きざみ)” の例文
中を開けて見ると、粉煙草が少々、薩摩さつま國府こくぶでもあることか、これはきざみの荒い、色の黒い、少し馬糞まぐそ臭い地煙草ではありませんか。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
我朝はいふに及ばず、天竺てんぢく震旦しんたんにも是程さほどの法滅有るべしともおぼえず、優填うてん大王の紫磨金しまごんみがき、毘首羯摩びしゆかつま赤栴檀しやくせんだんきざみしも、わづかに等身の御仏なり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
友禅模様の羽二重の着物とチャンチャンコを着ているが、髪の毛はきざみ煙草のような薄い亜麻毛で、子供が絵に塗る空の色のような、すき透った青い眼をしていた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
開かれ其後自身に戰場せんぢやうへ向はれし事なく木曽義仲公きそよしなかこう追討つゐたうきざみは御舍弟範頼義經兩公達きんだちに命ぜられ宇治瀬田の二道より進で一戰に木曽氏を討亡うちほろぼし續いて兩御舍弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きざみ煙草をもう一かん買って来て貰うことにして、てストーブを囲んで、落ちついてふかし初めた。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
が、大牛おほうしる、つまとらはれたしろである……よしそれ天狗てんぐでも、らすところでない。こゝ一刀いつたうろすは、かれすく一歩いつぽである、とさはやかに木削きくづらして一思ひとおもひにきざみてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
満枝はたちまち声ををさめて、物思はしげに差俯さしうつむき、莨盆のふちをばもてあそべるやうに煙管きせるもてきざみを打ちてゐたり。折しも電燈の光のにはかくらむに驚きて顔をあぐれば、又もとの如く一間ひとまあかるうなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
御坊ごばうこそくせをいだしてふねこぎ玉ふらめ、おとたかししづかにいへ、幽霊を見るともかまへて音をたて玉ふな、といひつゝ手作てさくとて人にもらひたる烟草たばこのあらくきざみたるもやゝすひあきて
彼は毎日、汚れた浅黄の手拭で頬冠りをして、使い古した、柄に草木の緑色が乾着いている、刃先の白いつくしを担いで、鉈豆煙管なたまめきせるきざみ煙草を燻しながら、芋蔓の絡んでいそうな、籔から籔と覗き歩いた。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
うまし契のこまやかにたとしへもなきこのきざみ
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おもつたばかりで、そのばんつかれてた。がつぎは、もうれいによつてられない。きざみと、まきたばこを枕元まくらもと左右さいうに、二嬌にけうごとはべらせつゝも、このけむりは、反魂香はんごんかうにも、ゆめにもならない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「この煙草を用いてから、とんと悩みを忘れた。がじゃ、荒くとも脂がありとも、ただ強いのを望むという人には決してこの煙草は向かぬぞ。香味あって脂が無い、抵当流れのきざみはどうじゃ。」
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)