案山子かゝし)” の例文
其処そこけては我等わしらふなぢや。案山子かゝしみのさばいてらうとするなら、ぴち/\ねる、見事みごとおよぐぞ。老爺ぢい広言くわうげんくではねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大層顏の良いのが居たつて、辻斬へ指も差せねえやうぢや案山子かゝしほどの役にも立たねえ、——と斯うだ、親分
六尺豊の太十に私は振りまはされて案山子かゝしのやうであつたが、太十があまりの手応へのなさに毒気を抜かれて、月を仰いだ瞬間、矢庭に私は蛇籠の目から滾れ出た鉄瓶大の石を拾ふや
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
早「ところがわしふみいた事がねえから、われ書いてくんろ、汝は鎮守様の地口行灯じぐちあんどうこしれえたがうめえよ、それ何とかいう地口が有ったっけ、そう/\、案山子かゝしのところに何かるのよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
をぢがり往け、といはるゝときは、われ必ず泣きぬ。これも無理ならず。母上はをぢにやさしくせよ、と我にをしへながら、我をおどさむとおもふときは、必ずをぢを案山子かゝしに使ひ給ひき。
と言つて、案山子かゝしのやうな恰好をして、その古洋服に手を通しかけた。
ずつと遠くの舟に立つて居る者は案山子かゝしの様に見えた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
この案山子かゝし野郎め。邪魔だ、邪魔だ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
銃と剣を持った巡警は、案山子かゝしだ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
稻束いなづかたてに、や、御寮ごれう、いづくへぞ、とそゞろにへば、莞爾につこりして、さみしいから、田圃たんぼ案山子かゝしに、さかづきをさしにくんですよ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
八五郎が持つて來たのは、案山子かゝしに似た變梃へんてこなもので、平次にも何にに使つたものか見當が付きません。
『は、は、は、』とかたちさだめず、むや/\の海鼠なまこのやうな影法師かげぼふしが、案山子かゝしあしもとをいつツむら/\とまとふてすゝむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もう澤山だが、お前の踊りの眞似は案山子かゝしに魔が差したやうで、氣味がよくねえ」
ときがつかなかつたが、ときかへりがけに案山子かゝし歩行あるうしろからると、途中とちゆう一里塚いちりづかのやうな小蔭こかげがあつて、まつ其処そこに、こずえひくえだれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
半次は床屋の下剃したぞりで二十三、助七は質屋の手代で二十七、どちらも若くて無分別で、水本賀奈女のあやつあやしい糸のまに/\、平次の所謂いはゆる魔のさした案山子かゝしのやうに踊つてゐた仲間です。
くもくもきたり、やがてみづごとれぬ。白雲しらくも行衞ゆくへまがふ、蘆間あしまふねあり。あは蕎麥そば色紙畠しきしばたけ小田をだ棚田たなだ案山子かゝしとほ夕越ゆふごえて、よひくらきにふなばたしろし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まさかあの案山子かゝしが差したやうなのにつてゐるんぢやもるまいな」
田圃たんぼには赤蜻蛉あかとんぼ案山子かゝし鳴子なるこなどいづれも風情ふぜいなり。てんうらゝかにしてその幽靈坂いうれいざか樹立こだちなかとりこゑす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎でうまく行かなかつたら、その時は俺が出て見るとしたらどんなものだらう、石原の兄哥へは、お品さんから——手不足で困るから、案山子かゝしの代りに八五郎を頼んで來たと言へば濟む——