捏造ねつぞう)” の例文
その件については何ら警官の報告も届いていなかった。警視庁ではそれを作り話だと見なした。それを捏造ねつぞうしたのは御者だとされた。
相矛盾せる両傾向の不思議なる五年間の共棲きょうせいを我々に理解させるために、そこに論者が自分勝手に一つの動機を捏造ねつぞうしていることである。
「知っている? これは驚いた。まさかアッタッシェの癖に、新聞記者と一しょになって、いい加減な嘘を捏造ねつぞうするのではあるまいね。」
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兄にも妹にもね付けられて、内田は失望した。その失望から彼は根もないことを捏造ねつぞうして、赤座兄妹を傷つけようとたくらんだ。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
反対に慇懃いんぎん床几しょうぎを下って、その首に敬礼したという家康の人物を引きたてるために、捏造ねつぞうした徳川時代御用史家のこしらえ事にすぎない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根も葉も無い不埒ふらちの中傷を捏造ねつぞうし、デンマーク一国はおろか、ウイッタンバーグの大学までうわさきちらすとは、油断のならぬものですね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
その妹がさんざんに辱しめられ——恐らくは墓石も悲憤の涙で慄えるであろうような讒謗ざんぼう捏造ねつぞうとを浴びせられているのを
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「左様さ、陶の方は、どう罵っても差支えない。材料が足りなければ口合くちあいをして事実を捏造ねつぞうしても構わん。しかしそれだけで無罪になりそうか」
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
挙げてある罪条は似ているが、一味で捏造ねつぞうしたものとはどこかしら違う、第五条となり六条となるとますます違ってきた。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
... 捏造ねつぞうする人も捏造する人なら、みんながそれに受けるいうのん不思議でなれしません」いいますと、「あんたはそれやから呑気のんきや」いいなさって
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お前が云う如く庄司利喜太郎がお前を拷問にかけ、条件付で約束、一時書類を隠し捏造ねつぞうしたものである、偽造したものであると云う事も何も分らない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
日本人たるわれわれ何とも見当の付かぬ珍談だが何か鯨の潮吹しおふきの孔などから思い付いた捏造ねつぞう説でなかろうか。
自分の捏造ねつぞうでも無いが、地名も人名も何も無くては余り漠然としているから、赤染右衛門集に、三輪の山のあたりにや、と記してあるので用いたまでである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
捏造ねつぞうをしたりして得意がっているが、それも旧式の下品な半畳で、とても今時の表へ出せる代物しろものではないが、ある大劇場に長くいた年功で、鼻ッぱしが強く
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の捏造ねつぞうした推理には、単なる事情推定による嫌疑者を釈放するには、十分過ぎる程の真実味があるのだ。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
尊者は大いにその疑念を氷解していわれますには「いやこの辺の俗物が俗な考えから種々な説を捏造ねつぞうしたのである。全くあなたは信実に仏教を求める方である」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
同時に、人間の本能の中から野獣と共通な部分を理智的に引き離して、純霊というような境地を捏造ねつぞうしようとするのは、明かに本能に対するいわれのない迫害である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
裁判所がありもしない証拠を捏造ねつぞうするようなことは、まあおひかえになった方がよいでしょう。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
捏造ねつぞう記事か与太よた記事かを見分けるためには、猫の眼玉みたいに変化する世界列強のペテンのかけ合いから、インチキとヨタでゴッタ返す政局の裏表、瓢箪鯰ひょうたんなまずの財界の趨勢
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それには、青木と田島とが、失望の恨みから、事件を誇張したり、捏造ねつぞうしたりしたのだろう、僕が機敏に逃げたのなら、僕を呼び寄せた坊主をなぐれという騒ぎになった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
これは夫の弁護に不満を懐いた女の捏造ねつぞうで、家庭の平和を破壊してやろうという蛇のような復讐かも知れない、うっかり乗ってはそれこそ物笑いだと、心で打ち消すあとから
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そして其筋の計算に由れば、偉大なる風博士は僕と共謀のうえ遺書を捏造ねつぞうして自殺を装い、かくてかの憎むべきたこ博士の名誉毀損をたくらんだに相違あるまいとにらんだのである。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
順序においてごうも変る事がない。するとこの一種の関係に対して吾人ごじん因果いんがの名を与えるのみならず、この関係だけを切り離して因果の法則と云うものを捏造ねつぞうするのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青年将校の支持する真木大将らの皇道派を軍の実権から遠ざけ、軍の指導権を統制派が完全に掌握しようとして、この十一月事件というようなものを捏造ねつぞうしたのだと騒ぎ立てた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
なんたる捏造ねつぞうだ。なんたる侮辱だ。だが何故、自分の交っていたのを知っているのか。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのためには、多少の捏造ねつぞうがあってもかまわなかった。その通信機関を顧祝同が握っている。それから、蒋介石は、これ以上、天津、北京にむかって進軍させる訳には行かなかった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
けれども、それにもかかわらず、物音を聞いてここへかけ登って来た瞬間から、老人の気持はガラッと変って、生涯に一度の大嘘おおうそをついて化け物を捏造ねつぞうし、娘の罪を隠し始めたのだった
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
勿論僕は、神意審問会の情景を再現した際に、なんとなく伸子の匂いが強く鼻を打ってきたのだ。で、試みに、譏詞きしと諷刺のあらん限りを尽し、お座なりの捏造ねつぞうを旗太郎に向けてみた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
大英百科事典エンサイクロペディア・ブリタニカ』について、私は二つ美談を知っている。ともに札幌で、自ら見聞したことで、又聞きの話ではない。少し話を面白くしてあるが、本筋には少しも捏造ねつぞうがはいっていない。
百科事典美談 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
かくして現われた歴史書は、歴史捏造ねつぞうの書物としては、おどろくべき巧妙なものであつた。日本の建国を、紀元前六六〇年に引きのばすために、ある天皇の在位は、百年以上に、つくられている。
ありとあらゆる捏造ねつぞう説を書き立てたであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
われわれが過去を捏造ねつぞうするのだ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
冗談にもせよ、人の作品を踏台にして、そうして何やら作者の人柄に傷つけるようなスキャンダルまで捏造ねつぞうした罪は、決して軽くはありません。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
巧みに伊東家の内部を動かして、「暗殺の企み」があった、というふうに捏造ねつぞうするくらいのことはやりかねない。——その点はぜひしらべる必要がある。
落第の申訳にそんな奇怪な事実を捏造ねつぞうしたように思われるのも、あまり卑怯らしくって残念だから、どこまでも自分の勉強の足らないことにして置いたのです。
白髪鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
創作家が、自分の主観で、勝手に空想し捏造ねつぞうした虚構きょこうの事件は、それを表現してもしんの芸術とはしょうし難い。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
故に守宮と号す。伝えいう東方朔、漢の武帝に語り、これを試むるに験あり(『博物志』四)といえるは、はやく守宮の名あるについて、かかる解釈を捏造ねつぞうしたのだ。
もちろんこれは根もない嘘で、自己の寝反りを理由づけるための捏造ねつぞうに過ぎない。——しかも、彼らは、その悪宣伝をさらに拡大して、安土の信長へも、書を飛ばし
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十川女史は田川夫人がいいかげんな捏造ねつぞうなどする人でないのをよく知っているから、その手紙をおもだった親類たちに示して相談した結果、もし葉子が絵島丸で帰って来たら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「世間の噂も、己の考えでは、誰か第二の己が第二のお前と一しょにいるのを見て、それから捏造ねつぞうしたものらしい。己は固くお前を信じている。その代りお前も己を信じてくれ。」
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「何がって君のしきりに感服しているアンドレア・デル・サルトさ。あれは僕のちょっと捏造ねつぞうした話だ。君がそんなに真面目まじめに信じようとは思わなかったハハハハ」と大喜悦のていである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
…………何もかも真実であった……虚偽の学術研究でも、捏造ねつぞうの告白でもなかった。しかも、それは初めから終りまで正木博士がタッタ一人で計画して、実行して来た事ばかりであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
皆それぞれ風聞を聞き伝えて来たのだが、僅か六七里の間に、いろいろ想像や捏造ねつぞうが加わっているらしいのを、いずれも見て来たように伝えるものだから、おかみさんも迷わざるを得ません。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出鱈目でたらめだ、捏造ねつぞうだ!」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あとは、捏造ねつぞうするばかりである。何も、もう、思い出が無いのである。語ろうとすれば、捏造するより他はない。だんだん、みじめになって来る。
俗天使 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「蛇性の婬」は支那の西湖佳話せいこかわの翻案であるが、これは馬琴が自ら筆記して、讃州さんしゅう高松藩たかまつはん家老かろうに送つたものであるから、まさかに翻案や捏造ねつぞうではあるまいと思はれる。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
たとい孔明に、天地を廻旋かいせんするの才ありとも、乾坤けんこん捏造ねつぞうするほど力があろうとも、到底、その道理を変じて、この世から戦をなくすることはできないにきまっている。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの鐘に二つまで瑕の由来を作った売僧輩まいすはい所行しわざ微笑の至りだが、欧州の耶蘇ヤソ寺にも、愚昧な善男女をて込んで、何とも沙汰の限りな聖蹟霊宝を、捏造ねつぞう保在した事無数だ。
生きさえすれば、どんなうそでもく、どんな間違でも構わず遂行する、まことにあさましいものどもでありますから、空間があるとしないと生活上不便だと思うと、すぐ空間を捏造ねつぞうしてしまう。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新聞社の社長と親佐おやさと葉子との間に起こった事として不倫な捏造ねつぞう記事(葉子はその記事のうち、母に関してはどのへんまでが捏造ねつぞうであるか知らなかった。少なくとも葉子に関しては捏造ねつぞうだった)
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)