微暗うすぐら)” の例文
彭はしかたなしに其所そこへ立ち止った。いつの間にか夕映も消えて四辺あたり微暗うすぐらくなった中に、水仙廟の建物が黒い絵になって見えていた。
荷花公主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
云いたいことを云ってしまった女房は、やっと体が軽くなったので、土間どまへおりて微暗うすぐらい処で、かたかたと音をさしはじめた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、四方あたりが急に微暗うすぐらくなって頭の上のがざざざと鳴りはじめた。大粒の雨のしずくが水の上へぽつりぽつりと落ちて来た。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに三時ごろから降りだした雨は、まだ四時を過ぎたばかりであるのに、微暗うすぐらく陰気で、それやこれやで、とうとうそのまま帰ってしまった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蔦芳は自分にことわらないで、あがりこんでるのは何人たれだろうと思って見たが、夕方で微暗うすぐらいのではっきり判らなかった。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
汚い二階のへやには公園かられて来た女が淋しそうに坐っていた。微暗うすぐらい電燈の光を受けた長手ながてな色の白い顔にはおずおずした黒い眼があった。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
武士はうようにちあがって逃げだして下におり、下駄げたをそそくさと穿いて門の外へ出た。もう外は微暗うすぐらくなっていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
外はまだ微暗うすぐらかったが、さすがに大気は冷えていた。権兵衛は二匹の馬に手荷物を積み、二三の下僚したやくれていた。下僚の中には総之丞もいた。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お杉は三畳の微暗うすぐら茶室ちゃのまへ出て来て、そこの長火鉢によりかかっている所天ていしゅの長吉に声をかけた。それは十時ごろであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
枕頭に点けた丁字の出来た有明の行灯の微暗うすぐらい光が、今まで己と並んで寝ていたと思われるわかい男の姿を照らしていた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微暗うすぐらくなったへやの中に色の白い女が坐っていて、それが左の足をにじらしてうように動いた。と、青い光がきらりと光って電燈がぱっといた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微暗うすぐらい水のおもてに二人の姿が一度浮みあがった時、修験者は池の上に駈けつけることができましたが、このさまを見るとおのれも池の中へ身を沈めました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
大きな樹の幹が微暗うすぐらい中に見えていた。彼は自分は壑の中へ墜ちたが運好く死なずにいるな、と思いだした。そう思うと彼の心に喜びが湧いてきた。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこは隣家の高い二階家に遮られて、東に面した窓口から、わずかに朝の半時間ばかり、二尺くらいの陽が射しこむきりで、微暗うすぐらい湿っぽい家であった。
前妻の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微暗うすぐらい土蔵の中には中央なかほどに古い長櫃ながもちを置いて、その周囲まわり注連縄しめなわを張り、前に白木の台をえて、それにはさかきをたて、その一方には三宝さんぽうを載っけてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
で、それに跟いて往くと、三畳敷位の広い巌窟になって、その下の微暗うすぐらい処に白骨になりかけた死骸がよこたわっていた。胆力たんりょくのある李張はその死骸に近寄った。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
東京の近郊では有名な料理店で木材も大きながっしりしたのを用いてあるが、もう新らしい時代にとりのこされたような建物で、けてある電燈も微暗うすぐらかった。
料理番と婢の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
街の両側にはバラック建の高低の一定しないのきが続いて、それにぼつぼつ小さな微暗うすぐらい軒燈がいていた。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがて登は、月の光のような微暗うすぐらいたへやで女と寝そべって話しているじぶんに気がいた。彼の手には女の手がからまっていた。彼はまた酒のことを思いだした。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何時いつの間にか電燈がいていた。謙作は洋食屋を出る時の物に追われているような気もちは改まって、ゆっくりした足どりになって微暗うすぐら黄昏ゆうぐれ街路まちを歩いていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
岡持おかもちげた女房の体は、勾配こうばいの急な坂をおりて、坂の降り口にあるお寺の石垣に沿うて左へ曲って往った。寺の門口かどぐちにある赤松の幹に、微暗うすぐら門燈もんとうが映って見える。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一行は汚いへやへ通された。クラネクは微暗うすぐらくなった汚い室の中をじろじろと見まわした。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
りガラスの障子しょうじがすこしひらきかけになっていた。もう夕方のように微暗うすぐらい土間には七つか八つの円いテーブルが置いてあって、それに三人ばかりの客が別れ別れに腰をかけていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微暗うすぐらい電燈の下で話していたが、奴さんは入口へ立ってドアたたこうとすると、不思議にいているので、そのまましずかに入って往ったのだ、中の二人はむつまじそうに話しているところへ
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
住居の門口かどぐちらしい微暗うすぐらい燈のした処が、右側に三処みところばかりあった。女はその最後の微暗い燈の家へ、門口の格子こうしを開けて入り、建てつけの悪いその戸をガシャリと閉めてしまった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのは空に薄雲うすぐもがあって月の光が朦朧もうろうとしていた。人通りはますますすくなくなって、物売る店ではがたがたと戸を締める音をさしていた。仲店なかみせ街路とおり大半おおかた店を閉じて微暗うすぐらかった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
政雄は安心してそこの往き詰めの開き戸をけて微暗うすぐら縁側えんがわに出、その見附みつけにある便所の戸を啓けた。と、その時便所の中から出て来たものがあった。政雄はびっくりしてその顔を見た。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
藤棚には藤の花房はなぶさがさがって、その花が微暗うすぐらを受けて白く見えていた。両側の欄干には二三人ずつの人が背をもたせるようにして立ちながら、鼻のさきを通って往く人の顔をすかしていた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ぼつぼついたアーク燈の光に嫩葉わかばの動いているのが見えていた。女は微暗うすぐらい広場の上をあっちこっちと見るようであったが、すぐ左側の木の陰で暗くなったベンチの方へ往って腰をかけた。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
微暗うすぐらい門番のへや燈火あかりが見えた。真暗い空から毛のような霧雨きりあめが降っていた。書生の体はもう耳門くぐりもんから出た。主翁ていしゅもそのあとから耳門くぐりもんを出たが、ほっとしたような気になって心がのびのびした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
行燈あんどんのような微暗うすぐらい燈のある土室どまの隅から老人がひょいと顔を見せた。
おいてけ堀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
哲郎が意識を回復した時には、微暗うすぐら枕頭まくらもとに二人の男が立っていた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜店のうしろ街路とおりには蜜柑みかんの皮やバナナの皮が散らばっていた。哲郎はそこを歩きながら今の女はどこへ往ったろうと思ってむこうの方を見た。むこうには微暗うすぐらい闇があるばかりで人影は見えなかった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私は火鉢へ寄りかかりながら、雨で微暗うすぐらい部屋の中を見廻した。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自個は微暗うすぐらい穴の中に寝ていたがそこには草が生えていた。
崔書生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
諸道具をぎっしり積みあげてある土蔵の中は微暗うすぐらかった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
哲郎は微暗うすぐらい中に立っていた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)