甘味うま)” の例文
あいと脚絆きゃはんの膝をよじって、胸を、くの字なりに出した吸付煙草。亭主が、ふっかりと吸います、その甘味うまそうな事というものは。……
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やゝしばらくすると大きな無花果の少年こどもほゝの上にちた。るからしてすみれいろつやゝかにみつのやうなかほりがして如何いかにも甘味うまさうである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
非常ひじやう甘味うま菓子くわし舌皷したつゞみちつゝ、や十五ふんすぎたとおもころ時計とけい午後ごご六時ろくじほうじて、日永ひながの五ぐわつそらも、夕陽ゆふひ西山せいざんうすつくやうになつた。
黄色味がかったプリプリするものをはさみあげると、ヒョイと口の中にほうりこんで、ムシャムシャと甘味うまそうに喰べた。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ばあさんは、今日けふもうれしさうにはたけ見廻みまはして甘味うまさうにじゆくしたおほきいやつを一つ、庖丁ほうてうでちよんり、さて、さも大事だいじさうにそれをかゝえてかえつてきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
領主がよくて領民がよいばかりではない、朝夕の笠置の山はきれいだし、水は茶に汲んで飲むと甘味うまい。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光政は二三日ぜん鷹狩に出掛けた折、みちで食つた蜜柑みかんの事を思ひ出した。光政は繍眼児めじろのやうに口をつぼめて、立続けに三つばかし食つたやうに思つた。蜜柑は三つとも甘味うまかつた。
私は、いちごとり、蝸牛でんでんとり(蝸牛でんでんは焼いてうと甘味うまいものである)
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
新巻きざけの一片一片を身をはがして食べるのも甘味うまい。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
(ぺろぺろ)汚穢やの、汚穢やの、ああ、甘味うまやの、汚穢やの、ああ、汚穢いぞの、やれ、甘味いぞのう。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに甘味うまさうな、肉饅頭が一皿置いてあるとする。他の富豪かねもちだつたらそれを見ると
半時間はんじかん以上いじやうたねば人車じんしやないといて茶屋ちやゝあが今度こんどおほぴらで一ぽんめいじて空腹くうふく刺身さしみすこしばかりれてたが、惡酒わるざけなるがゆゑのみならず元來ぐわんらい以上いじやうねつある病人びやうにん甘味うまからうはずがない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
むら酒屋さかや店前みせさきまでくると、馬方うまかたうまをとめました。いつものやうに、そしてにこにことそこにはいり、どつかりとこしをろして冷酒ひやざけおほきなこつぷ甘味うまさうにかたむけはじめました。一ぱいぱいまた一ぱい
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
娘の白いあごの少しばかり動くのを、甘味うまそうに、屏風巌びょうぶいわ附着くッついて見ているうちに、運転手の奴が、その巌の端へ来て立って、沖を眺めて、腰に手をつけ、気取ってるでしゅ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暫くすると、大顆おほつぶ甘味うまさうなのが籠に盛つて持ち出された。光政は子供のやうに手を出してその一つを取つた。すると丁度その折襖の影から侍医の皺くちやな顔がひよつくり覗いた。
生玉子を割って、つは吸ものにし、且つはおじやと言う、上等のライスカレエを手鍋であつらえる。……腹ぐあいの悪い時だし、秋雨もこう毎日降続ふりつづいて、そぞろ寒い晩にはこれが何より甘味うまい。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)