挿絵さしえ)” の例文
旧字:插繪
草双紙の挿絵さしえを例にとって言えば、『金花七変化』の鍋島猫騒動なべしまねこそうどうの小森半之丞に、トンビ合羽がっぱを着せたり、靴をはかせたりしている。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
と、一首ものしたように、それには挿絵さしえに、渡辺省亭わたなべせいていの日本画の裸体が、類のないことだったので、アッといわせもしたのだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
犯罪学の書物の挿絵さしえにある様な、獰猛どうもうな壮年の男子に限るものの如く、迷信している為に、幼い子供などの存在には全く不注意であった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
服装と云い、態度と云い、すべてが、パンチの挿絵さしえを切抜いて、そのままそれを、この停車場の人ごみの中へ、立たせたとしか思われない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
前者の傾向は『白樺』に次いで刊行された『不二』や『大調和』のような、吾々の友達の手から生れた雑誌の挿絵さしえがよく物語っていると思う。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
両手りょうてで頭をかかえて書物しょもつ挿絵さしえに見入っている時でも——台所だいどころのいちばんうす暗い片隅かたすみで、自分の小さな椅子いすすわって、夜になりかかっているのに
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
小倉庵おぐらあん長次の近くだった。梅暦うめごよみ挿絵さしえで見るようなはぎまがきで一軒家、家賃も安いし、近所も気楽である。そこへ、越してからすぐ札を出したのが
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『大阪サロン』編輯部、高橋安二郎。なお、挿絵さしえのサンプルとして、三画伯の花鳥図同封、御撰定のうえ、大体の図柄御指示下されば、幸甚に存上候。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
よほど以前の事だが、宇野浩二うのこうじ氏から鍋井なべい君を通じて自分の小説の挿絵さしえを描いて見てくれないかという話があった。
種彦たねひこの小説『田舎源氏いなかげんじ』の挿絵さしえならびにその錦絵にしきえは共に国貞の描く所にして今日こんにちなほ世人に喜ばる。『田舎源氏』は国貞が晩年の画風をうかがふべき好標本たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分としても相当苦労をした作品であるが、尚、これを書き上げるについて、柴田ゆたか氏の激励げきれいと、友人千田実画伯せんだみのるがはくこと西山せん君の卓越たくえつした科学小説挿絵さしえ
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょうどこの時代じぶん——この篇、連載の新聞の挿絵さしえ受持で一座の清方きよかたさんは、下町育ちの意気なお母さんの袖のうちに、博多の帯の端然きちんとした、襟の綺麗な、眉の明るい
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
開いたところの一方のページに裸体の女群が遊んでいるハレムか何かの銅版の挿絵さしえがあるのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その健三には子供の時分その本をくらから引きり出して来て、ページから頁へと丹念に挿絵さしえを拾って見て行くのが、何よりの楽みであった時代の、懐かしい記憶があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
挿絵さしえ天保てんぽう十四年に生れた故父渓石深造けいせきしんぞうが六歳のころから明治四年までの見聞を「実見画録」として百五十図書残しおいてくれましたなかから、すこしばかり選び入れました。
「これは、ピリグリム・プログレスと読みますか、これには挿絵さしえがたくさんございます」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は正三が手紙を書きかけている机のかたわらに坐り込むと、そばにあったヴィンケルマンの『希臘ギリシャ芸術模倣論もほうろん』の挿絵さしえをパラパラとめくった。正三はペンをくと、黙って兄の仕事を眺めていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
道行く人々も、怪奇小説の銅版挿絵さしえにでもある様な、この異様な光景に、思わずハッと立止って、野犬の姿を見送らないではいられなかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
よほど以前の事だが、宇野浩二うのこうじ氏が鍋井なべい君を通じて自分の小説の挿絵さしえを描いて見てくれないかという話があった。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
いつでも持って来ただけの金はここでってしまう春作なのである。これから、火の気もない家へ帰って、一枚ずり彩絵いろえ読本よみほん挿絵さしえを描く気にもなれないのであろう。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ギリシャ神話をぱらぱらめくって、全裸のアポロの挿絵さしえを眺め、気味のわるい薄笑いをもらした。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ゾイリア日報の挿絵さしえで、見ただけです。なに、見た所は、普通の計量器と、ちっとも変りはしません。あの人があがる所に、本なりカンヴァスなりを、のせればよいのです。
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
キリレンコの家は、その丘のふもとに数軒のささやかな文化住宅が向い合って並んでいる中の、一番小さな、でも白壁の色の新しい、ちょっとお伽噺とぎばなし挿絵さしえじみた家であった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この本には挿絵さしえとして沢山の小間絵こまえを入れましたが、いずれも芹沢銈介せりざわけいすけ君の筆になるものであります。これで本文がどんなに活かされているでしょう、感謝に堪えませぬ。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二階のふすまに半紙四ツ切程の大きさに複刻した浮世絵の美人画が張交はりまぜにしてある。その中には歌麻呂のあわび取り、豊信とよのぶの入浴美女など、かつてわたくしが雑誌此花このはな挿絵さしえで見覚えているものもあった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あるいは西洋お伽噺とぎばなしの奇怪な挿絵さしえの様に、或はクリスマスのお菓子製の宮殿の様に、しくも作り上げたものなのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、彼はそのほかにももう一つ楽しみを持ち合せていた。それはあり合せの水絵具に一々挿絵さしえいろどることだった。彼はこの「浦島太郎」にも早速彩色を加えることにした。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今迄親しんで居た哲学や芸術に関する書類を一切戸棚とだなへ片附けて了って、魔術だの、催眠術だの、探偵小説だの、化学だの、解剖学だのの奇怪な説話と挿絵さしえに富んでいる書物を
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ああ、薄命なあの恋人たちはこんな気味のわるい湿地しっちの街に住んでいたのか。見れば物語の挿絵さしえに似た竹垣の家もある。垣根の竹は枯れきってその根元は虫に喰われて押せば倒れそうに思われる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうして代は代を重ね、わざは磨かれ、種目しゅもくえ、これを売る店構みせがまえも大きくまた忙しかったでありましょう。古い本の挿絵さしえなどを見ますと、日本橋附近はその中心で、どんなに栄えたかがしのばれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たとえばこの町にしても、電線と、電信柱と、ペンキ塗りの看板と、ところどころの飾り窓とを気にしなければ、西鶴の浮世草紙の挿絵さしえにあるような町家を至る所に見ることが出来る。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だからその中でもといっているじゃないか? 髪は勿論銀杏返いちょうがえし、なりは薄青いしまのセルに、何か更紗さらさの帯だったかと思う、とにかく花柳小説かりゅうしょうせつ挿絵さしえのような、楚々そそたる女が立っているんだ。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして左下の隅に、虎と熊との大格闘の挿絵さしえまではいっているのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此処の親爺は「新青年」の探偵小説の挿絵さしえなどにある、矮小わいしょう体躯たいくに巨大な木槌頭さいづちあたまをした畸形児きけいじ、———あれに感じが似ていると云うことで、貞之助達は前に彼女から屡〻しばしばその描写を聞かされ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)