トップ
>
焦心
>
あせ
ふりがな文庫
“
焦心
(
あせ
)” の例文
こういうお種の顔色には、前の晩に見たより
焦心
(
あせ
)
っているようなところが少なかった。その沈んだ調子が、
反
(
かえ
)
って三吉を安心させた。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
勝利は、
焦心
(
あせ
)
らずに、やたらに動かない人に降る榮冠である。不斷に學問してゐる人物の「現在」は、決して前進のない現在ではない。
折々の記
(旧字旧仮名)
/
吉川英治
(著)
焦心
(
あせ
)
る老武士を充分に焦心らせ、苦しめるだけ苦しめてやろうと、そう思ってでもいるように、ジワリジワリと迫り詰めていた。
剣侠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
しかし手のつけようのない
謎
(
なぞ
)
に気を
揉
(
も
)
むほど熱心な
占
(
うら
)
ない信者でもないので、彼はどうにかそれを解釈して見たいと
焦心
(
あせ
)
る
苦悶
(
くもん
)
を知らなかった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
恰
(
あたか
)
も其氷屋の旗が、何かしら
為
(
し
)
よう/\と
焦心
(
あせ
)
り乍ら、何もせずにゐる自分の現在の精神の姿の様にも思はれた。
氷屋の旗
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
▼ もっと見る
取られ分を取り
復
(
かえ
)
そうと
焦心
(
あせ
)
っているうちに、夜が更けて来た。連中には古くから
昵
(
なじ
)
みの男もあり、もう髭を生やして細君を持っているらしい顔もあった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
自分も一台の
俥
(
くるま
)
に乗りながら、何は載ったか、何は……ソレ、あの、何よ……と、
焦心
(
あせ
)
る程尚お想出せないで、何やら分らぬ手真似をして独り
無上
(
むしょう
)
に車上で騒ぐ。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
仮令
(
たとひ
)
我輩が瀬川先生を救ひたいと思つて、
単独
(
ひとり
)
で
焦心
(
あせ
)
つて見たところで、町の方で聞いて呉れなければ仕方が無いぢや有ませんか。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
二すじまで射たが、弓はみな
反
(
そ
)
れた。
焦心
(
あせ
)
りながら、第三矢をつがえたが、あまり強く引いたので、弓は二つに折れてしまった。
三国志:03 群星の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あんまり相手が冷静なので、
的
(
まと
)
を
外
(
はず
)
した思いがした。で彼は
焦心
(
あせ
)
って来た。もっともっとえぐい事を云って、反応を見たいと思い出した。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
『主筆は十月一日に第一囘編輯會議を開く迄に顏觸れを揃へる責任を受負つたんで、大分
焦心
(
あせ
)
つてる樣だがね。』
札幌
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「
焦心
(
あせ
)
るな、今日あいつが柿岡へ出向くことはたしかなのだ。……七日の
祈祷
(
きとう
)
は顕然と
効
(
かい
)
があらわれたものといえる、前祝いに、一杯飲め」
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「少しく俺は
焦心
(
あせ
)
り出したぞ。いけないいけない冷静になろう」——で、柄から手を放して、静まった姿勢で相手を見た。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
『主筆は十月一日に第一回編輯会議を開く迄に顔触れを揃へる責任を受負つたんで、大分
焦心
(
あせ
)
つてる様だがね。』
札幌
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
何程
(
いくら
)
私ばかり
焦心
(
あせ
)
つて見たところで、
肝心
(
かんじん
)
の
家
(
うち
)
の
夫
(
ひと
)
が
何
(
なんに
)
も為ずに飲んだでは、やりきれる筈がごはせん。其を思ふと、私はもう働く気も何も無くなつて
了
(
しま
)
ふ。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
光秀の兵理軍学の
蘊奥
(
うんおう
)
も、ここに至ってはすでに施し尽きていた。しかも彼は、今日明日のうちにも、敵城を
揉
(
も
)
みつぶさねばと
焦心
(
あせ
)
っていた。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
肩からタラタラ
滴
(
したた
)
る血は雪を
紅
(
くれない
)
に染めるのであったが夜のこととて黒く見える。立とう立とうと
焦心
(
あせ
)
っては見たがどうしても足が云うことを聞かない。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
つまり批評家に成るにも批評の根底が見附からないと言ふんだね。
焦心
(
あせ
)
つちや可かんて僕は言つたんだが、松永君は、
焦心
(
あせ
)
らずにゐられると思ふかなんて無理を言ふんだよ。それもさうだらうね。
我等の一団と彼
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
旅から帰って来たばかりで、そう
焦心
(
あせ
)
るな。
先
(
ま
)
ず休め
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
亀山領内の民治には、明主ぞ仁君ぞと仰がれていながら、その政治的手腕にも似あわず、軍事にかけては、
焦心
(
あせ
)
り気味がみえ、
不手際
(
ふてぎわ
)
が目立った。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
この戦国の乱れた世に
鬱然
(
うつぜん
)
たる勢力を抱きながら眠れる
獅子
(
しし
)
のそれのように諸国の武将に恐れられ、しかも己は
焦心
(
あせ
)
らず逼らず己が国土を静かに守り
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
いくら僕等が
焦心
(
あせ
)
つたつてそれより早くはなりやしない。可いかね? そして假令それが實現されたところで、僕一個人に取つては何の増減も無いんだ。何の増減も無い! 僕はよくそれを知つてる。
我等の一団と彼
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
唯
(
ただ
)
、
焦心
(
あせ
)
った。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
「それは当然そうなりましょうな。若い者は抑えても伸び、老いゆく者は、
焦心
(
あせ
)
っても焦心っても老いてゆくばかりで」
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
三度身をかわされても
焦心
(
あせ
)
らず
急
(
せ
)
かず、かえって落ち着き粘りを持ち、ジリジリと競り詰め、ソロソロと進んだ。
血煙天明陣
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
自分が逆境の中に、他人の栄達を聞いて、共によろこびを感じるほど、
朱雋
(
しゅしゅん
)
は寛度でない。彼はなお、
焦心
(
あせ
)
りだして
三国志:02 桃園の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
放胆で自由で新智識で、冒険心もある茅野雄だったので、そういう今のような境遇にあっても、あえて
焦心
(
あせ
)
りはしなかったが、多少の屈託にはなっていた。
生死卍巴
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
先を急ぐことに
焦心
(
あせ
)
りきっている梅軒の眼には、
凡
(
ただ
)
ではあり得なそうな二人の刹那の驚きも眼にはとまらないらしく
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
背後
(
うしろ
)
に積重ねてある夜具へ体をもたせかけ、
焦心
(
あせ
)
っている眼で、お力が持って来て、まだ瓶にも
挿
(
さ
)
さず、縁側に置いてある
椿
(
つばき
)
の花を見たり、舞込んで来た
蝶
(
ちょう
)
が
甲州鎮撫隊
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
と、
焦心
(
あせ
)
りたがる気持と、がくがくわななく体力とが、とたんに一致を欠いてしまって、思わず
堤
(
どて
)
の小松の蔭へ、ぺたっと坐ってしまったのである。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
西条様はじめお侍さんたちも、刀を構えて
焦心
(
あせ
)
っているばかりで、どうすることもできませんでした。
怪しの者
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
勝家は、一
喝
(
かつ
)
、大きく顔を振ったが、左右の人々は、押し上げるように、彼の体を、鞍の上へ移そうと
焦心
(
あせ
)
っていた。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「いいえ私でございます! 右門奴がおわかりになりませぬか」右門は
焦心
(
あせ
)
って云うのであった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「そちは、検断所でも、一、二を争う者なるに、こんどの変では、まだ何らの功も見せてはおらん。それゆえ、部下も
焦心
(
あせ
)
るのであろ。何しておるか」
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と範之丞、馳せ寄って無頼の若侍どもを、切り崩そうと
焦心
(
あせ
)
るのであったが、いつか
己
(
おのれ
)
の前へ廻り、織江との中を
遮
(
さえぎ
)
って、上段に刀を振り冠り、動かば一討ちと構えている。
血煙天明陣
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「
焦心
(
あせ
)
る必要はもうない。今はそッとしておいて、又右衛門の気もちが、もう一歩、好転するなり、よい口ききが、他から現われるのを待つのが上策」
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
遅い月が出たばかりで
野面
(
のづら
)
は
蒼茫
(
そうぼう
)
と光っている。微風に
鬢
(
びん
)
の毛を吹かせながら
急
(
せ
)
かず
焦心
(
あせ
)
らず歩いて行くものの心の中ではどうしたものかと、策略を巡らしているのであった。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
あまり与右衛門が
焦心
(
あせ
)
って督励し過ぎたため、渓流の護岸工事で仕事をしていた者が、そこの崖崩れに合って、十何人かいちどに生埋めになって死んだ。
鬼
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と云うのは河中に転落したお客が船舟べりにつかまり
乍
(
なが
)
ら生命の危険なんかそっちのけにして、流れて行く一本の雨傘をとらえようとして手を延ばし
焦心
(
あせ
)
り
煩悶
(
うめ
)
いていたからさ。
赤げっと 支那あちこち
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
と、敢て誇れば、当然、棒の一撃にのめるであろうし、
焦心
(
あせ
)
りを持つだけでも、呼吸にうける圧迫から、身体のみだれをどうしようもなくなってしまう。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
頸
(
えり
)
を抜けるほど
衣紋
(
えもん
)
から抜いて薄白く月光に浮き出させて、前こごみに体を傾けて、足のもどかしさに
焦心
(
あせ
)
りながらも、しかし武術のたしなみはある、決して口で呼吸をしないで
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
自分でもそろそろ
焦心
(
あせ
)
ってもおろうから、こんどの
縁談
(
はなし
)
には、否やはあるまいと思う。……ただ、婚儀の準備だが
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
仏蘭西
(
フランス
)
を見ろ仏蘭西を! ナポレオン三世の
奸雄
(
かんゆう
)
振のいかに恐ろしいかを見るがいい! 日本の国土を狙っているのだ。内乱に乗じて侵略し、利権を得ようと
焦心
(
あせ
)
っているではないか。
大捕物仙人壺
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
二人とも、意見はこう一致して、ひどく戦に
焦心
(
あせ
)
っていたが、謀将の
賈詡
(
かく
)
がひとり諫めて承知しないのである。
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
身を絞って紋也の羽掻い締めから、のがれようのがれようと
焦心
(
あせ
)
るようにしたが
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
陽は午後に入りかけたのに、今日もなお、
輦輿
(
れんよ
)
の人馬が有年の山寺を出たという飛報はここへ来なかった。五郎はようやく、
焦心
(
あせ
)
り疲れと、疑惑を抱いて
私本太平記:05 世の辻の帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ひたむきに権を助けようとして
焦心
(
あせ
)
るばかりで、権に対し、怒りも悲しみも怨みもしていない様子を見ると、やはり権が、自分の娘へ毒牙を加えなかったことを、認めるより仕方がなかった。
猿ヶ京片耳伝説
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「土肥のことなら、あの弟にも、ちと臭いねたが上がっている。
焦心
(
あせ
)
るこたあない。きっと、取ッちめてやる」
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼らの上がって行く絶壁の
彼方
(
あなた
)
、雪に蔽われた林の中から、不思議の音と掛け声とが、ある不規則の間を置いてひっきりなしに聞こえてはいたが、
焦心
(
あせ
)
って上がる三人には何んの音やら解らなかった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「勝とう勝とうと
焦心
(
あせ
)
らぬがよいぞ。天命にまかせろ。万一のことがあったら、骨は源左衛門がひろってやる」
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“焦心”の意味
《名詞》
思いを焦がすこと。
気持ちを苛立たせること。
(出典:Wiktionary)
焦
常用漢字
中学
部首:⽕
12画
心
常用漢字
小2
部首:⼼
4画
“焦”で始まる語句
焦
焦躁
焦燥
焦立
焦々
焦慮
焦点
焦茶
焦眉
焦土