滝壺たきつぼ)” の例文
旧字:瀧壺
桃太郎の桃でも瓜子姫うりこひめの瓜でも、ともに川上から流れ下り、滝壺たきつぼふちには竜宮の乙媛おとひめはたを織っておられるようにも伝えている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
滝壺たきつぼのような波に洗われた甲板や、ところどころの船腹の隙間から噴き出す水の修理作業で、不眠不休の活動がつづけられた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
と声をかけながら、ズーと岩の根へひき寄せると、滝壺たきつぼのなかのものはプーッと水を吹きながら、けんめいにはいがろうともがくのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそい月はまだ出ない。星ばかりが今にもこぼれそうに、空いっぱいにもりあがっている。滝壺たきつぼのまわりは岩組みである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ナイアガラ見物の際に雨合羽あまがっぱを着せられて滝壺たきつぼにおりたときは、暑い日であったがふるえ上がるほど「つめたかった」だけで涼しいとはいわれなかった。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
滝壺たきつぼすその流れの一筋として白絹の帯上げの結び目は、水沫みなわの如く奔騰して、そのみなかみの鞺々とうとうの音を忍ばせ、そこに大小三つほどの水玉模様がねて
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
熊も穴をいでゝ滝壺たきつぼにいたり水をのみし時はじめて熊を見れば、犬を七ツもよせたるほどの大熊也。
わたくしただちに統一とういつめて、いそいで滝壺たきつぼうえはしますと、はたしてそこには一たい白竜はくりゅう……爛々らんらんかがや両眼りょうがん、すっくとされた二ほんおおきなつのしろがねをあざむくうろこ
仰山ぎょうさんに二人がおびえた。女弟子の驚いたのなぞは構はないが、読者をおびやかしては不可いけない。滝壺たきつぼ投沈なげしずめた同じ白金プラチナの釵が、其の日のうちに再び紫玉の黒髪に戻つた仔細を言はう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
岡田はそのどれかの滝壺たきつぼへ飛込んで、自殺をとげたのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
およそ五十メートルほどの幅の滝が、直下三十メートルほどの所に深淵しんえんをたたえた滝壺たきつぼに、濛々もうもうと、霧のような飛沫ひまつをあげて、落下しているのだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
二度目に掴まれた襟元を引ッぱずして、あッという間に男は女滝の滝壺たきつぼ目がけて、ポーンと跳び降りてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛行船の横腹と横腹との間の狭い空間を電光のごとくかすめては滝壺たきつぼのつばめのごとく舞い上がる光景である。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人がひさごやうつぼ舟に乗って、なみただようて浜に寄ったという東方の昔語りは、しばしば桃太郎や瓜子姫うりこひめのごとき、川上から流れ下るという形に変り、深山の洞や滝壺たきつぼには
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
白金プラチナはねの散るさまに、ちら/\と映ると、かんざし滝壺たきつぼ真蒼まっさおな水に沈んで行く。……あはれ、呪はれたる仙禽せんきんよ。おんみは熱帯の鬱林うつりんに放たれずして、山地さんち碧潭へきたんたくされたのである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山半やまのなかば老樹らうじゆえだをつらねなかばより上は岩石がんぜき畳々でふ/\として其形そのかたち竜躍りようをどり虎怒とらいかるがごとく奇々怪々きゝくわい/\いふべからず。ふもとの左右に渓川たにがはありがつしてたきをなす、絶景ぜつけいいふべからず。ひでりの時此滝壺たきつぼあまこひすればかならずしるしあり。
可成り広い池の対岸むこうがわに、自然石じねんせきを畳んで、幅二間、高さ四間ほどの岩組とし、そこへ、幅さだけの滝を落としているのであって、滝壺たきつぼからは、霧のような飛沫しぶきが立っていたが、池の水は平坦たいらに澄返り
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木々のあいだをっていく、松明たいまつのあかい光について伊那丸いなまる忍剣にんけん滝壺たきつぼのほとりへ向かってをはやめる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっと気味のわるい方法としては、ふだんは見ることもない牛や馬の首をきったのを、ある神聖なる滝の滝壺たきつぼへしずめに行くというなども、わたしの子どものころまではあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
北海道ではくまにおびやかされたり、食糧欠乏の難場で肝心の貯蔵所をこの「山のおじさん」に略奪されて二三日絶食した人もある。道を求めて滝壺たきつぼに落ちて危うく助かった人もある。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
場所もあろうに、深夜しんや滝壺たきつぼから、法師野ほうしのいらい、久しく姿すがたを見うしなっていた竹童をすくいだそうとは、なんたる奇蹟きせき! あまりのことにあきれるばかりであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤ん坊は滝壺たきつぼの上のこずえ引懸ひっかかって死んでいたという話である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)