合槌あいづち)” の例文
文代さんはもう合槌あいづちをうつことができなかった。何かしらえたいの知れぬ恐怖が、背筋に迫ってくるようで、身動きもできなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その用事が、片付くと客は、取って付けたように、政局の話などを始めた、父はしばらくの間、興味の乗らないような合槌あいづちを打っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だからやっぱり悦ちゃんの家と僕の家とは最初から縁があったんだよ、と云うと、ほんとうにね、と、光代が傍から合槌あいづちを打って
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
或者は火に手をかざしたまま、くすぶる煙に眼をしばだたいている。さもなくば酒を温めながらこれに合槌あいづちを打って陽気にするばかりだ。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それとも聞くふりをして聞いていないのか、かたちだけ合槌あいづちを打ちながら、もっぱら酒の燗と酌をすることにかかっていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ほんとにろくなばんじゃねえ。人の子一ぴきつかまえなかった。腹の虫がグーグー鳴るわい。」と外の家来が合槌あいづちを打った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
段々進んで三千代が金を借りに来た一段になっても、やっぱりへえへえと合槌あいづちを打つだけである。代助は、仕方なしに
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いってのけるのに倉地が興に入って合槌あいづちを打つので、ここに移って来てから客の味を全く忘れていた貞世はうれしがって倉地を相手にしようとした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
千寿というのが合槌あいづちを打って、それとなく花桐の顔を見た。しかし花桐は顔をそむけ何んともそれには答えなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かえって有望かも知れないとか、そういったことをしきりに話しあったが、次郎はただ道づれをしているというだけで、ほとんど合槌あいづちさえうたなかった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「道楽に身を持崩して、東海坊の弟子になり、大法螺おおぼら合槌あいづちを打ってトウセンボウとか名乗ったんだろう」
わたくしは、尚もこの弟をいゝ鴨にして、合槌あいづちを打ってみたりかまをかけてみたり、少しは逆毛さかげに撫でゝみたりして、先生の家のことを喋らせるように仕向けます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いまの三鷹の家にいても、訪客はさまざまの感想を述べてくれるのであるが、私は常にはなはだいい加減の合槌あいづちを打っているのである。どうでも、いい事ではないか。
無趣味 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「わかります!」と警部は、探偵小説家の途方もない想像力でけむにまかれながら、合槌あいづちをうった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
耳にひびいて来る相手の語気によって、礼をうしなわぬ程度には合槌あいづちも打っていたが。ときには言葉の意味も聞えていたと見えて、ごもっとも——と首をふったりしていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「わたくしなぞには歌のことなんか分りっこはございませんが、そうっしゃられれば、好い歌は好いと思われますね。」老刀自はしかたがなさそうに合槌あいづちを打つのである。
合槌あいづちうって「すこし、変ですね」と言えば、あなたも「ほんとうにつまらんわア」中村嬢は
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
……僕は、うるさいから、あいつの云うことは一々「そうだ、そうだ」って合槌あいづちを打ってやってはいるけど、実際この頃のあいつの云ってることはさっぱりわけが分らないんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
気違に相違ないと合槌あいづちを打つに、引込まれるとは知らず萬助までが長二を悪くする積りで、正気の沙汰でないと申しますから、奉行は心の内でひそかに喜んで、一同に念を押して
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そうだったね、散歩のついでによくこの前を通りかかると、感じのいいおじいさんとおばあさんがいつも二人でヴェランダに出て本を読み合っていたっけなあ。」私も合槌あいづちを打った。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
先刻の青年は合槌あいづちをうち、感にたえたかニヤリとした。三人の青年が、にわかに好奇の目をかゞやかして、彼の風采を上から下まで眺めはじめたのである。彼はまだ一言も喋らなかった。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
示寂の前夜、侍僧に紙を求めて、筆を持ち添えさせながら、「即心即仏、非心非仏、不渉一途、阿弥陀仏」と大書たいしょしたと云うのである。玄浴主は、いかさま禅浄一如の至極境、と合槌あいづちを打つ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
しかし私は奥山の人奥山君を知っているが、同君も義理で少々は合槌あいづちを打つがよく聞くとただ淋しい一山村というに過ぎぬようである。地図で見ても奥山は天竜の水域でさして僻遠へきえんの地ではない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
法螺忠のそんな大業な見得に接しても至極自然な合槌あいづちを打てる松どもも、また自然そうであればあるだけ心底は不真面目と察せられるのだ。彼らは、何か選挙運動に関する思惑おもわくでもあるらしかった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「そ、そりゃアそうですけど。」と、合槌あいづちをうちました。
で、台所頭の老人の口に、彼も合槌あいづちを打って
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「度胸だね」と今一人の客が合槌あいづちを打った。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と祖母も合槌あいづちを打って、岩下一家を恨んだ。
と、私は無意味に合槌あいづちを打って
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
わたくし一人だと買物をするのに何だかきまりが付かなくって困りますのよ。表面うわべだけでもいゝからいゝとか何とか合槌あいづちを打って下さる方が欲しいのよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二合の燗徳利を四本あけるまで、参太にはわけのわからないことを、休みなしに独りで饒舌しゃべり、独りで合槌あいづちを打っていた。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そういう左内のつぶやきの声を紋也は耳に止めはしたが、合槌あいづちを打とうとはしなかった。しかし心では考えていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戸外の天気もその心持ちに合槌あいづちを打つように見えた。古藤はうまく永田から切符をもらう事ができるだろうか。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ええ」と素気そっけなく云い放つ。きわめて低い声である。答を与うるにあたいせぬ事を聞かれた時に、——相手に合槌あいづちを打つ事をいさぎよしとせざる時に——女はこの法を用いる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ、あいまいにその外国通の秘密のささやきに合槌あいづちを打ち、もっぱら鳥鍋に首を突込んでばかりいた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
明智は例の、青年時代からの癖で、モジャモジャに伸ばした髪の毛の中へ、右手の五本の指をくしのように突っ込みながら、時々合槌あいづちを打って、非常に熱心に聞き入っていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
用人の村川菊内は少し苦々しいのを我慢して、精一杯合槌あいづちを打っております。この辺で御意ぎょいに逆らうと、いきなり「——仲へ行けッ——」と言い出さないものでもありません。
それに合槌あいづちを打っているもう一人の婦人は、汗のため厚化粧のお白粉しろいがぶちになって、ところどころに小皺こじわのある、荒れた地肌が出ているのから察すると、恐らく四十近いのでしょう。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また落着いたしゃがれ声にかえり「しかし、実際女の選手ってだらしがねエな」と村川をかえりみれば、村川も即座そくざに、「じッせえ、女流選手っていうのは、なっちゃいないね」と合槌あいづちを打ちます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
示寂の前夜、侍僧に紙を求めて、筆を持ち添へさせながら、「即心即仏、非心非仏、不渉一途、阿弥陀仏」と大書たいしょしたと云ふのである。玄浴主は、いかさま禅浄一如の至極境、と合槌あいづちを打つ。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
伊「合槌あいづちを打って旨く云ってる、花魁と番頭新造は極って居るぜ」
「ウン、そりゃ面白い」と星宮理学士が、すぐ合槌あいづちをうった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とも一人が合槌あいづちを打つのです。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
新子は、思いがけない言葉に、ふと相手の心の底をのぞいたような気がして、合槌あいづちにこまって、だまって相手を見ていると、準之助氏はつづけて
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「云えたもんじゃあないよねえ」こう合槌あいづちをうつのが聞えた、「——それも二十にもならない若さでさ、よっぽど胆が太いかすれっからした女なんだね」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次は黙ってその先をうながしました。合槌あいづちを打つとどこまで脱線するかわかりません。
と私も、お母さまの和田の叔父さまに対する信頼心の美しさに負けて、合槌あいづちを打ち
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
音吉は、彼もやっぱり、さっきの美人解体術を見ていたかの様に、合槌あいづちを打った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
芝居の話もくわしく、知ったか振りをしたぼくが南北なんぼく五瓶ごへい、正三、治助じすけなどというむかしの作者達の比較ひかく論をするのに、上手な合槌あいづちを打ってくれ、ぼくは今夜はまさに自分の独擅場どくせんじょうだなと得意な気がして
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「鷹は帰っては来ますまい」弥三郎はすぐに合槌あいづちを打って
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)