夷狄いてき)” の例文
シナや日本のような東洋の君子国にとっては、汽船と同様に西洋型帆船もかつてはすべて「夷狄いてき」のものでしかなかったのだから。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
官吏ともあろうものが夷狄いてきともがらを引いて皇帝陛下の謁見を許すごときは、そもそも国体を汚すの罪人だというような言葉を書きつらね
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
北は、北狄ほくてきとよぶ蒙古もうこに境し、東は、夷狄いてきと称する熱河の山東方面に隣するまで——旧袁紹治下の全土を完全に把握してしまった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よし、その余裕があったからとて、彼の気性では、夷狄いてきの酒なんぞに、この腸を腐らせることをいさぎよしとしなかったかも知れない。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かくの如き優雅と温厚の教訓! 而も船頭達から! 何故日本人が我々を、南蛮夷狄いてきと呼び来たったかが、段々に判って来る。
もし管仲がいなかったとしたら、われわれも今頃は夷狄いてきの風俗に従って髪をふりみだし、着物を左前に着ていることだろう。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして日本の国土をねらう夷狄いてきの悪魔につかれた者、国賊が虐殺されることは当然な正しい制裁だと考えるようになった。
夷狄いてきはわが国土にいつ侵入して来るかわからない、国内は饑饉、政治は乱れ、民の心は幕府をはなれている、眼のある者なら大政を朝廷に還し
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其背後には支那の歴史に夷狄いてきに対して和親を議するのは奸臣かんしんだと云ふことが書いてあるのが、心理上に réminiscence として作用した。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
村塾、礼法を寛略にし、規則を擺落はいらくするは、以て禽獣夷狄いてきを学ぶにあらざるなり、以て老荘竹林ちくりんを慕うに非ざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
戦国時代における夷狄いてきとの混淆こんこうは顕著な事実である。そうして終局において大きい統一に成功した秦はトルコ族や蒙古族との混淆の最も著しい国であった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
えゝやうやく四五にちまへかへりました。ありやまつた蒙古向もうこむきですね。御前おまへやう夷狄いてき東京とうきやうにや調和てうわしないからはやかへれつたら、わたしもさうおもふつてかへつてきました。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だから、大観すれば、支那人にとっては印度は彼らの生活と交渉のない僻遠の地であり、夷狄いてきの国であった。
外国の人を見ればひとくちに夷狄いてき夷狄と唱え、四足にてあるく畜類のようにこれをいやしめこれをきらい、自国の力をも計らずしてみだりに外国人を追い払わんとし
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
孝孺の言に曰く、君たるに貴ぶ所の者は、あに其の天下を有するをわんやと。又曰く、天下を有してしかも正統に比す可からざる者三、簒臣さんしんなり賊后ぞくこう也、夷狄いてき也と。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
氏は又印度インド人の歌を評して「夷狄いてきがくです」とも日本語で云ふのであつた。自分達は次のも柏亭さんと小林萬吾さんとを誘つてこの酒場キヤバレエへ行つた。(七月四日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その不平や、夷狄いてきの真似をするのは怪しからぬという憤慨やらで、門閥家の方から反対の声が起った。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
二千年来伝わった日本人の魂でさえも、打砕いて夷狄いてきの犬に喰わせようという人も少なくない世の中である。一代前の云い置きなどを歯牙しがにかける人はありそうもない。
津浪と人間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「仏が何んだ、仏教が何んだ。要するに夷狄いてきの宗教じゃないか。日本には日本の宗教がある。かんながらの神道じゃ! 我輩の奉ずる古神道じゃ!」——それは白髯はくぜんの老人であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夷狄いてきは□□よりもいやしむべきに、かしこくも我が田鶴見の家をばなでう禽獣きんじゆうおりと為すべき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
黒船の帆影が伊豆の海を驚かしてから、世の中は漸次しだいにさわがしくなった。夷狄いてきを征伐する軍用金を出せとか云って、富裕ものもちの町家を嚇してあるく一種の浪人組が近頃所々に徘徊はいかいする。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『お前は日本人か。』『ハイ日本人でなければ何です。』『夷狄いてき畜生ちくしょうだ、日本人ならよくきけ、君、君たらずといえども臣もって臣たらざるべからずというのが先王の教えだ、君、 ...
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
きみらは夷狄いてきのまねをするか、日本の文字が右から左へ書くことは昔からの国風である、日本人が米の飯を食うことと、顔が黄色であることと目玉がうるしのごとく黒く美しいことと
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
血相を変えて戻って来るが早いか、『母上、申訳ございません。夷狄いてきの病気に犯されました』と言って切腹しようとしたそうです。要するに神風連というのはこんな豪物えらぶつの揃いでした。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
外国人は夷狄いてきであり、奴隷であるとの蛮風が、今日なお日本に存在しているのであるならば、それらの人間には、右に述べた私のことばなどは、さだめし意に満たないものがあるであろう。
今度の日露の戦争だってそうだ、日本には神の道に通じているものがいるから、夷狄いてき露西亜ロシアに勝ったのだ、鉄砲を打ったり、人を殺すことが豪かったから、勝ったと云うわけのものでない
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
井伊大老は夷狄いてきを恐怖する心から慷慨こうがい忠直の義士を憎み、おのれの威力を示そうがために奸謀かんぼうをめぐらし、天朝をも侮る神州の罪人である
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして日本の国土を狙ふ夷狄いてきの悪魔にかれた者、国賊が虐殺される事は当然な正しい制裁だと考へるやうになつた。
北方の夷狄いてきに備える梁中書りょうちゅうしょが下の常備軍も数十万と聞えるだけに、その物々しさなど、他州の城門の比ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御前のような夷狄いてきは東京にゃ調和しないから早く帰れったら、わたしもそう思うって帰って行きました。どうしても、ありゃ万里の長城の向側むこうがわにいるべき人物ですよ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
王子入城の時に二重橋の上で潔身みそぎはらいをして内に入れたことがある、と云うのは夷狄いてきの奴は不浄の者であるからおはらいをしてたいを清めて入れるとう意味でしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夷狄いてきに失うべからず、但し章程を厳にし、信義を厚うし、その間を以て国力を養い、取り易き朝鮮、満洲、支那を切随え、交易にて魯墨に失う所は、また土地にて鮮満にて償うべし
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
神の御罰は恐ろしけれど、私如き漂流の夷狄いてきを師父として待遇遊ばさるるあなた様の知己のご厚恩を無にすることは尚出来ず、心を決してこの絵図面を作りましたる次第にござります
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうむきになるなよ、おれは貴公の説を蒙味と云ったのじゃない、誰をもさして云ったんじゃない、むやみに夷狄いてきを討てという、理非を弁ぜずただ夷狄を撃攘げきじょうしろという説は蒙昧だというんだ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「桓公が武力を用いないで諸侯の聯盟に成功し、夷狄いてきの難から中国を救い得たのは、全く管仲の力だ。それを思うと、管仲ほどの仁者はめったにあるものではない。めったにあるものではない。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この時の航海のことは尾佐竹おさたけ氏の『夷狄いてきの国へ』の冒頭にくわしい。
咸臨丸その他 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「そりゃ君、今日こんにちの外国は昔の夷狄いてきの国とは違う。貿易も、交通も、世界の大勢で、やむを得ませんさ。わたしたちはもっとよく考えて、国を開いて行きたい。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
孔子様は世の風俗の衰うるをうれえて『春秋』を著し、夷狄いてきだの中華だのと、やかましく人をほめたり、そしりたりせられしなれども、細君の交易はさまで心配にもならざりしや
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遼西、遼東は、夷狄いてきの地とされている。かつて体験のない外征であった。ために、軍の装備や糧食の計には万全が尽された。戦車、兵粮車だけでも数千輛という大輜重隊だいしちょうたいが編制された。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天文のむかし夷狄いてきは鉄砲をもたらしただけだが、今かれらはあらゆる科学文明の成果をひっさげて来ている、いたずらに撃ち払い令を出しただけでは、もはやかれらは黙ってひきさがりはしないのだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
没海五大藩を任じて夷狄いてき掃攘に当らせるか
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「半蔵さん、攘夷なんていうことは、君の話によく出る『からごころ』ですよ。外国を夷狄いてきの国と考えてむやみに排斥するのは、やっぱり唐土もろこしから教わったことじゃありませんか。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はこの天水郡冀城きじょうの人で、姜維きょういあざな伯約はくやくという有為ゆういな若者です。父の姜冏きょうけいはたしか夷狄いてきの戦で討死したかと思います。ひとりの母に仕えて、実に孝心の篤い子で、郷土の評判者でした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夷狄いてきを討つ……先生が仰しゃるのは……それは蒙昧もうまいの説だ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)