のこり)” の例文
旧字:
そしてのこり人数にんず二手ふたてに分けて、自分達親子の一手は高麗橋かうらいばしを渡り、瀬田の一手は今橋いまばしを渡つて、内平野町うちひらのまち米店こめみせに向ふことにした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いずれも勇気凛々りんりん、今日を限りにこの痛快無比の旅行と別るるのがのこり多いようにも思われ、またこのこうおわったという得意の念もあった。
外へ出ようと思って豊雄の閨房ねやの前を通りながら見ると、豊雄の枕頭まくらもとに置いた太刀が消えのこりともしびにきらきらと光っていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
床の間の画幅は三百円の品を二百円の品にかえても生存上に影響はないからのこりの百円を以て勝手道具を買てみ給え。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「わが艦隊は敵戦艦七隻を撃沈した。のこりの敵は逃走中。艦隊の速力減じ、急追撃できぬのが残念。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
そ、その鉢にゃ水があればいがね、無くば座敷まで我慢さっせえまし、土瓶ののこりけて進ぜる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中津藩歳入の正味しょうみはおよそ米にして五万石余、このうち藩士の常禄として渡すものは二万石余に過ぎずして、のこりおよそ三万石は藩主家族の私用と藩の公用に供するものなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今の築地二丁目の出方でかたの二階へ引っ越して来た時には、女からもらった手切てぎれの三千円はとうに米屋町こめやまち大半あらかたなくしてしまい、のこりの金は一年近くの居食いぐいにもう数えるほどしかなかった。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そんなにまで騒いだが、一名けたのこりの十名の中には岩は絶対にいないことが解った。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「もう麻縄がのこり少なですよ。これが尽きるまでに行止まりへ出るでしょうか」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三百円を受けた時はうれしくもなく難有ありがたくもなく又いやとも思わず。その中百円を葬儀の経費に百円を革包に返し、のこりの百円及び家財家具を売り払った金を旅費として飄然ひょうぜんと東京を離れて了った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
初七日しょなぬかもうでし折には、なかばれたる白張しらはり提灯ちょうちんさびしく立ちて、生花いけばなの桜の色なくしぼめるを見たりしが、それもこれも今日はのこりなく取捨られつ、ただ白木の位牌と香炉のみありのままに据えてあり。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それで玉子酒たまござけ仕掛しかけをしてましたが、そののこりをおまへんだのさ。
「翁曰、俳諧世に三合はいでたり。七合はのこりたりと申されけり。」
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「『あはれ、のこりすくなき世に、おひ出づべき人にこそ』とて、抱きとり給へば、いと心やすくうち笑みて、つぶつぶと肥えて白ううつくし。大将などのちごひ、ほのかに思し出づるには似給はず。」(「同」)
のこりなくあぢはひて、かれも人なる
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
また藩の諸役所にて公然たる賄賂わいろ沙汰さたまれなれども、おのずから役徳やくとくなるものあり。江戸大阪の勤番よりたずさえかえ土産みやげの品は、旅費ののこりにあらざれば所謂いわゆる役徳をつみたるものより外ならず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
父楊庵は金を安積氏にかえし、人を九州にって子を連れ戻した。良三はまだのこりの金を持っていたので、迎えに来た男をしたがえて東上するのに、駅々で人におごること貴公子の如くであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『ケンタッキー』が沈んだので、のこりの四戦艦は、死物狂しにものぐるいであばれ出した。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
蝶吉はのこりすくなになった年期に借り足して、母親を見送ってからは、世に便たよりなく、心細さのあまり、ちと棄身すてみになって、日頃から少しはけた口のますます酒量を増して、ある時も青楼ちゃやの座敷で酔った帰りに
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)