寸隙すんげき)” の例文
さうするとむきつたあとまめ陸穗をかぼかつしたくちつめたいみづやういきほひづいて、四五にちうちあをもつはたけつち寸隙すんげきもなくおほはれる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あッ——といったのは刀下とうかせんのさけび、どッと、血けむりを立てるかと思うと、必死の寸隙すんげきをねらって、竹童の右手めてがふところをでるやいなや
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
某の語は某の処にのみ用ゐらるるなど規則づくめになりては和歌は今更に発達すべき寸隙すんげきだにあらずなりぬ。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
加うるに意外の寸隙すんげきより凜冽なる寒気と吹雪との侵入はげしきを以て、これを防ぐにわしく到底睡眠せんと欲するもくすべからず、予は時なお十月初めなれば
吾が国に雪吹ふゞきといへるは、猛風まうふう不意ふいおこりて高山平原かうざんへいげんの雪を吹散ふきちらし、その風四方にふきめぐらして寒雪かんせつ百万のとばすが如く、寸隙すんげきあひだをもゆるさずふきいるゆゑ
……白い女体は、こけつまろびつ逃げまわり、寸隙すんげきを見ては、疾風のように男に飛びかかっていった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ことごと窓帷カアテンを引きたる十畳の寸隙すんげきもあらずつつまれて、火気のやうやく春を蒸すところに、宮はたいゆたか友禅縮緬ゆうぜんちりめん長襦袢ながじゆばんつま蹈披ふみひらきて、紋緞子もんどんす張の楽椅子らくいすりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
医学士の挙動脱兎だっとのごとく神速にしていささかかんなく、伯爵夫人の胸をくや、一同はもとよりかの医博士にいたるまで、ことばさしはさむべき寸隙すんげきとてもなかりしなるが、ここにおいてか、わななくあり
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その音楽が強大熾烈しれつで、聴者にいこ寸隙すんげきも与えず、かつて感情の移入を許さなかったことや、採り用いた題材がことごとく神話であり、英雄主義におぼれて、その宿命的悲劇に救いのなかったことなど
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
寸隙すんげきを容れぬ瞬間の印象がよく現れている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
鎌田新介とて、ひとかどのさむらいに間違いなかったろうに、可惜あたらその「いのち」を死にぎわ寸隙すんげきまどわしめたため、逆臣と世間でののしる明智の部下からさえ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾が国に雪吹ふゞきといへるは、猛風まうふう不意ふいおこりて高山平原かうざんへいげんの雪を吹散ふきちらし、その風四方にふきめぐらして寒雪かんせつ百万のとばすが如く、寸隙すんげきあひだをもゆるさずふきいるゆゑ
白い女体は、こけつまろびつ逃げまわり、寸隙すんげきを見ては、疾風のように男に飛びかかっていった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たけつてつかねたやうに寸隙すんげきもなくむらがつて爪先つまさきられてはおびえにおびえた草木さうもくみなこゑはなつてくのである。さうしてもうかねばらぬ時間じかんせまつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ええ、これほどの手配りを破られたか」と、歯軋はぎしりをした天堂一角、樫柄かしえの槍を抱えなおして、疾風のごとく追いかけたが、その寸隙すんげきに十けんほどの隔りができていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その思慮なく、おのれの勇を過信して、一人の剣をわし左右の敵を電瞬でんしゅんに切って捨てたくらいでは、その寸隙すんげきに八面の殺刀が、たちどころに一人の相手を蜂の巣と刺激するに足るであろう。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で——弦之丞はその寸隙すんげきを惜しんだのであろう。周馬へまいる余地のある太刀を、ヒラリと返して横へ駈けるや、そこに仆れていた万吉の縄目を、プツリと斬って孫兵衛と一角のほうを防いだ。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)