな髪と云ひ、ほとんど肌も蔽はない薄墨色うすずみいろの破れころもと云ひ、或は又けものにもまがひさうな手足の爪の長さと云ひ、云ふまでもなく二人とも、この公園の掃除をする人夫にんぷたぐひとは思はれない。
東洋の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たれこめた、薄墨色うすずみいろの密雲と、どす黒い波のうねりの間を、帆柱ほばしらや、ボートの支柱や、手摺にあたって、ひゅうひゅう唸りをあげる風のほか、何もない、南支那海のまっ唯中を航海しているのだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
諸蹄もろひづめ薄墨色うすずみいろ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ハタとめば、そられたところへ、むら/\とまた一重ひとへつめたくもかさなりかゝつて、薄墨色うすずみいろ縫合ぬひあはせる、とかぜさへ、そよとのものおとも、蜜蝋みつらふもつかたふうじたごとく、乾坤けんこんじやくる。……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みちにさした、まつこずゑには、むさらきふじかゝつて、どんよりした遠山とほやまのみどりをけた遅桜おそざくらは、薄墨色うすずみいろいて、しか散敷ちりしいた花弁はなびらは、ちりかさなつてをこんもりとつゝむで、薄紅うすあかい。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
姿すがたが、みづながれて、やなぎみどり姿見すがたみにして、ぽつとうつつたやうに、ひとかげらしいものが、みづむかうに、きしやなぎ薄墨色うすずみいろつてる……あるひまた……此處こゝ土袋どぶつ同一おなじやうなをとこ
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)