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狼狽
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あわ
ふりがな文庫
“
狼狽
(
あわ
)” の例文
やや
狼狽
(
あわ
)
ててわたしは引っ返して。——左へ曲れる道を発見して試しにそれをえらんだ——飽っ気なくわたしは昭和座の横へ出た。
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
まだ発車には余程
間
(
あいだ
)
があるのに、もう場内は一杯の人で、
雑然
(
ごたごた
)
と騒がしいので、父が又
狼狽
(
あわ
)
て出す。親しい友の
誰彼
(
たれかれ
)
も見送りに来て呉れた。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
父は
狼狽
(
あわ
)
てて「いや、その事やったら、よう分かってるのやが」とせき込んで
遮切
(
さえぎ
)
ったが、何かの固まりの様に唾を呑むと弱々しく呟やいた。
十姉妹
(新字新仮名)
/
山本勝治
(著)
米友とても、この歳になって、初めて夢を見たわけでもあるまいが、この時の
狼狽
(
あわ
)
て方は、まさに初めて夢というものを見た人のようでありました。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
鈴の音を聞くと、叔母も母も読めもしない
癖
(
くせ
)
に、顔色を変えて
狼狽
(
あわ
)
てて買いにやった。私は
跣足
(
はだし
)
でたびたび号外売りのあとを
追駈
(
おいか
)
けたことがあった。
戦争雑記
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
▼ もっと見る
狼狽
(
あわ
)
てたにしろ、大胆にかまえたにしろ、どちらにしても度外れで、われわれの常識をまごつかせるに十分だった。
悪の花束
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
彼はこの言葉で
狼狽
(
あわ
)
てながらも、懐中から先刻貰ったプログラムと真新らしいハンカチとを
一束
(
いっそく
)
たに
掴
(
つか
)
み出した。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
金を取りに帰ってオレンジを三つ掴んで飛び出したのだった。武人だけに金銭には恬淡なのだとも言えまい。非常時の
狼狽
(
あわ
)
て方にはよくこんなことがある。
運命のSOS
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
「大丈夫。攻めてなんぞ来はせんよ。また、来たら来たで、その時のことだ、あわてるな、
狼狽
(
あわ
)
てるな。」
口笛を吹く武士
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「いいえ。」お銀はくたびれた目を開けると、
咎
(
とが
)
められでもしたように
狼狽
(
あわ
)
てて顔をあげてにっこりした。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
「なんだと?」と福冶爺は、
狼狽
(
あわ
)
てて首に手をやったが、それきり気を失って、焚火の中に倒れた。
芋
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
盗人は
狼狽
(
あわ
)
てた。外へ出られてはたまらない——彼の方が
一目散
(
いちもくさん
)
に飛出すと、おばあさんが後から
旧聞日本橋:09 木魚の配偶
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
こんなことを時子は言つたが、しかも二人してかうして馬車で走つてゐるのを見られても、少しも困つたり
狼狽
(
あわ
)
てたりしたやうな態度をかの女は
面
(
おもて
)
にあらはさなかつた。
アンナ、パブロオナ
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
圭一郎は巧に出たら目な言ひわけをして其場を
凌
(
しの
)
いだが、さすがに眼色はひどく
狼狽
(
あわ
)
てた。
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
翁は
狼狽
(
あわ
)
てて
懐中
(
ふところ
)
よりまっち取りだし、
一摺
(
ひとす
)
りすれば一間のうちにわかに
明
(
あか
)
くなりつ、人らしきもの見えず、しばししてまた暗し。
陰森
(
いんしん
)
の気
床下
(
ゆかした
)
より起こりて翁が懐に入りぬ。
源おじ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
彼は
殆
(
ほと
)
んど衝動的に節子の
側
(
そば
)
へ寄って、物も言わずに小さな
接吻
(
せっぷん
)
を与えてしまった。すると彼が驚き
狼狽
(
あわ
)
てて節子の口を
制
(
おさ
)
えたほど、彼女は激しい
啜泣
(
すすりなき
)
の声を立てようとした。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
俄かに
狼狽
(
あわ
)
て出したところを、毛利の第三軍たる村上、来島等の水軍が攻めかかったので、陶の水軍は
忽
(
たちま
)
ち撃破されて、多くの兵船は、防州の矢代島を目指して逃げてしまった。
厳島合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
自分は一緒に
惡戲
(
いたづら
)
つ子だつた中學時代の友達の、今川燒のやうにまあるく平べつたくて、しかもぶよぶよしてゐた顏中を想ひ出しながら、
狼狽
(
あわ
)
てて飛起きて洗面場に馳けて行つた。
貝殻追放:013 先生の忠告
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
車掌は受取ったなり向うを見て、
狼狽
(
あわ
)
てて出て行き数寄屋橋へ停車の
先触
(
さきぶ
)
れをする。
尾張町
(
おわりちょう
)
まで来ても回数券を持って来ぬので、今度は老婆の代りに心配しだしたのはこの手代で。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
狼狽
(
あわ
)
てて、身を退こうとする相手の力に、きかせるように、スルリと、かごから出てしまったので、たとえ、出しなを斬ってしまおうと、企んでいたとて、きっかけを失われてしまったのだ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
彼
(
あれ
)
は
可憫
(
かわい
)
そうに……まだ若いだけに……大そう
狼狽
(
あわ
)
てて、それは大変だ
情状酌量
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
のべつ幕なしに驚いたり急いだり
狼狽
(
あわ
)
てたりするのが、旅行者の特権であり義務であるとは言いながら、あれほど色んな国へ雑多な物を撒き散らして来たくせに、よく自分で自分を置き忘れて
踊る地平線:12 海のモザイク
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
私は石段の上でマゴマゴしているうちに、扉を細目にあけて、その隙間から顔を出したのは先前の老婦人であった。彼女は酷く
狼狽
(
あわ
)
てているらしかったが、私を見るといくらか安心したらしく
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
『もう手が廻ったッ……やられたッ……』とジルベールは
狼狽
(
あわ
)
てた。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
その時のお前の
狼狽
(
あわ
)
て方については、もう言った。
勧善懲悪
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
母親は
狼狽
(
あわ
)
てて娘の耳もとでささやいた。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
ともかく相当の悪党を以て自任しているらしいがんりきが、この馬子の面を見ての
狼狽
(
あわ
)
て方は尋常とは見えません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
……で、これではいけないと急に
狼狽
(
あわ
)
てゝ、とゞ大部屋のもの二三人があたりの闇を幸い、丈なす草のしげみにかくれてほんとうの虫笛をふくことになった。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
後から後からと他の学科が
急立
(
せきた
)
てるから、
狼狽
(
あわ
)
てて
片端
(
かたはし
)
から及第のお
呪
(
まじな
)
いの
御符
(
ごふう
)
の
積
(
つもり
)
で
鵜呑
(
うのみ
)
にして、
而
(
そう
)
して試験が済むと、直ぐ吐出してケロリと忘れて了う。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
しかし、この出来事は、すっかりモスタアとダグラスの
心胆
(
しんたん
)
を寒からしめたものとみえる。彼らはいよいよ危険を感知して、その夜のうちに
狼狽
(
あわ
)
てて陸へあがったらしい。
チャアリイは何処にいる
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
こういう
尤
(
もっと
)
もらしいことを言っている中にも、三吉が
狼狽
(
あわ
)
てた
容子
(
ようす
)
は隠せなかった。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
狼狽
(
あわ
)
てて抱起すとがっくり首が前へのめって、七兵衛はすでに息を引取っていた。
早耳三次捕物聞書:01 霙橋辻斬夜話
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
笑子は、ハッとしたようすで、ひどく
狼狽
(
あわ
)
てて自分の足袋の爪先を見る。もちろん、煤などついていなかった。どぎまぎして、顔を赤らめてうつむくのを、すかさず、グイとその肩先を掴んで
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
とはいえ新御直参一家は、五月十六日朝の官軍上野攻めで
狼狽
(
あわ
)
てた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
彼は
狼狽
(
あわ
)
てない態度で部屋のなかを見廻した。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
是が噂に聞いた
小狐
(
おぎつね
)
の
独娘
(
ひとりむすめ
)
の雪江さんだなと思うと、私は我知らず又固くなって、
狼狽
(
あわ
)
てて
俯向
(
うつむ
)
いて了った。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
一時は生きた空がなくて、金品を寄附したり、慈善会のようなものを起したりして、貧民の御機嫌を取ろうとしてみた
狼狽
(
あわ
)
て方はかなり不得要領なものでありました。
大菩薩峠:16 道庵と鯔八の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そうかと思うと、如何にも倉皇の際に認めたらしく、字など
狼狽
(
あわ
)
てていて殆んど判読出来ないながらも、沈没に到る経路を、可成り専門的に要領よく書いてあったり、中には
沈黙の水平線
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
狼狽
(
あわ
)
てゝその晩汽車に乗り、あくる朝東京駅へつくといそいで家へ帰り、一
ト
月の間ほとんどそればかり着ていた洋服を脱ぐとそのまゝ湯にも入らずすぐに「矢の倉」へ飛んで行った。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
大あわてに
狼狽
(
あわ
)
てたすえ、わけのわからないことを口走る。
キャラコさん:09 雁来紅の家
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
オホホホと笑いを
溢
(
こぼ
)
しながら、お勢は
狼狽
(
あわ
)
てて駈出して来て
危
(
あやう
)
く文三に衝当ろうとして立止ッた。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
してみると、今までお豊がここにいたことは気がつかなかったので、お豊が
狼狽
(
あわ
)
てて着物をとりかかろうとしたから、はじめて人のここにいることを感づいたらしいのです。
大菩薩峠:05 龍神の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
権現
(
ごんげん
)
様と
猿田彦
(
さるたひこ
)
を祭った神棚の真下に風呂敷を掛けて積んである弟子達の
付届
(
つけとど
)
けの中から、上物の白
羽二重
(
はぶたえ
)
が覗いているのが何となく助五郎の眼に留まった。おろくは少し
狼狽
(
あわ
)
て気味に
助五郎余罪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
「いゝえ、そういうこと、わたくしなんぞでもとき/″\あります。始終みつけている光景でも、時の表裏で、いまさらのように、おや? ——そう思って
狼狽
(
あわ
)
てゝ眼をこすることがあります。」
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
文三は
狼狽
(
あわ
)
てて
告別
(
わかれ
)
の挨拶を
做直
(
しな
)
おして
匇々
(
そこそこ
)
に
戸外
(
おもて
)
へ立出で、ホッと一息
溜息
(
ためいき
)
を
吐
(
つ
)
いた。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
鶴見は少しも
狼狽
(
あわ
)
てず、以前の通りに艫先に腰かけていて、右の手で
髭
(
ひげ
)
をひねりながら言うことには、騒ぐな、騒ぐな、どこまで逃げるということがあるものか、この一国のうちならば
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「ああわるう御座ンした……」と文三は
狼狽
(
あわ
)
てて
謝罪
(
あやま
)
ッたが、
口惜
(
くちお
)
し涙が承知をせず、両眼に一杯
溜
(
たま
)
るので、顔を揚げていられない。
差俯向
(
さしうつむ
)
いて「私が……わるう御座ンした……」
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
不幸にして彼等の手が利いていて、人数の気の揃い方が上手であり、捕方の方が
狼狽
(
あわ
)
てて、それにこの通りの靄であったから、とうとうみんな取逃がしてしまったということであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
この改まった言葉を聞いて福松が、がっかりして
狼狽
(
あわ
)
てました。
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
“狼狽”の意味
《名詞》
狼 狽(ろうばい)
思わぬ出来事に遭い、慌てること。
(出典:Wiktionary)
狼
漢検準1級
部首:⽝
10画
狽
漢検準1級
部首:⽝
10画
“狼狽”で始まる語句
狼狽者
狼狽方
狼狽気味
狼狽敷
狼狽眼
狼狽居士
狼狽驚愕