のぼ)” の例文
「近頃ののぼさんの句のうちでは面白いわい。」と何事にも敬服せない古白君は暗に居士の近来の句にも敬服せぬような口吻こうふんを漏らした。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
残燈もろくも消えて徳川氏の幕政空しく三百年の業をのこし、天皇親政の曙光漸くのぼりて、大勢にはかに一変し、事々物々其相を改めざるはなし。
子曰く、ゆうしつ(雅頌に合せず)、奚為なんすれきゅうが門に於てせん。門人子路を敬わず。子曰く、由は堂にのぼれるも、未だ室に入らざるなり。(一五)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ここにおいて黒雲おおい闇夜のごとし、白雨はくう降り車軸のごとし、竜天にのぼりわずかに尾見ゆ、ついに太虚に入りて晴天と為る
小桶からは湯気ゆげが立ちのぼっている。縁側えんがわを戸口まで忍び寄って障子を開く時、持って来た小桶を下に置いたのであろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ある日学士は、やはりこんな事を考えて、梯子はしごのぼって来た。戸口から這入って見ると、女が次のに、青い顔をして、手を組み合せて立っている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
性理字義せいりじぎ』に曰く、『生死をもって論ずれば、生は気のしん、死は気のくつ。死の上について論ずれば、すなわち魂ののぼるは神となり、魄のおりるは鬼となる。 ...
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
法皇のつはものは騎馬にて門の傍に控へたり。門の内なる小き園には五色の紙燈をり、正面なる大理石階には萬點の燭を點せり。きざはしのぼるときは奇香衣を襲ふ。
から透して見れば、ボスポルスの水が青く光つてゐる。黒い嘴細鴉はしぼそがらすがばたばたと飛んで澄み切つた空高くのぼる。多分僕はまづい事は言はなかつただらう。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
数人すにんの船頭は河原の木ぎれを拾ひ集めて、火を焚き附けた。焔は螺旋状によぢれて、暗い空へ立ちのぼる。
椅子に螺釘留ねじくぎどめにしてある、金属の鍪の上に、ちくちくと閃く、青い焔が見えて、鍪の縁の所から細い筋の烟が立ちのぼって、肉の焦げる、なんとも言えない、恐ろしい臭が
故に之を名づけて目利真角嘉和良めりまつのかわらと謂ふ。年十四歳の時、祖母天仁屋及び母真嘉那志に相随あいしたがひて、ともに白雲に乗りて天にのぼる。後年屡〻しばしば目利真山に出現して、霊験を示す。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その鍋より立ちのぼる蒸気の中に種々の形象を現ず。尾長猿の牝鍋の傍にうずくまり、鍋の中を掻き廻し、煮え越さぬやうにす。尾長猿の牡と小猿等とはその傍に蹲り、火に当りゐる。
その時張廷栄ちょうていえいという、県尹けんいんが新たに任について、ちょうのぼったところで、一疋の猴が丹※たんちの下へ来て、ひざまずいてさけんだ。張廷栄は不思議に思って、隷官れいかんに命じて猴の後をつけさした。
義猴記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
天寒のつよきよわきとによりて粒珠つぶの大小をす、これあられとしみぞれとす。(ひようは夏ありそのべんこゝにりやくす)地のかんつよき時は地気ちきかたちをなさずして天にのぼ微温湯気ぬるきゆげのごとし。天のくもるは是也。
のぼり降りは階段や廊下の長さで大抵其れ位に考えられる。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
のぼさん、どうおした。」と聞いた。この時余の顔と居士の顔とは三尺位の距離ほかなかったのであるが、更に居士は余を手招きした。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
九郎右衛門の目は大きく開いて、眉が高く挙がったが、見る見る蒼ざめた顔に血がのぼって、こぶしが固く握られた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かへりて後僅かに半月、或は母鶏の背にのぼり、或は羽をくゞりて自から隠る、この間言ふ可からざるの妙趣ありて余を驚破せり。細かに万物を見れば、情なきものあらず。
くもあたゝかなる気を以て天にのぼり、かの冷際れいさいにいたればあたゝかなるきえて雨となる、湯気ゆげひえつゆとなるがごとし。(冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず)さて雨露あめつゆ粒珠つぶだつは天地の気中にるを以て也。
そんならりておいでなさい。のぼっておいでなさいと6275
丁度わたり一尺位に見える橙黄色たうわうしよく日輪にちりんが、真向うの水と空と接した処から出た。水平線を基線にして見てゐるので、日はずんずんのぼつて行くやうに感ぜられる。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ハハハハ」と非風君は悲痛なような声を出して笑い、「おいのぼさん(子規居士の通称)泳ごうや。」
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(天使等ファウストの不死の霊を取り持ちて空にのぼり去る。)
僕は人の案内するままに二階へのぼって、一間ひとまを見渡したが、どれもどれも知らぬ顔の男ばかりの中に、ひげの白い依田よだ学海さんが、紺絣こんがすり銘撰めいせんの着流しに、薄羽織を引っ掛けて据わっていた。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その出来て来たのを見れば、数人がんでのぼることを得る程堅牢であつた。此雛段は久しく伊沢の家にあつて、茶番などの催さるゝ毎に、これに布を貼つて石段として用ゐられたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
廿四日卯時に発し、朝霧てうむはれんとするとき、筑摩川の橋を渡る。此より浅間岳を望む。烟ののぼる焔々たり。此川おほいなれども水至て浅し。礫砂至て多し。万葉新続古今雪玉集みなさゞれ石をよみたり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)