居候いそうろう)” の例文
しかもこの老貴婦人の憐れな話し相手リザヴェッタが、居候いそうろうと同じようなつらい思いをしていることを知っている者は一人もなかった。
科学がキャピタリズムやミリタリズムやないしボルシェヴィズムの居候いそうろうになっているうちは、まあ当分見込がなさそうに思われる。
電車と風呂 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「わたしは居候いそうろうです、わたしも弁信さんも、それから吉田先生も、三人ともにこのお寺の居候で、あの娘さんだけがお寺の人なんです」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
砂糖屋を出てから、いわゆる「主義者」の間を一、二ヶ所居候いそうろうして歩いた揚句あげく、とうとうまたの大叔父の家へ転がり込んだ。
そこには樋口十郎左衛門ひぐちじゅうろうざえもんのような真庭流まにわりゅうの剣客ですらしばらく居候いそうろうとして来て、世が世ならと嘆き顔に身を寄せていたという話も出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「こっちで言いたい言葉じゃ、貴公、山県狂介のところで、下男げなんのような居候いそうろうのような真似まねをしておるとかいう話じゃが、まだいるのか」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
平常ふだんから天地の間に居候いそうろうをしているように、小さく構えているのがいかにもあわれに見えたが、今夜は憐れどころのさわぎではない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大酒家たいしゅかではあり、居候いそうろうは先方がいるなり次第に置きほうだいであったその人の、綾之助は三女に生れ、本名はお園さんである。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕は二度も罹災りさいして、とうとう、故郷の津軽の家の居候いそうろうという事になり、毎日、浮かぬ気持で暮している。君は未だに帰還した様子も無い。
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
一寸したしくじりがありまして、職に離れたものですから、どうにも仕様がなくて、一時のしのぎに、早くいえば居候いそうろうをきめ込んだ訳ですね。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
船長は僕のこの向う見ずな考えを諫止かんししようとつとめたが、僕は高級船員の居候いそうろうを断わって、かの一室を独占することにした。
「僕の標札ひょうさつを門へ出させて戴きたいんです。名刺に書くのに、大谷方では如何にも居候いそうろうのようで具合が悪いというんです」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
堅気かたぎの旦那で納まッているおめえの所へ、迷惑な居候いそうろうだろうが、当分世話になるかも知れない。そのつもりで、ゆっくりと今日はひとつ……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
買出しの方はカチェリーナ自身がどういうわけか、リッペヴェフゼル夫人のところに居候いそうろうしているみじめなポーランド人を助手にして取りしきった。
「なに。払わない。じゃ払わなくてもよろしい。その代り君はこの家の借り手じゃなくなるぞ。君は僕の居候いそうろうだ!」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
居候いそうろうのことでしょ」とおりうが答えた、「あの人も権八をきめこんだわ、あの人こそ本当の権八よ、それであたしすっかり嫌いになってしまったの」
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
聞くところによると、彼はこの邸の居候いそうろうのようなもので、表むきは、村の住人だが、自分の家にいるときよりも、地主の邸の台所にいるほうが多かった。
「ナニサわしは居候いそうろうだ。日本の国の居候で、そうしてこの方の居候だ。……いったいなんだな、お前の身分は?」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先生が居候いそうろうをきめこんでいるこの作爺さんの家には、とんがり長屋の連中が、煩悶、不平、争論の大小すべてを持ちこんできて、押すな押すなのにぎやかさ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ちょうど、居候いそうろうがドンの音をきいて、急にお腹のすいたような感じを起すと同じ意味なのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
……けさもね、ばあやさん、わたしが村を歩いていると、あの店の亭主がうしろからね、「やあい、居候いそうろう!」って、はやすじゃないか。つくづく、つらくなったよ。
その人を使ってマアお寺の居候いそうろうになって居るその中に、小出町おいでまち山本物次郎やまもとものじろうと云う長崎両組りょうぐみ役人で砲術家があって、其処そこに奥平が砲術を学んで居るその縁をもっ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分の食べるだけのものは、自分で儲けて妹夫婦へ払ひ込むと云ふ条件だから、まるきりの居候いそうろうではないが、何かと気が置ける中にゐて、此の猫を飼つてゐるのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そういうと閑子はふんというような表情で、居候いそうろうにそんなことはできぬとつぶやいたりした。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
にわか造りの銅像や、石膏せっこう細工の天才の前での演説が、これほど多い時代はかつて見られなかった。仲間の偉大なだれかへ周期的に、光栄の居候いそうろうどもが饗宴きょうえんをささげていた。
大須賀頼母たのもといって、本家の家中客人分として、三百石の合力米をもらっていた居候いそうろう同然の身分だったが、先年、兄の勝興かつよりが早世したので、不意に千石の旗本におしあげられ
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それでも何か居候いそうろうのような気がして、これが自分の家という感じがしなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
最近、その亀は、下寺町の心光寺の境内に居候いそうろうしていたのだが、その心光寺の本堂が三、四年前に炎上してしまった。しかし不思議にもその亀のいた庫裡くりは幸いにして焼け残ったのである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そこで一泊した翌日、私が、彼のひきとめるままに居候いそうろうをきめこむ気をおこしたのは、父のいない家族内でのわずらわしい自分の役目から、たとえ一時的にせよ解放されたかったためにすぎない。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
致方いたしかたがないから下谷金杉したやかなすぎ島田久左衞門しまだきゅうざえもんという者の宅に居候いそうろうの身の上、尊君そんくんにお目にかゝりたいと思って居て、今日きょうはからず尋ね当りましたが、どうもたいした御身代で、お嬢様も御壮健でございますか
居候いそうろうなりとはいえ、今を時めくABCDS株式国家のC支店長の号令である。それにおどろいて医師は診察鞄をそこに忘れて立ち上ると、部屋附のボーイは、出かかったくさめを途中で停めて部屋を出た。
自分の思いつき一つでハウス流行はやったので、しぜん稼業のことはすっかり一人で支配していて、リンピイは more or less そこの居候いそうろうみたいに、波止場カイスの客引きだけを専門にしていた。
そのうちいずれが主人とも居候いそうろうとも下女下男とも申されませぬ。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
居候いそうろうの書生に主人の先生が示す恩愛です。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
居候いそうろう三ばい目にはそつと出し」
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「お豊さん、お前は、今ここで何をしていた、あの武士さむらいは御陣屋の居候いそうろうじゃ、それとお前は、ここで出会うて不義をしていたな」
アーメン嫌いな人達の中で、時々捨吉が二階へ上って行って祈祷いのりの仲間入をするように成ったは、同じ居候いそうろうの玉木さんをあわれむという心からであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
居候いそうろうの一人が、ついに口を割って、知る限りを喋舌しゃべってしまったものである。——火中から逃げたのは晁蓋と公孫勝。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひどい悪い事を、次々とやらかすので、ついには北さんのお宅の二階に押し込められて、しばらく居候いそうろうのような生活をせざるを得なくなった事さえあった。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この一家は中の弟が家長になって、兄貴の方が居候いそうろうだった。女たちは封筒を張ったり、種々の内職をしていたが、時々男たちは殿様気分を出して威張った。
その中に、一つだけ模様の違う長椅子が、居候いそうろうといった恰好で、部屋の調和を破って、一方の隅にすえてある。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここでいつも彼を取りまき、賞讃しょうさんするのは、大ぜいの馬丁や、厩番うまやばんや、靴磨きや、名もない居候いそうろう連中である。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
方来居の居候いそうろうだといったところで、証拠のない今となってはやたらに踏み込んで行くわけにもゆかない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「何を云うんだい居候いそうろうめ! 江戸あたりからフラフラ来て、俺達の所におりながら、何を偉らそうにほざくんだい! 云わねえ云わねえ、知っていても云わねえ!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は杣口そまぐちの母の実家に帰って来た。けれど、父の家が私の家でなかったように、ここもまた私の真の家ではなかった。私は三界さんがいに家なきあわれな居候いそうろうにすぎなかった。
だから彼は心の奥底では、僕を間借人または居候いそうろう視していて、嫌がらせすることによって僕を追い出そうと試みているのではなかろうか。どうもそんなふうに思われます。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
自分の食べるだけのものは、自分でもうけて妹夫婦へ払ひ込むと云ふ条件だから、まるきりの居候いそうろうではないが、何かと気が置ける中にゐて、此の猫を飼つてゐるのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ほんとうの下宿というのはその町名のめずらしさで、茂緒もおぼえている戸塚源兵衛とつかげんべえの方で、そこで食事まで止められた彼は、本郷の友人の部屋に居候いそうろうをしていたのだという。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
わたしはあの子が可愛かわいくてならんし、あれのほうでもわたしになついてくれるが、だがやっぱり早い話が、あれは自分がこの家の余計もんだ、居候いそうろうだ、食客だという気がするんだ。
ところで私を山本の居候いそうろうに世話をして入れて呉れた人、すなわ奥平壹岐おくだいらいきだ。壹岐と私とは主客しゅかくところえて、私が主人見たようになったから可笑おかしい。壹岐は元来漢学者の才子で局量が狭い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)