“千代(ちよ)” の例文
それでも筆と紙がいっしょにならない時は、撮んだ顎を二本の指で伸(の)して見る。すると縁側(えんがわ)で文鳥がたちまち千代(ちよ)千代と二声鳴いた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おしいことをしたなあ」と、団長をはじめ、留(とめ)じいさんもお千代(ちよ)さんも、正坊(しょうぼう)も五郎も、馬の死がいをとりまいてなげきました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
私の祖父を里正津下市郎左衛門(つげいちらうざゑもん)と云つた。旧家に善くある習(ならひ)で、祖父は分家で同姓の家の娘を娶(めと)つた。祖母の名は千代(ちよ)であつた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
砂山に生え交(まじ)る、茅(かや)、芒(すすき)はやがて散り、はた年ごとに枯れ果てても、千代(ちよ)万代(よろずよ)の末かけて、巌(いわお)は松の緑にして、霜にも色は変えないのである。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「千代(ちよ)経(へ)よとまだみどり児にありしよりたゞ住吉の松を祈りき」「頼みては久しくなりぬ住吉のまつ此度はしるしみせてよ」
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まだ女学校に通っているらしい、髪を束髪(そくはつ)にした娘の半身像で、その裏には「興録さま。取り残されたる千代(ちよ)より」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お母さまは、ネルの着ものに、青いこうもりをさして、千代(ちよ)をつれて、そこいらへ買ひものにいきなぞしました。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
お糸は早くから気に入りの女中お千代(ちよ)と自分の部屋に籠(こも)ってしまいましたが、いかに警戒が大事でも、日本橋小町と謳(うた)われた十六娘の寝室に押し込んで
千代(ちい)ちやん彼(あれ)は何(なん)だ学校(がくかう)の御朋友(おともだち)か随分(ずゐぶん)乱暴(らんばう)な連中(れんぢう)だなアとあきれて見送(みおく)る良之助(りやうのすけ)より低頭(うつむ)くお千代(ちよ)は赧然(はなじろ)めり
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
帰ろうと思ったのですが、それがみょうですよ、やっぱりどうかしてたのですよ、そこは時どき往ってますから、婢(じょちゅう)も知ってるのですよ、お千代(ちよ)と云う婢が
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼の著として伝わっている『仮名性理(かなせいり)』あるいは『千代(ちよ)もと草(ぐさ)』は、平易に儒教道徳を説いたものであるが、しかし実は、彼の著書であるかどうか不明のものである。
千代(ちよ)という十九の娘がございます、至って親孝行で、器量といい品格といい、物の云いよう裾捌(すそさば)きなり何うも貧乏人の娘には珍らしい別嬪で、他(た)から嫁に貰いたいと云い込んでも
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あそこに千代(ちよ)ヶ坂(さか)というのがありましてな、八石平(はっこくだいら)からあちらは、女は忌(い)んで、通ってはならぬことになっているのを、千代という若い女の方が強(し)いて通りましたところ、翌日になると
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その夫と蹈舞することを許さないというのはなぜだろう。千代(ちよ)をちぎって一身も同じとまでいう夫婦だから。夫婦同士(どし)だきついておどってこそ。面白くも楽しくもありそうなものなのに。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「ええ、います。あなたのご紹介(しょうかい)でやとった千代(ちよ)という娘のことでしょう。」
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「とう——とうたらりたらりらア——。所(ところ)千代(ちよ)までおわしませエ——。吾等も千秋(せんしゅう)侍(さむ)らおう——。鶴と亀との齢(よわい)にてエ——。幸い心にまかせたりイ——。とう——とうたらりたらりらア……」
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
初めて聞いた俳人の名は加賀(かが)の千代(ちよ)という名前でその句は
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一、 朝顔に釣瓶(つるべ)取られてもらひ水 千代(ちよ)
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
 千代(ちよ)もへぬべき心地(ここち)して………
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
千代(ちよ)をもかくてあらましを
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
千代(ちよ)にかはらぬ道をとくかな
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
千代(ちよ)の松原
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
三重吉の小説によると、文鳥は千代(ちよ)千代と鳴くそうである。その鳴き声がだいぶん気に入ったと見えて、三重吉は千代千代を何度となく使っている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天魔太郎(てんまたろう)、妹月子(つきこ)、それにお千代(ちよ)と虎吉(とらきち)をくわえた少年少女四人に、大猿の次郎坊(じろうぼう)一匹、伝馬町の大牢へと、嵐のなかをおよぐようにたどりつきました。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こゝに居(ゐ)るよお千代(ちよ)や阿母(おつか)さんだよいゝかへ解(わか)つたかへお父(とつ)さんもお呼申(よびまを)したよサアしつかりして薬(くすり)を一口(ひとくち)おあがりヱ胸(むね)がくるしいアヽさうだらう此(この)マア汗(あせ)を
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると、ダンスをおわったお千代(ちよ)さんが、うすももいろのスカートをひらひらさせて、舞台うらへひきさがってきました。つぎは、くまのクロが出る番になっていました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そして、翌日(あくるひ)になったところで、生憎(あいにく)とどしゃぶりの雨になって、それがその翌日も続いたので、旅僧はしかたなく逗留(とうりゅう)することになったが、娘の千代(ちよ)は、日一日と旅僧になじんで往(い)った。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おうちには、千代(ちよ)といふ小さな女中がゐました。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
宝暦(ほうれき)九年に登勢が二十九歳で女(むすめ)千代(ちよ)を生んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
市(いち)が栄(さか)へて千代(ちよ)やよろづよ
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
こらせし母(はゝ)も水初穂取(みづはつほと)りに流(なが)し元(もと)へ立(た)ちしお福(ふく)も狼狽敷(あはたゞしく)枕元(まくらもと)にあつまればお千代(ちよ)閉(と)ぢたる目(め)を開(ひ)らき。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ドアのむこうにお千代(ちよ)さんの顔を見つけだすと、正坊はとびあがってよろこびました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「おまえたちも知っているはずだ。お城大工の棟梁、泉田筑後のむすめお千代(ちよ)だ」
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)