おほむ)” の例文
蘭軒が師事した所の儒家医家はおほむね此の如きに過ぎない。わたくしは蘭軒の師家より得た所のものには余り重きを置きたくない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
婦人の婚姻に因りてる処のものはおほむね斯の如し。しかうして男子もまた、先人いはく、「妻なければたのしみ少く、妻ある身にはかなしみ多し」
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我は羅馬以北の景を看て、そのおほむね皆陰鬱なるに驚きぬ。大澤たいたくの畔の如くならず、テルラチナなる橄欖の林の棕櫚しゆろを交へたるが如くならず。
建築の外観の宏壮なのも、実は近寄つて見ると巨石を用ひた英仏の古い奥ゆかしい建築とちがつて、おほむね人造石で堅めてあるのでがつかりする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
果然くわぜんれはいくばくもなくして漢族かんぞくのためにほろぼされた。ひと拓拔氏たくばつしのみならず支那塞外しなさくぐわい蠻族ばんぞくおほむねそのてつんでゐる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
家流の舞蹈はおほむ所作しよさにて之を見る者なれば、爰に言はず、所謂足取、手振、其一部の形式に到りては、遂に我劇界の一疑問とならずんばあらず。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
教員はおほむね士族の若者であつた、なかには中年ものも居た。『窮理の学』といふことがそれらの教員の口から云はれた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
劇烈欝勃うつぼつの行為を描き、其主人公はおほむね薄志弱行なりし故に、メルクは彼をいましめていはく、かくの如き精気なく誠心なき汚穢をわいなる愚物は将来決ツして写すなか
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
太閤ノ時ニあたリ、其ノ天下ニ布列スル者、おほむネ希世ノ雄也、而シテことごとク其ノ用ヲ為シテ敢ヘテそむカシメザルハ必ズ術有ラン、いはク其意ニあたル也、曰ク其意ノ外ニ出ヅル也——程度で尽きるだろう。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あつかさ編目あみめとほしてをんなかほほそつよせんゑがく。をんなかほやつれてた。おほむねむつてた。みゝもとで太皷たいこやかましいおととおふくろうたこゑとがいつとはなしにさそつたのであつたかもれぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おほむ床屋とこやの親方の人生観を講釈すると五十歩百歩のかんにあるが如し。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
父の日記はおほむね農業日記であるが、かういふ事も漏らさず、極く簡単に記してある。青根温泉に行つたときのことを僕は極めてかすかにおぼえてゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
形はおほむ手毬てまりの様に円く大きく盛上り、色はかはつた種種しゆ/″\複色ふくしよくを出して、中にはえた緑青ろくしやう色をした物さへある。すべて鉢植でなく切花きりばな硝子罎がらすびんに挿して陳列して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この小都會は削立さくりつ千尺の大岩石の上にあり。これを貫ける街道は僅に一車をるべし。こゝ等の家は、おほむね皆平家ひらやに窓を穿うがつことなく、その代りには戸口を大いにしたり。
然れども其の説くところおほむね卑近にして、俚耳りじに入り易きの故を以て、人之を俗物と称す。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
わたくしの眞志屋文書よりた所の繼承順序は、おほむかくの如きに過ぎない。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
当時の日本留学生はおほむね三年ぐらゐ居たのであり、一つの都市に居ついて其処そこで勉強するのを常としたから、都市の人々と留学生との間に、おのづと心の交渉が成立ち
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
文学者のがはには髪や髭に手入をして居る者もあるが、画家はおほむそれ等のことに無頓着な風をして居る。名物男の老主人フレデリツクは断えず酒臭い気息いきをして客ごとに話して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
然れども当時の文学中の最大部分たる洒落本、戯作の類の大に之にあづかりて力ありし事を思はざる可からず。当時の作家はおほむね遊廓内の理想家にして、且つ遊廓塲裡の写実家なりしなり。
彼が生路はおほむね平滑なりしに、轗軻かんか数奇さくきなるは我身の上なりければなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
従来の階級はおほむね壊裂したり、くはふるに長年の乱世に人民の位地もおほいに前とは異なりて、従来貴族たりし者の落ちて平民の籍に投ぜし者、従来平民たりし者の登りて貴族の位地を占めし者
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
史実として時刻の考へられるものは、おほむね左の通である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)