とむら)” の例文
「冗談じゃねえ、今日のはもっとイキのいい話だ。何しろ、仏様のねえおとむらいを出したのはお江戸開府以来だろうって評判ですぜ」
間もなく日暮里の花見寺での葬儀では、落語家の座席の哄笑爆笑、さすがに今はもうあんなバカバカしいおとむらいは見られない。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
三郎次は悲しみに暮れている娘を慰めて、おとむらいを出した後で、その娘をお嫁にしまして、二代目の加茂の長者になりました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この二箇月間、故王のおとむらいやら、わしが位を継いだお祝いやら、また婚儀やらで、城中は、ごったがえしの大騒ぎでした。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「……あれから段々と病気が悪くなるばかりで、到頭ゆうべお亡くなりになりました。今日は日が悪いので、おとむらいは明日だそうでございます」
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
申すようにとのことで……全くあなたがお見えにならなかったら、おとむらいをすることもできなかったのでございますから
泣く泣くお父さんのカラカラの死骸をになってつぶれた蓮の葉のお寺に担ぎ込んで、親類や友達蛙が寄ってたかってお念仏をしておとむらいを済ましました。
鵙征伐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とむらひは孔雀くじやくアパートの前を通つて行き、アパートの女達はこの小さい葬ひを偶然に見おくるやうになつてゐた。
めたん子伝 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
霊魂れいこんは、まったくかばれなかったのです。りっぱなおてらへいって、おきょうをあげてもらい、丁寧ていねいとむらいをしてもらってから、冥土めいどたびにつこうとおもいました。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ところで、お燕の身は、あなたのお力添えで、ひとまず世間の外へ、とむらいましたが。……なお、あれの母親、お袖という女の始末を急がねばなりますまい」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とむらいまで立会った人が、もう一ぺん、生きて動いて来るとは、どうしても考えられないこともある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし彼女は豫期してゐる母の死とそれに續いて來る陰氣なおとむらひを指してゐるのだと私は想像した。
日用品を買いにちょっと外出したと見せかけたジェイムスの現場不在証明アリバイ、浴槽における花嫁のでき死、アレキサンダア・ライス医師の簡単な死亡証明書、涙のとむらい等
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
あたしの着物でもかんざしでもみんなお前にあげるから。なに、おとむらいぐらいは小屋の方でどうにかして呉れるだろうよ。だがね、この蛇は人にうっかり渡しちゃいけないよ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生きたものに葬式と云う言葉は穏当でないが、この白い布で包んだ寝台ねだいとも寝棺ねがんとも片のつかないものの上に横になった人は、生きながらとむらわれるとしか余には受け取れなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悧巧な耶蘇だつて、まさか乗合馬車のおとむらひまでしようとは思はなかつたらうから、それに相応した文句は残さなかつたらうが、巴里の坊さんは別に引導には困らなかつたらしい。
とむらいもすみまして、自宅の仏壇ぶつだんの前に、同胞きょうだいをはじめ一家のものが、ほとけの噂さをしあっていますと、丁度ちょうど今から三十分ほど前に、表がガラリと明いて……仏が帰って来たのでございます」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悪人なれど腹を借りた縁故により、お柳の菩提をとむらうため、紀州の高野山へ供養塔を建立こんりゅうし、また相州足柄郡湯河原の向山の墓地にも、養父母のため墓碑を建てゝ手厚く供養をいたしました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
工事はだんだん進行して、彼はもう住みれた、彼の眼の記憶に残っているただ一つの世界から、立ち退かねばならない日が迫ってきた。人夫のかけ声は、彼の世界をとむらう挽歌のようにひびいた。
二人の盲人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
現に夏休みの一日前に数学を教える桐山きりやま教官のお父さんの葬列の通った時にも、ある家の軒下のきしたたたずんだ甚平じんべい一つの老人などは渋団扇しぶうちわひたいへかざしたまま、「ははあ、十五円のとむらいだな」と云った。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はじめはみんなだまってきいていたが、すこしたいくつになったので、おきょうっている大人達おとなたちは、庵主あんじゅさんといっしょにとなした。なんだか空気くうきがしめっぽくなった。まるでおとむらいのようながした。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「御檢死が遲れましたので、とむらひは明日になりませう。何時までも佛樣を置くと、反つて父親の與三郎の歎きを増すばかりですが」
が、弔われている人とは、可なり強い因縁が、まつわっているように思った。彼は、心からそのとむらいの席に、つらなりたいと思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とむらいも、すんでいない。馬鹿な奴だ、お前は。いったい、いまの亭主だか何だか、それはどんな男なんだ。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もし叙君じょくんが、郷党の兵をひきいて、冀城へ攻めてこられるなら、自分は城中から内応しよう。何をかくそう、郷里の妻のとむらいと偽って、馬超から暇をもらい、これへ君を
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まあ、あの野郎も、この腕一本のおかげで命拾いをしたと思えば間違いはござんすまい、この腕はあの野郎にとっては命の親でございますから、そのつもりでおとむらいをしてやりましょう
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まだ退役の辞令を受けていなかったため、軍葬の礼をもってほうむられた。カテリーナ・イワーノヴナは姉や伯母といっしょに、父のとむらいが済み次第、十日ばかりして、モスクワへ立ってしまった。
「おとむらいのはななんかひろって、縁起えんぎがわるいな。」と、一人ひとりがいうと
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
医者が間違ひをした時には、おとむらひをしたらそれで済む。
とむらひの後私は直ぐにたうと思つてゐた。
身は生きながらとむらいの
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
家の中へ入ると、楢井ならゐ家は打續く不幸にすつかり滅入めいり乍らも、おとむらひの支度やら、弔問てうもんの客などで、何となくザワザワして居ります。
お母さまのおとむらいも、とっくに済ましていたのじゃないか。ああ、お母さまは、もうお亡くなりになったのだと意識したら、言い知れぬさびしさに身震いして、眼がさめた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「真光寺の僧に命じて、正成の遺骸と、ほか五十体の一族とを、ねんごろにとむらわせよ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「失礼ですが、貴君あなたも青木さんのおとむらいに?」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「それぢや、氣の毒だが、此處へ相模屋の手代の時松を呼んでくれないか。おとむらひの仕度の最中、十手を振りまはすでもあるまい」
ねんごろに父のとむらいをすませて、私宅へ帰り、門を閉じて殿の御裁きを待ち受け、女ながらも白無垢しろむくの衣服に着かえて切腹の覚悟、城中に於いては重役打寄り評議の結果
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
肚の底で、とむらった。——その間にも、眸の前に、鎌が光り、分銅はおどって跳ぶ。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「三日前でございます。昨日とむらひを濟ませて早速參りました。父が死ぬ時、これを一日も早く親分に渡すやうにと申しましたので」
わかったよ。君は、疲れている疲れていると言いながら、ひどく派手なんだね。いちばんはなやかな祭礼はおとむらいだというのと同じような意味で、君は、ずいぶん好色なところを
雌に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
奧方のとむらひは、病死の屆け出で、どうにか濟ませましたが、渡り者の中間の死でも、斯う重なると病死だけでは濟まなくなります。
つえにすがってまず菊之助の墓所へ行き、猿のあわれな姿をひとめ見て一切を察し、菊之助無き後は、せめてこの吉兵衛だけが世の慰めとたのんでいたのに、とうらみ嘆き、ねんごろにとむら
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
部屋に入ると、檢屍が濟んで、とむらひの支度に忙しいらしく、主人の死骸を屏風びやうぶの中に納めて、二三人の者が打合せに夢中でした。
「三日前でございます。きのうとむらいを済ませてさっそく参りました。父が死ぬ時、これを一日も早く親分に渡すようにと申しましたので」
「それから、今日急に思ひ立つて、香之助のとむらひも濟まぬうちから、物置の土臺を直させたり、お佛壇の引つ越をさせたりして居ますよ」
兎も角も伊八のとむらひの仕度をさせ、自分は、隣の癖に、顏を出さうとしない、久吉と官之助のところへ、此方から出向くことにしました。
「その日は二つおとむらひがありましてな、大勢の人がゴタゴタしてをりましたから、どんな隙に間違ひがあつたかわかりません」
相模屋の店中も、やうやく平靜を取戻して、型通りの檢屍を濟ませた上、親類や近所の衆が集まつて、とむらひの仕度に、暫くは取紛とりまぎれて居ります。
「横山家では無事にとむらいを出せるだろうし、鉄の野郎には三十両のお手当を貰って来たから、俺の仕事は済んだようなものだ」
「横山家では無事にとむらひを出せるだらうし、鐵の野郎には三十兩のお手當を貰つて來たから、俺の仕事は濟んだやうなものだ」