茶箪笥ちゃだんす)” の例文
火鉢のわきに小母さんが、園からずっと離れて茶箪笥ちゃだんすの前におぬいさんが座をしめた時には、園の前にはチャブ台は片づけられていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
長火鉢のまえに膝をそろえた喜左衛門は、思いついたように横の茶箪笥ちゃだんすから硯箱すずりばこをおろして、なにごとか心覚えにしたためだした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
床の間はもちろんないのですけれども、ここに茶箪笥ちゃだんすが置かれてあって、正面にジェ・リンボチェの金泥の画像がかかってある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今まで茶箪笥ちゃだんすの陰に、ぽつねんとひざを抱えて柱にり懸っていた門野は、もう好い時分だと思って、又主人に質問を掛けた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
台所で陶器のふれ合う音がすると思って行って見ると戸を締め忘れた茶箪笥ちゃだんすの上と下のたなから二匹がとぼけた顔を出してのぞいていたりした。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不揃ふぞろいな絵の道具、いじけたような安物の木机、角の欠けた茶箪笥ちゃだんす火桶ひおけ、炭取り——家具といえるのはそれで全部だ。
おれの女房 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母親は古い茶箪笥ちゃだんすから茶のはいったかん急須きゅうすとを取った。茶はもうになっていた。火鉢の抽斗ひきだしの紙袋には塩煎餅しおせんべいが二枚しか残っていなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
火鉢や茶箪笥ちゃだんすのような懐かしみのある所帯道具を置き並べた道具屋の夜店につづく松飾りや羽子板の店頭みせさきには通りきれぬばかりに人集ひとだかりがしていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
違い棚のついた小さい玩具がんぐのような茶箪笥ちゃだんす抽出ひきだしには、いろんな薬といっしょにべい独楽ごまやあめ玉の袋などもあった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「ああ疲れた。今日は三回も殺されちゃってね」と大チャンは座敷にもどるなりそういい、小さな茶箪笥ちゃだんすから砂糖の缶を出すと、二匙ふたさじほどをペロリと舐めた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
昨夜すっかり拭き清めて茶箪笥ちゃだんすに入れて置いたのを、今取出してそのまま応接室へ運んだというのだから、賊は昨夜の内に台所へ忍び込んで、茶箪笥をあけ
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ねえ。お前が働くということ、圭子は知っているかい?」茶箪笥ちゃだんす抽出ひきだしから、手提金庫を取り出して、さっきのお金をしまい込みながら、母が新子に云った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それからその机の側にある、とうにニスの剥げた茶箪笥ちゃだんすの上には、くびの細い硝子ガラスの花立てがあって、花びらの一つとれた造花の百合ゆりが、手際よくその中にさしてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
茶箪笥ちゃだんすや茶道具なども備えつけていないのが多い。近来はどこの温泉旅館にも机、すずり書翰箋しょかんせん、封筒、電報用紙のたぐいは備えつけてあるが、そんなものはいっさい無い。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また部屋の隅の茶箪笥ちゃだんすから、お皿に一ぱい盛った精進揚しょうじんあげを取り出し私たちにすすめました。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、茶箪笥ちゃだんすひとつない家のなかを見まわしていると、もう縁がわに猫が来て眼をすえていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の茶箪笥ちゃだんすの上に、桜の花の枝がさしてあったので、おやまあ、どうしたの、と云ったら、往来でどっかのお爺さんが太い枝をおろしていたのの、あまりを貰って来たのだそうでした。
父親はそう言ってお茶をいれ、茶箪笥ちゃだんすをあけて、小皿にあったあめを出した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
妻はこれ以上向い合っていることに不安を覚えたのであろう、いつもの時間が来たことをそれと察して貰うために茶箪笥ちゃだんすの上の時計に眼をやって、襲われたように立って着物を着換え始めた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きっちり巻いた髪の襟元が、艶々つやつやと白くて、見惚みとれるようにたっぷりとした肉づきであった。きんは、そのまままた長火鉢の前へ戻った。田部は寝転んでいた。きんは茶箪笥ちゃだんすの上のラジオをかけた。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
小母さんは、茶箪笥ちゃだんすの上から、一枚の名刺をとり出して来た。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
トいってお政は茶箪笥ちゃだんすのぞ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それを奥の茶箪笥ちゃだんすか何かの抽出ひきだしから出して来た奥さんは、白い半紙の上へ鄭寧ていねいに重ねて、「そりゃご心配ですね」といった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちのラジオ受信機は去年の七月からかれこれ半年ほどの間絶対沈黙の状態に陥ったままで、茶の間の茶箪笥ちゃだんすの上に乗っかったきりになっていた。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
引越しによけいな手はいらなかった。古い茶箪笥ちゃだんすと、僅かな勝手道具と、柳行李やなぎごうりが二つと、古夜具が二た組しかない。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、台所の方へ云いつけておいて、うしろの桑の茶箪笥ちゃだんすをあけた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やがて、茶箪笥ちゃだんすをかき廻して、有合せのさいで茶漬をかッ込むと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は表からあがって来ると、小さな安物の茶箪笥ちゃだんすをあけたり、そのあいだ休みなしに饒舌り続けながら、たちまちのうちに膳拵ぜんごしらえをしてしまった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鉄瓶てつびんの口から煙がさかんに出る。和尚おしょう茶箪笥ちゃだんすから茶器を取り出して、茶をいでくれる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は表からあがって来ると、小さな安物の茶箪笥ちゃだんすをあけたり、そのあいだ休みなしに饒舌しゃべり続けながら、たちまちのうちに膳拵ぜんごしらえをしてしまった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
じょうはんと六帖の、裏長屋のその住居には、火のない長火鉢と小さな茶箪笥ちゃだんす、そして竹行李たけごうりが一つしかなかった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鉄のかま、大きな鉄鍋てつなべ、南部の鉄瓶てつびん、金銀の象眼ぞうがんのある南部鉄の火箸ひばし。また桑材の茶箪笥ちゃだんす、総桐の長火鉢、鏡台、春慶塗の卓その他で、小田滝三は眼をむいた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほんの一坪の庭に面した六畳は床の間付きであるが、古ぼけた茶箪笥ちゃだんすと火鉢、炭取などのほかには、家具らしい物はなにもなく、床の間には刀架かたなかけがあるだけだった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道具らしい物は小さな古い茶箪笥ちゃだんすと箱膳、火鉢と炭取だけで、ほかの物は戸納とだなへでもしまってあるのか、眼につく物はなにもないし、掃除もよくゆきとどいていた。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると、部屋の隅に新しい茶箪笥ちゃだんすがあるのをみつけた。このまえには、古道具屋で買った鼠不入ねずみいらずがあったのに、いまそこにあるのは、桑材らしいしゃれた茶箪笥である。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひるがお、雨降り朝顔ともいう、あのつまらない花のことだ。そう云われて思いだしたのだが、夏の終りごろだったろう、茶箪笥ちゃだんすの上におれはその花をみつけたことがあった。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「辰弥かい」と勝手から母が呼びかけた、「茶箪笥ちゃだんすにおやつがはいっているよ」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
入り口の二帖も奥の六帖も常に片づいていて、よけいな物は一つも見あたらなかった。茶箪笥ちゃだんすが一つとちゃぶ台。それから仕事をする頑丈な台と、道具や地金を入れる、抽出ひきだし付きの箱。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その脇に茶箪笥ちゃだんすや、たたんだ卓袱台ちゃぶだいや、炭取、柳行李やなぎごうり、駒箱をのせた将棋盤、そのほかこまごました道具類が、いかにもきれい好きな老人の独りぐらしらしく、きちんと整理されてあった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こちらにも小さな火鉢ひばちがあり、そのわき茶箪笥ちゃだんすや、たたんだ卓袱台ちゃぶだいや、炭取、柳行李やなぎごうり駒箱こまばこをのせた将棋盤、そのほかこまごました道具類が、いかにもきれい好きな老人の独りぐらしらしく
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
長火鉢にはよく磨いたあか銅壺どうこがあり、かん徳利が二本はいっている。その部屋は帳場を兼ねた六帖の茶の間で、徳利や皿小鉢やさかずきなどを容れる大きな鼠不入ねずみいらずと、茶箪笥ちゃだんす、鏡台などが並んでいる。
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)