じり)” の例文
ミルハはその情人という言葉じりをとらえて、冗談に怒ったふうをした。クリストフはそれ以上何にも知り得なかった。彼はふさぎ込んだ。
ああ、それを二ぜん頼みます。女中はごしのもったてじりで、敷居へ半分だけ突き込んでいたひざを、ぬいと引っこ抜いて不精ぶしょうに出て行く。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうそう、今年の正月、水門じりのお前の家でつかみ合いをやって、あの率八の奴にかんの水を浴びせかけられたきり、会わなかったんだね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言葉じりとらえたり揚足あげあしを取る人ならば、花を好むというは、「戊申詔書ぼしんしょうしょ」のを去りじつくというご趣旨にそむく、違勅いちょく逆臣ぎゃくしんなりなどいうこともあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あたしは震災の幾年か前、ある怪談会が吉原水道じり引手茶屋ひきてぢゃやで催された時にいって、裏の方から妓楼ぎろうの窓を見たことがある。そこにも金網が張ってあった。
玉突きをするのにキューじりのほうを持つ手の手首を強直しないよう自由に開放することが必要条件である。
「手首」の問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこへ行くと幸子の方は、矢張いくらか云いにくそうに言葉じり胡麻化ごまかしはするものの、それでも大阪流のアクセントが余り耳に附かないような技巧を使って
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「明日?」リザヴェータはまだ腹がきまらない様子で、ことばじりをひきながら、もの思わしげに答えた。
お言葉じりのしどけなくなってしまう様子などの可憐かれんさに、源氏は思わずのりを越した言葉を口に出した。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
芸を仕込めば物覚えが悪く、其の上感所かんどころが悪いもんだから、ばちのせいじりで私は幾つったか知れません、おどりを習わせれば棒を呑んだ化物ばけものを見たように突立つッたッてゝしょうが無かったのを
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ガラツ八は敷居の外から、つ立てじりになつて、部屋の中を覗いて居ります。
勘次かんじはじめてこゝろづいて、ねつした唐鍬たうぐはひやさうとして井戸端ゐどばたはしつた。かぎはなれた釣瓶つるべたか空中くうちううかんでゆつくりとおほきくうごいてた。かれながじりにずぶりと唐鍬たうぐはとうじてまた萬能まんのうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
不図又文三の言葉じりから燃出して以前にも立優たちまさる火勢、黒烟くろけぶり焔々えんえんと顔にみなぎるところを見てはとても鎮火しそうも無かッたのも、文三がすみませぬの水を斟尽くみつくしてそそぎかけたので次第々々に下火になって
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
約四千は、そこを離れて、こおろぎ狭間はざまの低地を北方へ出て行った。そして、じりとよぶ高地の東南面に、陣をとった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と彼女は哀れっぽい声でことばじりを引いたが、ふと、『もうみんなまたすっかり仕合せになっている』
八五郎のガラッ八は、あわてて、ひざっ小僧を隠しました。柄にない狭い単衣ひとえ、尻をまくるには便利ですが、真面目に坐り直すと、帆立ほったじりにならなければ、どう工面をしても膝っ小僧がハミ出します。
「あいつが、水門じりで捕方にあげられたのは、てめえ達も知っていように、だれも率八ひとりを伝馬牢から助け出してやる奴が居なかッたのか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「少し不快だった?」とラズーミヒンはことばじりを取った。
ガラッ八はその後ろから、帆立ほったじりになってあおります。
いつか、お綱のいる所は、冷寂れいじゃくとした仏地ぶっちである。吉原じりから千束せんぞくをぬけてきたとすれば、そこは多分、浅草の観音堂。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その万太郎が市ヶ谷の上屋敷を放逐されたのちは、当然一緒に根岸の別荘に移って、主人と共に起居しているべきでありますが、ここは忍川しのぶがわの水門じり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折ふし、勝入の子息紀伊守が、六千の兵をもって、じりへ移動したときなので、その陣容が成るのを待ち、菅沼藤蔵は、そっちへ駈けて行ったのである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、おうむ返しにせきこむ啓之助の言葉じりを取って、三位卿は得意らしく
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急げばとて安治川じりから、三ごうはずれの桃谷村、やや一ときはかかったろう。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)