小腋こわき)” の例文
壺を小腋こわきに道場を出て、ブラブラ帰るみちすがら、あの茫然ぼうぜんと見送っていた萩乃の立ち姿は、左膳のまぶたのうらから消えなかった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ここに、ちょっと注意しなければならぬことは、今まで気がつかなかったが、竜之助はその左の小腋こわきに、物を抱え込んでいることです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
詩人は念のためあんぐり口をけさせてみた。咽喉はジヨンソン博士が大辞典を小腋こわきに抱へたまゝ素通り出来る程広くいてゐた。
屹度きつともなくおなほりでせう。』と、ニキタはまたふてアンドレイ、エヒミチの脱捨ぬぎすてふく一纏ひとまとめにして、小腋こわきかかへたまゝてゝく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ある者は蕃刀をぬき放ち、ある者は鋭利な竹槍を小腋こわきに抱え、息をひそめ、眼を光らせ、頃合いを見計みはからっていたのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
不意ふいを打たれた金将軍は桂月香を小腋こわきに抱えたまま、高いはりの上へ躍り上った。が、行長の投げつけた剣は宙に飛んだ金将軍の足の小指を斬り落した。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だが少年は黙って道を横切ってゆき、草履をぬいで小腋こわきにはさみ、渡り板を渡って三十二号船の中へ姿を消した。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その鞄は紐が短いので、掛けると左の小腋こわきに吊り上がった。幼稚園の生徒のようだった。みんなが笑った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
巨人佐柄木に易々やすやす小腋こわきに抱えられてしまったのだ。手を振り足を振るが巨人は知らん顔をしている。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
ゆっくりとした足どりで、影を踏むように、汚れのない黒の脚絆きゃはん草鞋わらじが動く——いさな引出しつきの木箱を肩から小腋こわきにかけて、薄藍色の手拭てぬぐいを吉原かむりにしている。
(それではうちへ帰りましょう。)と米磨桶こめとぎおけ小腋こわきにして、草履ぞうりひっかけてつとがけのぼった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
段段だんだん攻勢に転ぜざるを得ない気分に成つて大きなコンフエツチの赤い袋を小腋こわきに抱へながら相応に巴里パリイの美人へ敬意を表して歩いたのは、若返つたと云ふより生れ変つたと云はうか
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
子供等はぞんざいに本を包んで小腋こわきに抱え、砂煙を揚げてけ出して行った。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
彼はそこでちょっと力を回復させるために水夫を抱きとめ、それから彼を小腋こわきに抱え、帆桁の上を横木の所まで歩いてゆき、そこから更に檣櫓しょうろまでいって、そこで彼を仲間の人々の手に渡した。
僧は枯枝かれえだ小腋こわきにして帰って来た。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小腋こわきに抱え
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
茂太郎は船の舷上に立って、左の小腋こわきには例の般若の面をかかえたまま、呆然ぼうぜんとして爪を噛んで陸地の方を見つめたままです。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『きっともなくおなおりでしょう。』と、ニキタはまたうてアンドレイ、エヒミチの脱捨ぬぎすてふく一纏ひとまとめにして、小腋こわきかかえたまま、ててく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
だが少年は黙って道を横切ってゆき、草履をぬいで小腋こわきにはさみ、渡り板を渡って三十二号船の中へ姿を消した。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
磯五はそういいかけて、濡れた着物のようになっているお高を、小腋こわきにさらえこんでから、あとをつづけた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこで、彼は、妻子家来を引き具して、白昼、修理の屋敷を立ち退いた。作法さほう通り、立ち退き先の所書きは、座敷の壁にってある。やりも、林右衛門自ら、小腋こわきにして、先に立った。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ある牧師がすつかり上機嫌でいつものやうに、ステツキ小腋こわきに抱へ込んで市街まちをぶらぶら散歩してゐると、ふとみちの片側に乞食が一人衝立つゝたつて、往来ゆききの人にお鳥目てうもくをねだつてゐるのが目についた。
桝を小腋こわきに、ひえびえとうねのしめりを踏んでゆく。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
棒を小腋こわきに引きそばめた臆病おくびょうものの可笑おかしさよ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文之丞は禊橋みそぎばしの滝茶屋で駕籠を捨て、小腋こわきには袋に入れた木剣をかかえ、編笠越しに人目を避けるようにして上って行きます。
病院服びょういんふく下着したぎ上靴うわぐつなど、小腋こわきかかえて。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と言って、自分の小腋こわきにかいこんで来た一個の人間を、一方の駕籠の中に投げ込んで、さて自分はその背後うしろの方へ乗りました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
病院服びやうゐんふく下着したぎ上靴抔うはぐつなど小腋こわきかゝへて。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
女房の荒栲は、縮を小腋こわきに当てて、右の手には竹笠を持って、みのを着て外へ出て行こうとしているところを描いてあります。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実はこの人の小腋こわきに抱えられて、自分が口だけの案内者に過ぎなかったということが、この時、ハッキリわかりました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
無論、杖槍はもう小腋こわきにかい込んでいるのですが、このはるか隔たった雲助霞助を見ると、幾度も地団駄を踏み、歯噛みをしないわけにはゆきません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小腋こわきには同じように三味線の袋に入れたのを抱え、身なりもおつい黄八丈きはちじょう大振袖おおふりそでで、ちがうのは頭に一文字の菅笠すげがさをいただいていることでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
姿は前と同じですけれど、今度は笠をかぶらず、笠の代りに頭から手拭をかけて後ろへ流し、小腋こわきにはやはり袋に入れた三味線をかかえていましたが
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友は、いたちを突いた竿を手に取ってその穂先の鋭いところへ、柱にかけてあった五色の網の袋を差し込んで、それを小腋こわきにすると、とっとと表へ飛び出しました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兵部の娘がさしのべた手をとった茂太郎は、やっぱり般若の面を左の小腋こわきにして立ち上ると、勢いよく
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが、頭巾を目深まぶかにかぶっていたものだからかおはしかとわかりませんでしたけれど、小腋こわきに槍をこうかかえて、すうっと、わたしを抜いて行く後ろ姿に見覚えがある。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もちろんその帰る時も小腋こわきには、伯耆の安綱の箱を抱えて帰ったのでありましたが、それが有野村へは帰らずに、途中でどこへ行ったか姿が見えなくなってしまいました。
両刀を小腋こわきにして、憂鬱極まるおもてをうなだれて、悄々しおしおと縁側の方に歩んで行く姿を見ると、押せば倒れそうで、いかにも病み上りのような痛々しさで、さすがの米友が見てさえ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このかんの働きは、お雪ちゃんとしては見られないほどの早業と、力量とを持っていましたが、それをするともう大丈夫と思ったのか、下へ投げ捨てた薪を、またも小腋こわきにかいこむと共に
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)