擾乱じょうらん)” の例文
旧字:擾亂
波は岩を、岩は波を噛んで、ここに囂々ごうごう淙々そうそうの音をしつつ、再び変圧し、転廻し、捲騰けんとうし、擾乱じょうらんする豪快無比の壮観を現出する。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「犯罪というのは今も申す通り、非常に重大な国事犯です。政府を顛覆し、全国に一大擾乱じょうらんを捲き起そうという、驚くべき陰謀です」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
長州一藩のゆえをもって皇国擾乱じょうらんの緒を開くようではいったんの盛挙もかえって後日の害となるべきかと深く憂慮されるというにある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まさかそんなこともあるまい。もし軽々しく征伐して、それが真実でなかったら、求めて君臣の間に擾乱じょうらんかもすものではないか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富農クラークがソヴェトの穀物生産計画を擾乱じょうらんしている事実は、おととし、一九二八年の穀物危機とよばれた時期から、誰の目にもはっきりした。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
がやがやと騒ぐ聴衆のような雲や波の擾乱じょうらんの中から、漁夫たちの鈍い Largo pianissimo とも言うべき運動が起こって
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この時サタンが尊者を誘惑擾乱じょうらんつとめたところが欧州名工の画題の最も高名な一つで、サルワトル・ロザ以下その考案に脳力を腎虚させた。
偉大な高邁こうまいな性格の人にあっては、肉体的の苦悩にとらえられた筋肉と感覚との擾乱じょうらんは、その心霊を発露さして、それを額の上に現出させる。
そこでおれは擾乱じょうらん呪詛じゅそをかけて地水火風を呪った。すると今まで少しの風もなかった空に恐ろしい嵐が吹き起って来た。
それから長唄ながうたか何からしいものが始まって、ガーガーいう歌の声とビンビン響く三味線の音で、すっかりわれわれの談話は擾乱じょうらんされてしまった。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かつその教えんと欲するところを教え、そのつたえんと欲するところを伝え、父厳母慈ふげんぼじならびおこなわれ、外人のこれを擾乱じょうらんし、これを誘惑するの害なし。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
見る。擾乱じょうらんを呼ぶ。刃元にうかぶ一線の乱れ焼刃。女髪剣、必ずともに、その女髪に心惹かれて、たわむれにも鯉口を押し拡げるでないぞ。よいか。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼はすでに破産者になっているだろう——狼狽と擾乱じょうらんと滅亡とそして眼には見えない悲惨との犠牲者になっているだろう……二重の復讎ふくしゅうになって……
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
これ社会に擾乱じょうらんの避くべからざる所以である。宜湾朝保はこの間に立って時勢を解釈し、輿論よろんを無視して沖縄を今日のような位地に置いたのでございます。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
そして、恋せる女が眼をつぶって身を任せるのと同様に、幻惑せる感覚の朦朧もうろうたる擾乱じょうらんの境地に楽しんでいた。
勿論、伸子のごときは、最も陰険兇悪をきわめた、つまり、あの悪鬼特有の擾乱じょうらん策と云うのほかにないのですよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
世代の荒浪と擾乱じょうらん馳駆ちくに揉まれて、十世のあいだ安泰につづいていたこの目立たない小藩主の血には、無視されたと知るたびに重く沈澱ちんでんする意志があった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「自記計器のグラフを見ますと、三分間ばかり、はげしい擾乱じょうらん状態にあったことが、記録されています」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神が力を試みるというせっかくの旧方式も、結局無意味な擾乱じょうらんに過ぎぬことになったのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すなわち、あらゆる情熱も憎悪も自然の平和の中にけ合う。無窮の空間の静寂が人間の擾乱じょうらんを取り囲んでいる。人間の擾乱は、水中に投ぜられた小石のようにその中に没する。
それでなければいたずらに紛々たる擾乱じょうらんを文壇に喚起する道具に過ぎなくなります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何のために自分はここを出て行ったのだろう! また何のために長老は自分を「娑婆」へ送り出したのだろう? ここには静寂と霊気があふれているのに、かしこは擾乱じょうらんと暗黒のちまた
私は日本に対する朝鮮の反感を、極めて自然な結果に過ぎぬと考えている。日本が自らかもした擾乱じょうらんに対しては、日本自らがその責を負わねばならぬ。為政者は貴方がたを同化しようとする。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
時々電光でも迸るように空の何処かがパッと明るくなると、雲のあわただしい擾乱じょうらんが始まる。重く停滞した下層の霧までが翅を得たもののようにすうと舞いあがりながら川下へ飛んでは消える。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
お上が兵隊を連れて来ることは、これも前からいつもあることで、格別不思議なことでもないが、ただ一つ恐ろしいのは、ほかに幾らか不良分子がまじっていて内部の擾乱じょうらんを計っていることだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
身に迫る危険、擾乱じょうらんうずまきの中に投ぜられた時、彼は静かに『一……二……三……四……五……六……』と数を読み初める。かくする事一二分、心臓の鼓動は鎮まって、無念無想の妙境に達する。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
小僧行基及びその徒弟等、街衢がいくにて妄りに罪禍を説き、朋党を構えて指臂しひ焚剥ふんぱくせしめ、諸家を歴訪仮説して強いて余物を乞い、聖道を詐称し百姓ひゃくせいを妖惑する。ために道俗擾乱じょうらんし四民は業を棄てる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その報告は役人仲間に大きな擾乱じょうらんを起す原因になつた。
死んだ魂 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
北国の——悩ましき擾乱じょうらん
残冬 (新字新仮名) / 今野大力(著)
「……いま、北京府の急使、王定が訴えに聞けば、これを一地方の擾乱じょうらんとだけでは見過ごせん。天下の兇事、大宋たいそう朝廷のご威厳にかかわる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一見いかに現在の道徳観を擾乱じょうらんするように思われるものであっても、また一見いかに病的な情緒に満ちたものであっても
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
煩悩魔祖父江出羽と——果して! 渦紋は擾乱じょうらんを呼び、事件は展開を予約して、場面はいま、大江戸に移っているのだ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
多少の暴風雨的擾乱じょうらんは常に戦いに交じるものである、ある暗澹たるもの、ある天意的なるものが。各歴史家はそれらの混戦のうちに勝手な筋道を立ててみる。
救った事になるじゃないか。そうでなければ、仮令たとえ犯行が奈落で行われたにしてもだ。誰しも一応は、あの震動が孔雀の擾乱じょうらん手段ではないか——と考えるだろうからね
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
烈風に乗じて火を内裏だいりに放ち、中川宮および松平容保の参内を途中に要撃し、その擾乱じょうらんにまぎれて鸞輿らんよ叡山えいざんに奉ずる計画のあったことも知らねばならないと言ってある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
監視哨からの無電報告が、一つとして、本部に届かなかったのは、鳩便がつたえてきたとおり敵軍が無電通信を妨害するため空中擾乱じょうらんを起す電波を発明したのにちがいない。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その懊悩を統御することはできないが、しかしそれから害せられはしないで、ただじっと見守っていた、自由な朗らかな知力が——「際限なく擾乱じょうらんする心に残存する中心の平穏」
不安な擾乱じょうらんをもって、兄がもう少し自分の方へ近寄る気持になるのを待っていた。
私は日本に対する朝鮮の反感を、極めて自然な結果に過ぎぬと考えている。日本が自らかもした擾乱じょうらんに対しては、日本自らがその責を負わねばならぬ。為政者は貴方がたを同化しようとする。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すばらしい飛沫しぶき、飛沫、飛沫、奔流しつつ、飛躍しつつ、擾乱じょうらんしつつだ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さしたる外部の擾乱じょうらんもなく、数千年の生存を続けていたとすれば、いつかは現在のような浅ましい一億共喰ともぐいの状態に、陥って行くのも逃れがたい命数だったかもしれず、そうなるまいとすれば
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中にも奥仙丈方面にたむろしている積雲の大塊は、銀白の頭をもくもくと碧空にもたげて、絶えず擾乱じょうらんを捲き起している風情、あたかも百門の大砲を備えた一個軍団の兵が惨としておごらざる勢を示している。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
天下の擾乱じょうらんも久しいことだ。世上、これを皇統こうとうの争いともいっているが、またそもそもは、この義貞となんじとの宿怨しゅくえんにもよる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水流の場合には一般に流線の広がる時に擾乱じょうらんが起こるが流線が集約する時にはそれが整斉せいせいされる、あれと似たことがありはしないかとも考えられる。
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ふうむ」と忠相は瞑目めいもくして、「いわば擾乱じょうらん災禍さいか——じゃな。して、こうなればどうだ?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この擾乱じょうらんのうちにおいてたがいに愛し合い完全な理性を保持することだと、感じていた。
女房は擾乱じょうらんした頭で、裏口のドアじょうをかけると再び男湯の流し場へ駆けつけた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その擾乱じょうらんがいかなるものであろうとも、人間の責任はそこに交じってはいない。
中世紀全体を通じて最も高い人間性の特徴とみなされていたのは、幻覚を起す——云い換えれば、深い精神的擾乱じょうらんの能力を持つにあり——ですと。ホホホホホ、これでございますものね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
また白く白く擾乱じょうらんして底止ていしするところを知らないのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)