名代みょうだい)” の例文
なにしろ光国が肝腎の物語りをしないで、喜猿の鷲沼太郎とかいうのが名代みょうだいを勤めるという始末ですから、まじめに見てはいられません
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
は、私はちっとも急ぎませんけれど、今日は名代みょうだいも兼ねておりますから、はやく参ってお手伝いをいたしませんと、また菅子さんに叱言こごと
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「不つつか者ですが、主人因幡守様の名代みょうだいとして、てまえ丹羽兵蔵夫婦が、お媒人役なこうどやくつとめまする。何なと御用仰せ下さるように」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間もなく、半蔵のあとを追って、伏見屋の鶴松つるまつが馬籠の宿しゅくの方からやって来た。鶴松も父金兵衛きんべえ名代みょうだいという改まった顔つきだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「親分の留五郎が、上がりますはずでござんすが、取り混んで居りますため、手前名代みょうだいで、とりあえずお報せに伺いやした」
賄賂こそこの時において彼らに自由を与うべけれ。けだし自由競争禁断の社会においては、賄賂は実に自由競争の名代みょうだいとなる場合ありと知らずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
只大臣の服には、控鈕ぼたんあな略綬りゃくじゅはさんである。その男のにはそれが無い。のちに聞けば、高縄の侯爵家の家扶が名代みょうだいに出席したのだそうである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
尤も一と頃倫敦ロンドンの社交夫人間にカメレオンを鍾愛しょうあいする流行があったというが、カメレオンの名代みょうだいならYにも勤まる。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
茂次は父の留造の名代みょうだいで来ている。この土地の「波津音はつね」という料理茶屋の普請で、大留がいっさいを請負った。
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私が帰りかけたら、新造しんぞうのおばさんがほかの妓を呼んで遊んでゆけと勧めた。勧められて私はその気になった。名代みょうだいに出てきた妓はつまらない女だった。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
名代みょうだい部屋には割床わりどこを入れるという騒ぎで、イヤハヤお話になったものでございませんが、お客様がそれで御承知遊ばしていらっしゃるも不思議なものでげすな。
もっと詳しくいえば、御名代みょうだい殿下も、先程御到着になって、その御接待で天テコ舞いしている時であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
親分の銭形平次の名代みょうだいで、東両国の伊勢辰いせたつでたらふく飲んだ参会の帰り途、左手に折詰をブラ下げて、右手の爪楊枝つまようじで高々と歯をせせりながら、鼻唄か何か唄いながら
三ツばかり先の名代みょうだい部屋で唾壺はいふきの音をさせたかと思うと、びッくりするような大きな欠伸あくびをした。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
また御老中の名代みょうだいに、駿府すんぷの御城代が立寄るといううわさもあるし、それらの接待の準備や、また先日の流鏑馬やぶさめの催しについての跡始末やなにかの相談もあるのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男のない私のうちでは、私が名代みょうだいで皆と一緒に、叔父を停車場に見送りにいった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「伊作は、よんどころない用事があるっていいますから、あたしがご名代みょうだい
野萩 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ここにおいて一国衆人の名代みょうだいなる者を設け、一般の便不便をはかって政律を立て、勧善懲悪かんぜんちょうあくの法、はじめて世に行わる。この名代を名づけて政府という。その首長を国君といい、附属の人を官吏という。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「伊賀の名代みょうだい、おもてを上げい」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
岩倉少将(具定ともさだ)、同八千丸やちまる具経ともつね)の兄弟きょうだい公達きんだちが父の名代みょうだいという格で、正副の総督として東山道方面に向かうこととなったのである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
風邪かぜぎみのため、招状あるやすぐ、叔父の賀相よしすけ、老臣の三宅治忠みやけはるただ名代みょうだいとして、加古川城へつかわし、いろいろ献策したところ、秀吉は
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともかくも一旦兵庫屋へ来て、花魁の様子を見届けて、ほかの座敷であっさりと飲んで、それから帰るとも名代みょうだいを買うとも勝手にするがいい。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
野郎一生の運が向いて、懐をはたいた、芸妓げいしゃ、女郎にれられたってそうは行かない。処を好き自由にだっこに及んで、夜の明けるまで名代みょうだいなしだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし今日の予は、御病身の兄君陛下の御名代みょうだいを承る身、一切のことすべて、予の自由には任せぬ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
黄門様のお微行しのびであるとか、お大名の名代みょうだい、聖堂の先生とでもいった経歴がありますと、みんな感心して聞くんでございますが、なあに、あいつは百姓だ、百姓が何を言うと
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
斯うなってはお座敷が長く容易に引けませんので、花里は気が気ではありません、海上を寐かせておいて直ぐ伊之吉の名代みょうだいへ参ろうとぞんじても、これでは果しがつかないから
「いまいる山形屋とは手紙の遣り取りが続いていたんだ、それでおれが名代みょうだいでくやみにいって来たんだが火事のとき傷めた腰が治らず、そこの骨から余病が出て、とうとういけなくなったということだ」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なまじい番頭さんなぞが顔を出すよりも、わっしが名代みょうだいに出かけて行って、ざっくばらんにお葉に当たってみた方が無事かと思いますが……」
「——若殿。ただ今、佐々木道誉どのの名代みょうだいと申す女性が、お祝いの品々を持って、ご挨拶にと、お越しなされましたが」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾張藩主(徳川慶勝よしかつ)の名代みょうだい成瀬なるせ隼人之正はやとのしょう、その家中のおびただしい通行のあとには、かねて待ち受けていた彦根の家中も追い追いやって来る。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(一所に登楼あがるぜ。)と手を引いて飛込んで、今夜は情女いろおんなと遊ぶんだから、お前は次ので待ってるんだ、と名代みょうだいへ追いやって、遊女おいらんと寝たと云う豪傑さね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「王室からは、国王陛下の御名代みょうだいとして、スヴェン・フィリップ・殿下が、おいで遊ばして……」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
てんで将軍様をめてやがるんだぜ、この前、江戸から、ソラ、中根何とかいう大目附がお使番として長州へ乗込んだろう、あの時、お前、幕府のお使番といやあ、将軍様の名代みょうだいだろう
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兄の名代みょうだい一寸ちょっと念のめにおとゞけにまいりました
藤吉はそれを聞いて、兄弟分のよしみに、おれが名代みょうだいを勤めてやろうと云うので、こいつが金蔵に代って、三甚を付け狙うことになったのです。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大垣おおがきまで、筑前の名代みょうだいとして、使いに行ってこい。正使には、浅野弥兵衛やへえをつかわす。弥兵衛についてまいるのじゃ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「叔父さん、今日は吾家うち阿父おとっさんも伺うはずなんですが……伺いませんからッて、私が名代みょうだいに参りました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
名代みょうだい部屋の天井から忽然こつねんとして剃刀が天降あまくだります、生命いのちにかかわるからの。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「中の郷元町もとまちの御旗本大月権太夫様のお屋敷へ伜の名代みょうだいとして罷り出まして、先ごろ納めましたるお道具の代金五十両を頂戴いたしてまいりました」
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「秀長。こんどの四国攻めには、ひとつ、おことがわしの名代みょうだいをして渡ってみい。——秀次も、手伝え。秀長をたすけて」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう半蔵は考えて、庄屋としての父の名代みょうだいを勤めるために、福島の役所をさして出かけて行くことにした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「昨日の御飛札ごひさつにより、井上河内守の名代みょうだいとして、山屋敷与力よりき佐脇仙十郎、お蝶の身がら受収りに参上いたしました」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将軍は病気、京都守護職の松平容保まつだいらかたもり忌服きぶくとあって、名代みょうだいの横山常徳つねのりが当日の供奉ぐぶ警衛に当たった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
就きましては、お前が名代みょうだいに出て何かのお話を申し上げろということでございましたが、無学のわたくしが皆さま方の前へ出て何も申し上げるようなことはございません。
一切は奉行名代みょうだいの第一与力よりき王正おうせいという者が係となって処置された。ところがこの王正は毛家の女婿むすめむこにあたる者。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利兵衛は主人の名代みょうだいに見送りに来たと云った。小僧の音吉は奉公人一同の名代であると云った。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
名代みょうだいども。人夫一同に代ってこれへ出たからは、云いじいたしておっては、折角、何の意味もなすまい。望むことなり、日頃の不満なり、何なりと申したててはどうか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本部屋にいた吉助は勿論、名代みょうだい部屋にいたお駒の客ふたりは高輪の番屋へ連れてゆかれた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
名代みょうだい部屋に寝ていた他の二人も、やはり主人あずけで無事に下げられたとのことであった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本陣には名代みょうだいを置いて、自分はひそかに前線の先手さきてに立ち交じって直接に下知をしていたというような例はいくらもあるから、信玄にしても、常備八人の影武者はどうか分らないが
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)