対手あひて)” の例文
旧字:對手
人民の行為に対しては司法官の審検あらん。去れど其の対手あひてたる警官の挙動は今まこゝに其の一斑を記述し置くべき必要あらん。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
而して自らの受けたる害をつぐなふことを得るは、甚だ稀なる塲合なり。己れが受けたる害の為に、対手あひてに向つて之に相当なる害を与ふるにあり。
復讐・戦争・自殺 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
人間の威張臭る此娑婆しやばでは泣く子と地頭で仕方が無いが、天国に生れたなら一つ対手あひて取つて訴訟を提起おこしてやる覚悟だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
棒押ばうをしに於ては村内の人民あへて之につものなしと云ふ、一夕小西君と棒押ばうをしを試みしも到底とうてい対手あひてに非ざるなり、此他の諸君も皆健脚けんきやくの人のみ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
対手あひての野牛は力も強く、角も刃物のやうに、とがつてゐるので、とうてい自分達の力の及ばないことがわかりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
が、それ了見れうけんなら、こんな虚気うつけな、——対手あひておににしろ、にしろ、自分じぶん女房にようばううばはれる馬鹿ばかない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『だから土屋君は困るよ。』と丑松は対手あひての言葉をさへぎつた。『何時いつでも君は早呑込だ。自分で斯うだと決めて了ふと、もう他の事は耳に入らないんだから。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして心では、対手あひてに横を向いてわらはれたやうな侮辱を感じた。「畜生! 矢つ張り年をつてるわい!」
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
正直な汝を対手あひてに、この上すねるも罪であろ。乃公から折れて頼むとしやう。さあさあ頼んだ、どこでもよい。そこが否なら、この隅へ、ころりと丸寝をするとしやう。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さう云ふ者を対手あひてに遊ばすと、べつしておたのしみが深いとか申しますが、そのかはりに罪も深いので御座いますよ。貴方が今日こんにちまでたくみに隠し抜いてゐらしつた訳も、それで私能く解りました。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だから、さういふ人間同志は、お互に、対手あひてをかつぎ上げるんだ。しかし、長い間には、自分も疲れる。向うも疲れる。会つても、自分達の問題には触れたくなくなる。それでおしまひさ。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
木賃宿に泊つて居る客を対手あひてにして、近頃の好景気に枕料は段々騰貴して行つた。栄一がアメリカに行く前には、七銭八銭と云つて居たものが、景気のよくなると共に、十五銭、二十銭と値上げした。
二人を対手あひて喋々てふ/\喃々なん/\するだ廿六七なる怜悧れいりの相、眉目の間に浮動する青年は同胞新聞の記者の一人吾妻俊郎あづまとしらうなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
とお志保は問ひ反して、対手あひての心を推量し乍ら眺めた。若々しい血潮は思はずお志保の頬に上るのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いつも唖娘の泣く声の面白さに、さま/″\なことを言つて、唖娘を泣かした意地の悪いお友達も、唖娘が泣かなくなつてから、誰も対手あひてにしなくなりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
吾人は政論家としてもしくは経世家として、この問題を唱道する者にあらず、尤も濃厚なる、尤も着実なる宗旨家として、善く世の道理力と人の正心とを対手あひてとして
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
鎌倉以来の負けじ魂を奮つて「マスチツフ」でも「ブルドツク」でもさア来い。対手あひてになつて見せる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
すで目指めざ美女びぢよとらへて、おもふがまゝに勝矜かちほこつた対手あひてむかふて、らぬつくなひの詮議せんぎめろ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『何さ、ただ、お由かかあに一寸用があるだで。』と、声を低めて対手あひてなだめる様に言ふ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのへんに転つてゐる機会チャンスなんか、拾つてみたところでたいしたことはないと思つてゐるので、女としての自分が、身も魂も打ち込めるやうな一人の対手あひてを、一生かかつてでも探し求めようといふ
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
世話好きな性質を額にあらはして、微な声で口癖のやうに念仏して、対手あひての返事を待つて居る様子。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
然れども、油、犬、両篇を取って精読すれば、溢るゝばかりに冷罵の口調あるを見ざらんと欲するも得べからず。而して疑ふ、彼の冷罵は如何なる対手あひてに向ふて投ぐるつぶてなるや。
うつくしをんな木像もくざうまた遣直やりなほすだね。えゝ、お前様めえさま対手あひて七六しちむづヶしいだけに張合はりえゝがある……案山子かゝしぢやんねえ。素袍すはうでもてあひたま輿こしつて、へい、おむかへ、と下座げざするのをつくらつせえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
対手あひて名代なだい千枚張せんまいばりだから大抵な三十さんちでは中々貧乏揺ぎもしない困り物だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
甲田は何かの拍子で人と争はねばならぬ事が起つても、直ぐ、一心になるのが莫迦臭ばかくさいやうな気がして、笑はなくても可い時に笑つたり、不意に自分の論理を抛出なげだして対手あひてを笑はせたりする。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お前がどんな偉い人になつたにしても、マサか仙人では有るまいわ、近い話が、何か身動きもならぬ程に忙しい中を、斯様こんな何の相談対手あひてにもならぬわしを恋しがつて、急に思ひ立つて来ると云ふも
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
茂作はたいへん力が強く、乱暴者でそれに村でも有名な、なまけ者でありましたので、誰も村の人達は、対手あひてにいたしませんでした。村の人達は、茂作のことを、けむりの茂作と呼んでをりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
先輩の対手あひてにならないのは仕方が無いが後継者あとつぎの若い者までが株屋や御用商人の真似をしたがるから困る。その証拠には貴下あなた、斯ういふ学校出身者で細くとも自分で事業しごとを初めた人がありますか。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「へゝゝゝ、おそれながら御意ぎよいにまかせ、早速さつそくおん対手あひて」と按摩あんまふ。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時代ころは又、村に相応な旅籠屋はたごやも三四軒あり、俥も十輛近くあつた。荷馬車と駄馬は家毎の様に置かれ、畑仕事は女の内職の様に閑却されて、旅人対手あひての渡世だけに収入みいりも多く人気も立つてゐた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
... 恋愛は其対手あひてが承諾を与へた場合に始めて成立する、所謂いはゆる双務契約なんだからなア」と、恋愛法理論を講釈したる彼は、グツと一椀、茶を傾けつ「うも美人てものは厄介極まる、僕は大嫌おほきらひだ、」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)