朝陽あさひ)” の例文
程なく官兵衛から披露すると、秀吉は朝陽あさひのこぼれている書院へ彼を引いて打ちくつろいだ。むかし話やら、都の噂などの末に
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忍ヶ岡と太郎稲荷の森の梢には朝陽あさひが際立ツてあたツてる。入谷は尚ほ半分靄に包まれ、吉原田甫は一面の霜である。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しのぶおかと太郎稲荷いなりの森の梢には朝陽あさひが際立ッてあたッている。入谷いりやはなお半分もやに包まれ、吉原田甫たんぼは一面の霜である。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
朝陽あさひがむこう側の屋根瓦を寒く染めていた。労働者が群をして狭い街路まちを往来していた。謙作は海岸の方角が判らなくなっていた。彼は人にこうと思った。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長い春の夜もやがて明けて華やかな朝陽あさひが谿谷の国の隅々すみずみ隈々くまぐまにまで射し入って夜鳥のしめやかな啼き声に代わって暁の鳥の勇ましい声が空と地上にち満ちた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
飛んで來たのは、かゝうどの喜八郎と、今起きたらしい、せがれの久太郎でした。大地の上を泳ぎ廻るお竹を掻きのけて、朝陽あさひが一パイに入つて居る、下男部屋を一と眼——。
しかも、その島は純白で、朝陽あさひをいっぱいにうけて、銀色さんぜんと輝いているではないか。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
我はこれを見聞きて、ギドオ・レニイ(伊太利畫工)が仰塵畫てんじやうゑ朝陽あさひと題せるを想出しぬ。
やがて昇る朝陽あさひに、朱に染めた頭を集めて男体と女体が、この浩遠こうえんな眺めを覗きながら、自然の悠久を無言に語り合っている。草薙山の方に近い密林の中に、早春の雄鹿が嬉々ききと鳴く。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
朝陽あさひをあびて花は赤、青、黄、紫の色とりどりのうつくしさで、いたいほど目にしみた。そしてえもいわれぬ香が、そこら中にただよい、まるで天国へ来たような気がするのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
スチームに暖められた汽車の中に仮睡の一夜を明かして、翌朝早く眼をますと、窓の外は野も山も、薄化粧をしたような霜にてて、それにうららかな茜色あかねいろ朝陽あさひの光がみなぎり渡っていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
夜来やらいの雨がれて、いいお天気でした。健ちゃんは学校へ行きました。より江は蛙がいなくなったと騒いでいました。戸外では、まぶしいほど朝陽あさひがあたって、青葉は燃えるように光っていました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
目を覚ますと、朝陽あさひがいっぱいに枕もとの壁に当たっていた。
謎の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
一同、勝鬨かちどきの声をあわせて、万歳を三唱した頃、長江の水は白々と明け放れ、鳳凰山ほうおうざん、紫金山の嶺々に朝陽あさひは映えていた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しのぶおかと太郎稲荷の森の梢には朝陽あさひが際立ッてあたッている。入谷いりやはなお半分もやに包まれ、吉原田甫よしわらたんぼは一面の霜である。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
海から昇った真紅まっか朝陽あさひが長者の家の棟棟むねむねを照らしておりました。背後手うしろでに縛られた壮い男は、見張の男に引摺ひきずられて母屋おもや庭前にわさきへはいって来て、土の上に腰をおろしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その美しい朝陽あさひの光が、開け放された窓を通し、室一杯に流れ込んでいたが、床の間に安置された御厨子みずしを照らし、御厨子の中に立たせ給う聖母マリヤとイエス基督キリストとをほのおのように輝かせている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝陽あさひは土いちめんにこぼれている。すたすたと本丸の奥の丘へ上ってゆく。一叢ひとむらの林のなかに、古い神社がある。ほがらかな拍手かしわでの音がこだまする。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かじが少し狂うと舟は蘆の中へずれて往って青い葉が船縁ふなべりにざらざらと音をたてた。微曇うすぐもりのした空かられている初夏の朝陽あさひの光が微紅うすあかく帆を染めていた。舟は前へ前へと往った。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
中には、朝陽あさひに向って、馬簾ばれんを打ち振る隊もあり、一斉に槍の穂をさし上げるのも見え、いななく馬の意気までが、すでに北勢明智光秀の軍をんでいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出たばかりの初夏の朝陽あさひが微熱をただよわしたみちには、やはり死人を見に往くのか何か話し話し林の方へ往く人がちらばっていた。彼はその人びとを追い越すようにして往った。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
眼のまえの加茂川に耀かがやいた紅波こうはを見て、後ろなる三十六峰の背から朝陽あさひが昇ったのを知ったからである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さわぎを耳にして、船部屋ふなべやからあらわれた龍巻九郎右衛門たつまきくろうえもんは、ギラギラかえす朝陽あさひに小手をかざして、しばらく虚空こくう旋回せんかいしている大鷲の影をみつめていたが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、うすい朝陽あさひをうけている紫の房からこぼれてくるにおいは、官兵衛の面を酔うばかりつよく襲ってくる。彼は仰向いたまま、白痴はくちのように口をあいて恍惚こうこつとしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここから西——朝陽あさひと真反対な高地、ふじヶ根山の一端に、キラと、かがやくものがあった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、真っ赤な朝陽あさひが、城頭の東に雲を破って、人々の面にも照り映えて見えた頃
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄金おうごんくさりむねにたらした銀色ぎんいろの十、それが、朝陽あさひをうけて、ギラギラ光っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ばかり、今朝あたりは、朝陽あさひを仰ぐいとまもなく、逃げに逃げぬいている頃だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、警吏やくにんと見たのは、まったく手下の錯覚さっかくで、事実は、如意ヶ岳の尾根を通って、これから朝陽あさひのでるころまでに峰へかかろうと隊伍を組んでゆく十人ほどの狩猟夫かりゅうどの連中だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うつくしい朝陽あさひ光線こうせんが、ほそい梢から、木のこけから、滝壺たきつぼそこの水の底まで少しずつゆきわたっている。ひよ文鳥ぶんちょう駒鳥こまどり遊仙鳥ゆうせんちょう、そんな小禽ことりが、紅葉もみじちらして歌いあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月明りとのみ思っていた水面の明るさは、いつか夜明けであったとみえて、彼が、当惑しているひとみの前は程なく輝かしい朝陽あさひの色に染められて、さまざまな小鳥が水辺を飛びわし初める。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝陽あさひを見てから、敵も味方も気づいて、騒ぎ出したことだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば落日の赤さも、朝陽あさひの赤さも似ているようにである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝陽あさひはいつもの朝らしく草の根にまでしてきた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余燼よじんの煙のかなたからにぶ朝陽あさひはのぼった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)