草摺くさずり)” の例文
が、左の手は、ぶらんと落ちて、草摺くさずりたたれたような襤褸ぼろの袖の中に、肩から、ぐなりとそげている。これにこそ、わけがあろう。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その男は、渋色の粽頭巾ちまきずきんをかぶって、汚い布直垂ぬのひたたれを職人結びに後ろでむすび、片膝たてて革胴かわどう草摺くさずりを大きな動作で縫っていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで主利家と同じ様に馬から仰向けに落されたのだが、落ち際に相手の草摺くさずりに取付いて、諸共に川の中に引摺り込んだ。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と口々にいいながら、よろいの袖、草摺くさずりに取りすがって離れようとしない。これには維盛も、どうしようもなく、暗然と涙にむせぶばかりであった。
大助は草摺くさずりをひきあげた。兵たちが潰れた足を取って支えた。又七郎は一刀でみごとにそれを斬り放した。そしてみずから傷口を縛ってやりながら
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、その中のはすねへばかり、脛当をあてた者があり、又腕へばかり鉄と鎖の、籠手こてを嵌めたものがあり、そうかと思うと腰へばかり、草摺くさずりを纏った者があった。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
微祿した浪人者だから、ピカ一は祖先の系圖で草摺くさずりの切れた具足がお職だらうと思ふと大違ひ——
桐生氏きりゅうしの子孫の家に蔵する所の輝勝てるかつの像を見るに、南蛮胴なんばんどう黒糸縅くろいとおどしそで草摺くさずりの附いたよろいを着、水牛のつののような巨大な脇立わきだてのあるかぶとかぶって、右の手に朱色の采旆さいはいを持ち
鎧が、考えていたよりも重いし、這うのに、草摺くさずりが邪魔になった。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
倶利伽羅を仰ぐと早や、名だたる古戦場の面影が眉に迫って、驚破すわ、松風も鯨波ときの声、山の緑も草摺くさずりを揺り揃えたる数万すまん軍兵ぐんぴょう
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち脚下の満城の地には、草摺くさずりのひびきや馬蹄の音が鏘々しょうしょうと、戛々かつかつと、眼をさましたなみのように流れ出すのが聞えてきた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
式部手鑓てやりにて真柄が草摺くさずりのはずれ、一鑓にて突きたれど、真柄物ともせず、大太刀をもって払い斬りに斬りたれば、匂坂がかぶとの吹返しを打ち砕き、余る太刀にて鑓を打落す。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
実盛は、郎党の首を前輪まえわにひき寄せると、頸をかき切った。目前に、家来の討たれるのを見た光盛は、実盛の左手に寄ると、鎧の草摺くさずりを引きあげて、ぐいと刀を二度突きさした。
草摺くさずりのあとも残らず千切れた鎧を着け、のこぎりのように刃こぼれのした太刀を持って、湿った土の上に俯伏うつぶせに倒れていたひとりの武者の前に立ち、しずかに経文を唱えはじめると
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
赤地あかぢ蜀紅しよくこうなんど錦襴きんらん直垂ひたゝれうへへ、草摺くさずりいて、さつく/\とよろふがごと繰擴くりひろがつて、ひとおもかげ立昇たちのぼる、遠近をちこち夕煙ゆふけむりは、むらさきめて裾濃すそごなびく。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
螺鈿鞍らでんぐらをおいた駒の背にとび乗り、八文字に開かれている中門から大手の土坡口へ、鏘々そうそうと、よろい草摺くさずりや太刀の響きをさせて駈け出して来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喉輪のどわか脇壺か、または草摺くさずりはずれを刺し通して相手を倒すと、そのまま見向きもせずに次の強敵に向って斬り込んでゆく、いま自分の討った相手がどんな高名な部将であろうとも
石ころ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
景経が痛手にひるむところを、弥太郎が隣の舟からかけつけて、景経に取組み、上になったところへ、弥太郎の家来が駆けつけ、景経の鎧の草摺くさずりを引き上げ、三度、刺し通してから首を取った。
当時の鉄砲の射程内は、およそ三十間どまりといわれているが、それも精いっぱいに届いた弾では、よろい草摺くさずり革胴かわどうから撥ね返されてしまうのだ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しずくを帯びて、人待石——巨石の割目に茂った、露草の花、たでくれないも、ここに腰掛けたという判官のその山伏の姿よりは、さわやかによろうたる、色よき縅毛おどしげを思わせて、黄金こがねの太刀も草摺くさずりも鳴るよ
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菊王丸は、草摺くさずりのはずれを向う側まで射通されて、四つんばいになった。教経は、左手に弓を持ったまま、右手で菊王丸をつかむと、船へ、からりと投げ入れたが、深傷であったから直ぐ息が絶えた。
そして鎧のアイビキひも草摺くさずりのクリシメひも、陣太刀のと、はしからキチキチむすんでゆく指の早さといったらない。まるで神技かみわざと思わるるくらいだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
角の九つある、竜が、かしらかぶとに、尾を草摺くさずりに敷いて、敵に向う大将軍を飾ったように。……けれども、虹には目がないから、私の姿が見つからないので、かしらを水に浸して、うなだれしおれている。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草摺くさずりにも、折れ矢が立っている。いつかだいぶ深く入っていたのだ。横にもうしろにも、敵方の武者声がする。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つのここのつある、竜が、かしらかぶとに、尾を草摺くさずりに敷いて、敵に向ふ大将軍を飾つたやうに。……けれども、虹には目がないから、わたしの姿が見つからないので、かしらを水に浸して、うなだれしおれて居る。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
戛々かつかつと、おびただしいひづめの音や、草摺くさずりのひびきや、その人馬の足もとから揚るほこりにつつまれながら——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階へばたばたと駈上かけあがり、御注進と云う処を、よろいしま半纏はんてんで、草摺くさずりみじかな格子の前掛、ものが無常だけに、ト手はひるがえさず、すなわち尋常に黒繻子くろじゅすの襟を合わせて、火鉢の向うへ中腰で細くなる……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
部屋には、仕事用の長板やら、しころの糸掛け、草摺くさずり掛けなどを置き、染革の切れッぱしだの膠鍋にかわなべが、ざつぜんと、散らかっている。ときには、万年寝床どこも敷きっぱなしだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清盛は、具足櫃ぐそくびつから、胴、すねあて草摺くさずりなど、つかみ出しては、手ばやく、身に着けながら
覆布おおいの下には、血にそんだよろい草摺くさずりの片袖と、血糊のりによごれた黒髪とがせられてあった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵にぎとられてしまったのか、進軍の途上、信長の馬前にすがって、陣借じんがりして参加した甲州牢人ろうにん桑原甚内くわばらじんないなどは、腰から下の具足や草摺くさずりは着けていたが、上半身の鎧は失って、半裸体のまま
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬蹄ひづめの音や、草摺くさずりの音が、にわかに、仮借かしゃくない厳しさをそこにみなぎらせ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よろいの草摺くさずりは片袖もがれ、かぶとも失い、髪はさっと風に立っている。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どさと、草摺くさずりの響きをさせて、板床へ、ひざまずいた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)