らん)” の例文
その面を魯粛は「がたき大将」とさげすむように睨みつけていた。そのらんたる白眼はくがんにも刻々と生暖かい風はつよく吹きつのってくる。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんとしてかがやくこと落日の赤き程度にして、周囲暗黒なるがために特に燦然たり、他の火は水平につらなりて蕩漾とうようするも、この火球は更に動かず。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
例えば、夜間、らんたる星の光の無数なるを見るけれども、ひとたび太陽が昇ってからは、一つだに見られぬと同じことです。必ず昼間でも星はあるべきです。
妖怪談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
蒼白い顏は激怒に顫へて、らんとした眼は、中腰になつた平次と、その背に負はれたガラツ八を睨み据ゑます。
今日こんにちまで分離して運行した軌道と軌道の間が隙間すきまなくたされた時、今の秩序ある太陽系は日月星辰じつげつせいしんの区別を失って、らんたる一大火雲のごとくに盤旋ばんせんするだろう。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて、犬殺しが犬潜りから入って来た時分に、ムク犬の眼がらんとしてかがやきました。
前者の奥にはらんとして輝く美わしき色彩が潜んでいるらしいけれど、いかんせん灰色の霧の閉じめて探る手先きの心もとない、後者の裏には心喜び顫える懐しきもののかくれていて
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
東方ひがしより金芒きんぼうらんとして飛ぶ、槍も穂高も、半肩以上は微黄となり、以下は大天井岳をはじめ、その一帯山脈の影が、かぶさるのでくらい衣をている、日の昇るに伴れて、附近の大山岳
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
らんとして輝いた眼と、りんとして冴えた音声とを持った、いかにも生き生きした俳優で、師匠の将軍太郎や仲光を向うに廻して、活気のある力強い芸をみせたのが大いに観客の注意をひいた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その中に童子が『何故帰らんか?』と言ったから、立って斧を取って見ると、柄が朽っていた。らんは朽ちるの意味、は斧の柄のことだ。つまり斧の柄が朽ってしまうまで見物していたんだね。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
らんとした眼の向くところ、タジタジと退身ひけみに動く相手の気配が、敵ながらもどかしそうであった。——と弦之丞は一方の物かげへ向かって
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒼白い顔は激怒にふるえて、らんとした眼は、中腰になった平次と、その背に負われたガラッ八をにらみ据えます。
仰げば無量無数の惑星恒星、らんとして、吁嗟ああ億兆何の悠遠いうえんぞ、月は夜行性のの如く、けていよいよ白く、こゝに芙蓉ふようの蜜腺なる雲の糸をたぐりて、天香を吸収す、脚下紋銀白色をなせる雲を透かして
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
と叫んで、天満てんまの万吉、土橋の欄干を飛び離れたが、その一方には、まなこらんとかがやかして身を屈している者がある。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この平和な空気に臨んで、玄徳は心にほっとしていたが、彼のうしろには、らんたる眼をくばり、大剣をいて
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんとした眼で、武蔵は近づいた者を見つめた。彼の眼に縛り寄せられたように、賊も武蔵をめすえたまま
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんの隅に身を退くなり、らんとしたひとみを伏せた般若はんにゃの顔——その仮面めんの裏が、クスクス笑いました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ次第に烈々と火色を増してくる空に、その眸は、らんとして、同じ光をたたえているだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例のごとく、大ざかもりとなって、将門がそろそろらんたる酔いを眸に燃やしかけたときである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵と聞くと、小次郎の眼には、ひとりでにらんとして燃えるものがちて来るのだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この暗所にみなれている世阿弥の眸は、自然生理的に、闇の中でも見とおしがく筈だが、お十夜には、皆目、対手あいての見当がつかない。ただ、らんと射るふたつの眼を感じるばかりだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御林の旗幡きはんは整々と並び、氷雪をあざむくほこや鎗は凛々りんりん篝火かがりびに映え、威厳いげん森々しんしんたるものがあるので、さすがの蛮王も身をすくめてただらんたる眼ばかりキョロキョロうごかしていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町に女と子供の影が見えないので、淋しいのみか、ひどく殺伐さつばつである。太陽はらんとして、町の上にあるが、どこ一軒、商売をしている家もない。ただ夜半よなかのような風が往来を通ってゆく。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰が何といっても今は観ないと聞くと、曹操は急に、眼をらんとかがやかして
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦々たる長髯をなびかせ、らんとした双眸を眉間へ寄せて唇固く息をのんだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さやをはらって、静かに、肩のあいだに白刃を立てながら、せっぱから切先まで、ずっと眼をとおしているうちに、この男の眼は、どこからかべつな物を持って来てめこんだように、らんとして
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって、全身に焔々えんえんの闘志を燃やし、きょの如き眼をらんと射向けて
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関羽は、沈勇そのものの眉に口をかんし、らんたる眼を向けていたが
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんたる眼をして、衆席を見まわすと、時に、彼の声に応じて
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けわしい目が、いちどにらんとして弦之丞の身に集まる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
国境と聞くと武蔵の眼は、急に、らんとして
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんひとみかすみを払って敵を見澄ます。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らんとした眼で
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)