曙光しょこう)” の例文
個人が相結んで社会を形成するその根本要素はここに存在するので、義務の観念はこれより萌芽し、道徳の曙光しょこうはここに顕現する。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ここまで読みかけると、万吉の胸が処女のようにおどった。彼にも足かけ十年臥薪甞胆がしんしょうたんの事件がある。それへ一曙光しょこうを見出したのだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武力に訴える人類間の闘争は独墺の屈服に由って一段落がついたようですが、望む所の平和はまだ容易にその曙光しょこうを示しません。
階級闘争の彼方へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
これまで心配をし続けていた人はほっとして、危険もこれで去ったという安心を覚えて恢復かいふく曙光しょこうも現われたとだれもが思った。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どの道、春廼舎の『書生気質』や硯友社連の諸作と比べて『浮雲』が一頭いっとうぬきんずる新興文芸の第一の曙光しょこうであるは争う事は出来ない。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
元来きわめて不明瞭ふめいりょうな「摩擦」そのものの本性に関する諸問題に意外な曙光しょこうをもたらすようなことにならないとも限らない。
日常身辺の物理的諸問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
けんにあまる壁を切りて、高く穿うがてる細き窓から薄暗き曙光しょこうが漏れて、物の色の定かに見えぬ中に幻影の盾のみが闇に懸る大蜘蛛おおぐもまなこの如く光る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは夏の微光であり、あらゆる曙光しょこうのごとく新鮮で、あらゆる小児のごとく快活である。また赤児であるために時には少し涙にぬれることもある。
ここしばらくを通り越して、さて曙光しょこうを見た処で、初めて薬がくので、それから漸次快気に向うわけであって、今日の処は、拙者はそのしのぎをつけている。
これは余談だけれど、我々の春泥捜索は、まあそんな風で、いつまでたっても一向曙光しょこうを認めないのであった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しそれが、奇怪な理想ではあるにしても、学理の上で、少しでも可能の曙光しょこうが見え、そして、それが博士の手で博士一代に完成することが出来なかったら
しかし、この病み疲れた青白い顔には、新生活に向かう近き未来の更生、完全な復活の曙光しょこうが、もはや輝いているのであった。愛が彼らを復活させたのである。
この曙光しょこうが発展して真昼まひるの輝きとならば、神の愛は悉く解り、来世の希望は手に取る如くあざやかとなるのである。しかしながらこれは急速に発展すべきものではない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それが、明治二十年頃からか、ぼつぼつ大聖寺山代及びその附近の村などにかまを築く人が出来て来て、こんな目立たぬ所に、九谷焼の復活の曙光しょこうが見えて来たのである。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
生にたいする興味が、人間的な同感が、まだ蒼白あおじろ曙光しょこうのように現われてくる心地がした。そしてその夜、幾月目かに初めて、娘の面影が彼女の夢想のうちに現われてきた。
だがその手紙で、倭文子の心持がはっきりわかったので、彼はかえって新しい曙光しょこうを見た。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一八九四年「牧神の午後」が国民音楽協会で演奏され、ドビュッシーは始めて成功の曙光しょこうを認めた。批評家達は当惑しながらもきわめて控目ひかえめめなければならなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼は乱れ放題乱れた社会にまた統一の曙光しょこうの見えて来たのも、一つは日本の国柄であることを想像し、この古めかしく疲れ果てた街道にも生気のそそぎ入れられる日の来ることを想像した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
またインドで曙光しょこう神アスヴィナウは、日神スリヤその妃サンニアと牡馬牝馬に化けて交わり生んだので三輪の驢車に乗り、日神自身は翡翠かわせみ色の七頭の馬に一輪車を牽かせて乗ると類似して
けれどもどのページからも、解決の曙光しょこうは見られなかった。それどころか、ほとんど、毎日のページに、憤りや、歎きや、自嘲や、ときには、放棄的な、暗澹とした文句が書き列ねてある。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
にわかにほのぼのとして事件に曙光しょこうが見えだしたものでしたから、伝六はもうおおはしゃぎで、ふうふうとひとりで暑がりながら、右門のいわゆる奈良茶づけのしたくをととのえていましたが
然し今はかすかながらもその解決に対する曙光しょこうを認め得た心持がする。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それがちらりとでも見えたら、我々の成功の曙光しょこうが現われるだろう。
早くも今朝から持ち直したことや櫛田医師の診断の模様などをくわしく話し、恢復かいふくの方へ一道の曙光しょこうを認めるようになったことを告げると、それきり二三日は何とも云って来なかったが、四日目の夕方
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大事の曙光しょこうに一まつの黒き不安をすってしまった! もし向後こうご渭山いやまの城に妖異のある場合はいよいよ家中の者に不吉を予感さするであろう。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日世界の文明人は皆この問題に触れて、或者は懐疑に陥り、或者は解決の曙光しょこうを認めたといっている。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
彼はこの不可解な謎の言葉を解く為に、丸四日を費して、未だに何らの曙光しょこうをも見出し得ないのだ。彼にしては、生れてから、こんな難物に出会ったのは初めての経験だ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当人の公言するごとくいつわりなき事実ではあるが、いまだに成効せいこう曙光しょこうを拝まないと云って、さも苦しそうな声を出して見せるうちには、少なくとも五割方の懸値かけねこもっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始めて新しい結果の曙光しょこうがおぼろに見え始めた時に感じるのと同じようなものであった。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これが実に東西両文明の結合する曙光しょこうであって、極端の西は即ち極端の東で、欧羅巴ヨーロッパから亜米利加アメリカに西向し、更に太平洋を越えて西向した文明は、東漸の極、太平洋にさえぎられて
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
人類の前進のためには、常に高峰の上に勇気というほこらかな教訓がなければならない。豪胆は歴史を輝かすものであって、人間の最も大なる光輝の一つである。曙光しょこうは立ち上る時に敢行する。
この騒ぎに、梳手の娘達はどこへ行ったかわかりませんが、突当りの障子を開けると、目の下は真っ黒に濁った神田川の流れ、平次の胸には、始めて事件の謎を解く最後の曙光しょこうが射したのです。
漸く曙光しょこうを得たのであるということくらいは覚悟しておく必要がある。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
芸術家としてのかれの人生の曙光しょこうは見えた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし、その大津まで出ることに成功しても、それは決して勝利をつかんだことにもならないし、大勢の上に曙光しょこうを見ることでもなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物理学上における偶然異同の現象の研究は近年になっていくらか新しい進展の曙光しょこうを漏らし始めたように見えるが、今のところまだまだその研究の方法も幼稚で範囲もはなはだ狭い。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女から見れば不慮の出来事と云わなければならないこの破綻はたんは、とりなおさず彼女にとって復活の曙光しょこうであった。彼女は遠い地平線の上に、薔薇色ばらいろの空を、薄明るく眺める事ができた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、私達は又、暫く議論を戦わしたことですが、事件は、一つの発見がある毎に、かえってますます複雑に、不可解になって行くばかりで、少しも解決の曙光しょこうは見えないのでありました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この騒ぎに、梳手の娘達はどこへ行ったかわかりませんが、突当りの障子を開けると、目の下は真っ黒に濁った神田川の流れ、平次の胸には、始めて事件の謎を解く最後の曙光しょこうが射したのです。
平和の攪乱者かくらんしゃに対して正義人道の上より共同の責任を感じ、崇高なる犠牲の精神を発揮して、ついにチウトン文明の代表者たる独逸ドイツの民族主義を膺懲ようちょうし得、ここに平和の曙光しょこうの輝き始めた事を喜ぶ。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
われらの感じるところ、また衆民の共感するところで、信長出でて初めて万民は曙光しょこうを知ったというも過言でありますまい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十坪に足らぬ庭のおもも元日の曙光しょこうを受けた時よりあざやかな活気を呈している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
統計物理学の領域にも全く新しい進出の曙光しょこうが見られる今日において、特にここで問題とするような諸現象を列挙して読者の注意を促すのも決して無益のわざではあるまいと思われるのである。
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
平和の曙光しょこうは今日既に見えて来たのである。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その曙光しょこうを見出して来るとともに、日本左衛門中心の一味にとって、事ごとに邪魔になるものは、その短刀をめぐッて同じ猟奇心りょうきしんに動く人間と
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが何よりの証拠である。ただ近来少数ではあるがまじめで立派な連句に関する研究的の著書が現われるのは暗夜に一抹いちまつ曙光しょこうを見るような気がして喜ばしい。しかし結局連句は音楽である。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
初めて彼女の面に、ほっとした容子がただよった。悲痛な別離を知るうちにも、花洩る微かな曙光しょこうのような色も見えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめて今日の科学が曙光しょこうを現わしたと思われる。
小御所こごしょ会議、慶喜よしのぶ下坂げはん、大号令の発布、政権奉還の一決と、暗転から明転へと、さしもの紛争がすべて一直下に解決の曙光しょこうが見えてきてからの迎えなのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして、さしもの下邳城かひじょうも、日没と共に、まったく曹操の掌中に収められ、一夜明けると、城頭楼門の東西には、曹軍の旗が満々と、曙光しょこうの空にひるがえっていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)