あらたま)” の例文
その通り彼女は婦人たちが這入つて來るや立上つてその前に近づき、いかにもあらたまつたお辭儀をして、眞面目くさつて云つた——
好きでない気質の交つた子だと、鏡子は昔からの感情のあらたまがたい事も健に思つたのであつた。隣の間で榮子の泣声なきごゑがする。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
服装ふくそうまでもむかしながらのこのみで、鼠色ねずみいろ衣裳いしょう大紋だいもんったくろ羽織はおり、これにはかまをつけて、こしにはおさだまりの大小だいしょうほんたいへんにきちんとあらたまった扮装いでたちなのでした。
定「定文句じょうもんくでございますね、しかし色男の処へ贈る手紙にしちゃアあらたまり過ぎてるように存じますね」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
るい あらまあ、奥様、そんなにおあらたまりになつちや、わたくし、舌がこはばつてしまひますわ。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
翌朝あくるひになると三太夫、婦人おんなを呼附け、言葉も容子ようすあらたまりて、「ひまを遣る。」とやぶから棒。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つきあらたまつて、役所やくしよ動搖どうえうこれ一段落いちだんらくだと沙汰さたせられたとき宗助そうすけのこつた自分じぶん運命うんめいかへりみて、當然たうぜんやうにもおもつた。また偶然ぐうぜんやうにもおもつた。ちながら、御米およね見下みおろして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『しかし、それでは学校に取りまして非常に残念なことです。』と校長はあらたまつて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
後生ごしやうですからはなしてください』とあらたまつてあいちやんがひました、うした素振そぶりはなしかけてもいかうかまつたわからなかつたので、『何故なぜそのねこ其麽そんな露出むきだしてゐるのですか?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
如意にょい片手に、白髯しらひげ長きこの老僧が、あらたまって物語る談話はなしを聞けば
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
警部の態度も、自然にあらたまっていた。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「大層またあらたまりやがつたな」
「えゝ/\、こまつたな、これは。へなら、ふだけれど、あらたまつては面目めんもくねえ。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから少し前よりはあらたまった態度で口をき出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)