きゃん)” の例文
藍微塵あいみじんあわせに、一本独鈷どっこの帯、素足に雪駄せったを突っかけている。まげの形がきゃんであって、職人とも見えない。真面目に睨んだら鋭かろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女はを過した酒のために平素のつゝましさを取り失って、そんなことを云う言葉の調子がまるでおきゃんなお転婆娘のようであった。
そりゃああたしがおきゃんだからだけれども、先生の小間使いですもの、そりゃどうしたって診察所との交渉が多いわよ。ええ、こりゃ漢語よ。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この陽気でおきゃんな女の一皮下には、妙な悲劇的な情緒じょうちょのあるのを、平次はまざまざと見せつけられたような気がしたのです。
縹緻よしでおきゃんで、思いやりがふかく、誰にも可愛がられ大事にされていながら、その裏側ではそういうおそろしい経験をしていたのである。
やはり秀八のずば抜けた緻容きりょうと、きゃんな辰巳肌のうちに、どことなく打ちしめっているやつれの美しさが、通船楼で見た時から受けたつよい魅力であった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃ、わたし、やってみるわ!」とおきゃんなスパセニアがまず、上衣うわぎを脱ぎ始めました。誘われてジーナも笑いながら、無言で上衣を脱ぎ始めるのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
といいかけてまず微笑ほほえみぬ。年紀とし三十みそじに近かるべし、色白くかおよき女の、目の働き活々いきいきして風采とりなりきゃんなるが、扱帯しごききりりともすそを深く、凜々りりしげなる扮装いでたちしつ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが一人ひとり違ったタイプと服装で、ちょいとした若奥様みたいなのや、良家の令嬢と言ったのや、おきゃんな女学生風なのや、白エプロンの女給々々したのや
寡言ことばすくなにして何事も内気なる浪子を、意地わるきね者とのみ思い誤りし夫人は、姉に比してややきゃんなるいもとのおのが気質に似たるを喜び、一は姉へのあてつけに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ウン……この妹の方は姉と違ってチョットおきゃんなところがあるようだが、なおも言葉を続けていわくだ……しかし妾のこうした計劃は余り利き目がありませんでした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
若宮八幡の宮司ぐうじの娘さん、とてもすっきりしているそうですが、おきゃんで、人見知りをしないそうです。大林寺の裏方は、もうちょっと背が高くなければいけません……
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すこぶるおきゃんで口先の達者な女友だちと連れだっていたが、パーヴェル・パーヴロヴィチがこの友だちをひどく煙たがっていることは、一目でそれとわかってしまった。
浜田屋の亀吉は強情と一国いっこくと、きゃんで通った女であった。豪奢ごうしゃの名に彼女は気負っていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おゆみは妹たちより際立って美しく、勝ち気でおきゃんなところはあったが、思いやりのふかい性分で、みんなに好かれた。
二十二三でしょうが、存分におきゃんで、この上もなく色っぽくて、素顔に近いほどの薄化粧が、やけな眼隠しに崩れたのも、言うに言われぬ魅力です。
なんだかはしたないことをしたように気がとがめて、お綱は、きゃんにも似ず、その時、恥かしい気に責められもした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而已のみならず、乙姫様が囲われたか、玄人くろうとでなし、堅気かたぎでなし、粋で自堕落じだらくの風のない、品がいいのに、なまめかしく、澄ましたようで優容おとなしやか、おきゃんに見えて懐かしい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてやっとのことで、湖の水門のあたりまで辿たどり着きましたが、まったく私にはもう、窈窕ようちょうも凜々しさもおきゃんしとやかさも何もかもが、一切合切区別つかなくなってしまいました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
しもぷくれで——と申したら、皆様はよく下町型の美しい、少しばかりおきゃんな娘の様子を想像して下さることでしょう。
伊藤青年とは七つ違いの今年十八で、みどりの下の二字だけ取って「ドーリイ」と呼ばれているおきゃんな女学生だ。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただきゃんな肌あいの中に、い人情と強い恋を持つ深川のにおいが、なまめかしく、自分を絵の中につつみこんで、波の音までが享楽きょうらくに和しているかと思われた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
挙止とりなりきゃんにして、人をおそれざる気色けしきは、世磨よずれ、場慣れて、一条縄ひとすじなわつなぐべからざる魂を表わせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首をかしげたのは、忘れもしないガラッ八にけさした娘、なるほど桃色の啖呵たんかぐらいは切りそうなおきゃんな娘です。
お綱がうわべにまとっている、はりだのきゃんだの意気地だの、そんな虚勢きょせいはみんな脱がして裸のお綱にしてみせる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美人たおやめのこの姿は、浅草海苔のりと、洗髪と、おきゃんと、婀娜あだと、(飛んだりねたり。)もちょっと交って、江戸の名物の一つであるが、この露地ばかり蛇目傘じゃのめの下の柳腰は
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうか、さすがにおきゃんなてめえも、すこウし凄くなってきたのだろう。素直に折れるなら今のうちだ。歯ぎしりしてもおれの女、けて添ってもおれの女。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天井には犬張子いぬはりこの、見事大きなのが四足よつあしをぶら下げて動きもせず、一体りッ放しのおきゃんで、自転車に乗りたがっても、人形などは持ってもみようと思わないたちであったのが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お屋敷風とも町家風ともつかぬ、十八九の賢そうな瓜実顔うりざねがお、どこかおきゃんなところはありますが、育ちはいらしく、相応に美しくも可愛らしくもあるうちに何となく品があります。
お絹は始終うつ向いて、黙り込んで居りますが、それは町娘らしい、おきゃんと柔順さと、賢さと無知と、矛盾した性格を巧みにあしらった、まことに愛すべき存在らしく見えました。
「へえ、あんなきゃん気質きだてのおかみさんでも、うらないなどを観てもらいに行きますかね」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「暑い、暑い。」と腰紐こしひもを取る。「暑いんだもの。」とすらりと脱ぐ。そのしろさは、雪よりもひきしまって、玉のようであった。おきゃんで、りんとしているから、いささかもみだりがましい処がない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不思議な美しさを持った娘——おきゃんで柔順で、賢くて無知で、顔の道具の揃わないのが、反って一種の魅力になって居た矛盾だらけの江戸娘は、自分をあやめた者の名も言わずに、一刻一刻
お燕は、きゃんな声を出して、母の肩につかまり、一緒になって笑いこけた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十幾人のこどもは、将軍家斉の濫倫の産物で、中には碌でもないものもありましたが、末の娘の京姫は美しくもあり悧発りはつでもあり、その上少しおきゃんで勝気で、冒険的な気質さえ持って居りました。
酔っぱらいが、酔っぱらいを、おきゃんな声で呼びたてていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはまた恐ろしいおきゃん